朝日ジャーナル1981327日号 列島診断欄

釜ヶ崎に冷たい北風と警察官の視線

“校内暴力”についての論議が世上をにぎわせているが、少し過剰ぎみではないかと思う。特に警察の張り切った介入ぶりにはある危惧すら感じる。

とはいえ、教師や家族・本人に問題がないとはいえない。社会の構成員それぞれが、より自律的に生活をきりまわす努力を続け、国家・警察の役割を極小の範囲に押しとどめることが、自由社会を維持し、より完成に近付けていく要件なのだから。

私の住む町、釜ケ崎に、労働看が自律的に生活との問題を解決しようというさまざまな動きがある。夏祭りとか越冬闘争などが今のところ目立っているが、それらの労働者の自律的な動きがより発展・充実していくことこそ、自由社会の内実がより豊かに、強固になっていくことだと思う、にもかかわらず、校内暴力騒ぎと同じく、釜ケ崎においても、警察が過敏とも思われる介入をすることがある。

朝6時 ふとん上げ(医療センター前)・日刊『えっとう』配布/8時半〜9時半 医療券発行・医療センター→市立更生相談所へ/9時 たきだし(市民館前の公園)/1時 たきだし/7時 たきだし/8時 ふとんしき/10時 夜間医療パトロール(おにぎり配布)

これは越冬期間中の一日のスケジュールである(801225日・『えっとう』)

一日三回のたきだしは、昨年6月、『朝日新聞』「声」欄への一婦人の投書をきっかけに、全国各地から200万円を超えるカンパが寄せられた「釜ケ崎炊き出しの会」を中心に、「釜ケ崎結核患者の会」、「釜ケ崎地域合同労組」などで結成された越冬闘争実行委員会がおこなったが、常時、3人から6〜7人の私服警官の監視を受けていた。

釜ケ崎日雇労組・争議団その他釜ケ崎内外の団体で結成されたもう一つの第11回越冬闘争実行委員会は、労働者が冬季一時金の中から自発的にカンパした81万円で、夜間パトロール、おにぎり配布、医療センター下での野営設定、医療券発行、もちつきなどをおこなった。常に私服警官の監視を受けたことはたきだしと同じだが、釜ケ崎から少し離れた所にグラウンドを借りて野球大会をおこなったときなどは、パトカーがグラウンドまでついてくるという念の入れようだった。

キリスト教釜ケ崎越冬委員会(協友会、KUIM、地域研)は、二つの越冬実行委双方と協力し、たきだし、夜間パトロールなどに参加するとともに、独自の活動もおこなった。

このように、全国各地の市民や釜ケ崎の労働者のカンパと参加で運営される「越冬」が、常に警察の監視の対象となることには首をかしげざるをえない。監視以上のこととなれば、なおさらである。

毎年、医療センターの好意で、その軒下にふとんを敷いて野営をおこなっているが、その場所にシノギヤ(自分の生活をシノグために他人を襲う輩)が出没することが過去にあったので、今年は不寝番を立て、あるいはシノギヤにやられたと聞けば、飛び出していっては犠牲者をより少なくするための努力を続けた。一面では警察の肩代わりともいえる。

通称三角公園で労働者が腹を刺されるという事件が起きたときには、西成署直轄警ら隊が立て続けに二度も情報を求めてきたが、普通に協力した。その直後に、常に監視にくる私服警官4〜5人が、身分を明らかにすることなく“Nはおるか”と乗り込んできた。その態度に反発して“なんで協力せなあかんの”というと“なんじゃ、こら”の一カツ。とても民間協力に対する態度とは思われない。

ようやく春を迎え、釜ケ崎でも春闘が闘われようとしている。労働者の自律的な動きが、警察の偏見によって妨害されるようなことがあってはならないと考える。(くぼ としあき・鉄筋工)