(8)相談の「結果」の割合と年齢構成

 

 野宿生活者巡回相談事業は、野宿状態にある人々から、生活、健康、悩み等を聞き取り、生活実態及びニーズを把握して、相談により野宿から他の生活への移行の手立てを探り、その実現に向けて支援を行うものであると理解される。

 相談と結果は、単純に図式化すると図Aのような関係になると考えられるが、これまでの実績では、それぞれの割合はどのようになっているのであろうか。「要望無し」が極端に多かった「依頼無しグループ」と「依頼有りグループ」では、相談結果にどのような差異を見せているのであろうか。今後を見通すためにも検討は必要であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 巡回相談員の記録には、「措置記録」をまとめたものがある。その記録が、相談の結果(一時的なものを含めて)を示している。今後の検討は、その記録に基づいておこなう。ただし、「措置」という言葉は、巡回相談員が直接措置をおこなう権限を持っているという誤解を生じるおそれがあるので、本稿では使わず、「結果」を使用する。巡回相談員は、野宿生活者と相談した結果に基づいて、決定権のあるもの(健康福祉センター・医療機関等)に相談した上で、結果を伝えられるに過ぎないからである。

 「結果あり」は、全体の42.7%であり、57.3%については結果の記録がなかった(表8-1)。もっとも、巡回相談事業は継続中であるから、あくまでも、本年8月末までの実績ということである。

 「結果有り」の中で、「依頼無しグループ」のしめる割合は、37.0%であった。

 

 

 

 

別の表現をすれば、「依頼無しグループ」は、25.8%について「結果」があったに過ぎないが、「依頼有りグループ」は、69.6%も「結果」に結びついている(表8-2)。

 

 

 

 この結果は、当然といえるかもしれない。「依頼無しグループ」は、「要望無し」が多数であったのであるから、「要望」がなければ、相談しようもなく、結果も出しようがないということは容易に考えられることである。

 依頼の有無・結果の有無を組み合わせると、「依頼有り・結果有り」、「依頼有り・結果無し」、「依頼無し・結果有り」、「依頼無し・結果無し」の4グループができる(表8-3)。

 

 

表8-3 4分類

 

以下に示す表や図の「無し・有り」は、前が「依頼の有無」、後ろが「結果の有無」を示す。

 4グループと「結果無しの合計」、「結果ありの合計」を、年齢区分別に集計すると、表8-4のようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

▲図8-1 年令区分・依頼と結果の有無 ▼依頼の有無別年齢構成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8-1の「結果無し計」と「結果有り計」の年齢構成は、図8-2「依頼の有無別年齢構成」と見比べると明らかに、「結果無し」と「依頼無し」、「結果あり」と「依頼有り」と は、年齢構成がにている。

「依頼無し」よりも「依頼有り」のほうが、「結果あり」の割合が、極めて高かったのであるから、予想された結果であるといえる。しかし、年齢区分(図8-3)で見て、自立支援センター入所勧奨主軸の巡回相談で、40歳台において「結果」に繋がっているものが、5割であり、50歳代ではそれより下がっていることを確認するとき、要望の傾向から予想された範囲ではあるけれども、やはり、驚きを新たにせざるを得ないし、巡回相談に「欠落感」を感じざるを得ない。60歳以上の結果無しの多さは、目を覆うばかりである。巡回のルート以外で、居宅保護に繋がっているという確証は持てない。

▼図8-3 年令区分・依頼結果有無構成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再度、確認すれば、巡回相談事業は継続中の事業であり、現在も相談継続中のケースがあって、明日、「結果」が記録されるかもしれない。それにより、「結果」の割合は上昇するかもしれない。

しかし、それは、「新規」が全く増えなければという前提が必要であるし、また、何らかの要因で、「要望無し」が「要望有り」に転化し、巡回相談員が、対応できる選択肢を確保しきっているという状況が出現しなければ、現実のものとは成り得ないと考えられる。今、大阪市内で野宿状態にある全ての人々が、自立支援センター入所を要望したとして、施設の定員からして対応できないことは明らかであるし、他の対応策も、現状ではまずないといいえる状況であることは確かである。

 それでも、「相談体制と相談数」で見たように、巡回相談員が、新規面接だけでなく、再面接を重ねており、その中で「結果」が出たものもあるのであり、それを無視することはできないであろう。

 今までの区分をさらに、「再面接有り無し」を加えて整理すると図Bのようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全体で見て、「新規面接のみ」よりも、「再面接有り」の方が多く、「依頼有り」と「依頼無し」では、「依頼有り」のほうが、再面接にいたる割合が多い。「結果」についてみれば、「依頼無し」、「依頼有り」ともに、再面接したグループのほうが、結果に多く結びついている。

これを、巡回相談員の努力の結果と見ることもできるが、本当にそうであるかどうかは、「要望」との関係を加えて検討する必要があるだろう。「要望」に答えるために再面接が必要である手順となっていれば−たとえば、自立支援センター入所希望者の初回面接、意思確認のための2回目の面接、あるいは、自立支援センターへ送り届ける日の再面接−、当然、結果と再面接は結びついて、「新規面接結果あり」よりも、占める割合は多くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図Cは、先の図Aの数字を、各グループ内での「要望無し」の数に置き換え、各グループ内で占める割合を示したものである。

 総数11,546人の内、要望無しは4,313人(37.4%)。再度確認しておけば、「要望無し」の占める割合は、先に紹介した1999年聞き取り調査の「行政への要望無し」18.6%の約倍であり、2003年国調査の「行政への要望無し」26.9%よりも高い。この原因が、依頼有りグループと依頼無しグループの自立支援センター整備後に作り出された「違い」によるものであるらしいことは先に検討を加えた。

 さて、「要望無し」は、「結果あり」グループにも含まれており、特に、依頼無し・再面接結果ありグループには、27.4%も含まれている。これは、ニーズなき者のニーズを引き出した、巡回相談員の効果といえるかもしれない。しかし、それは、「結果無し」に含まれる「要望有り」よりも大きな割合ではない。

依頼有りグループを例にとれば、「新規面接結果無し」の内、26.7%は要望がなかったのであるから、結果無しはやむを得ないとして、残り要望のあった73.3%は、どのような理由で結果に結びつかなかったのかは、検討に値する課題であろう。最も多く要望無しが含まれている依頼無し・再面結果無しグループにしても、34.9%は、要望を伝えながら、結果にたどり着いていない。巡回相談員の手が足りず対応できないということもあろうが、それだけであるかはどうか、やはり検討が必要であろう。検討の上、人員配置の問題だけであると結論が出れば、問題解決のめどはつきやすくなる。

 どのような要望が、結果に結びつきにくいのか、どのような人が、要望がなかったにもかかわらず結果に結びついたのか。以降、具体的なケースを交えながら検討を加えることにする。

 その前に、くどくなるようであるが、「年齢構成」で述べた「自立支援センター入所適格者」への偏向がここでも確認できるかどうかを検証するために、小さなグループ単位での年齢構成を確認しておくことにする(図8-4・表8-5)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲図8-4 ▼表8-5 年令区分・依頼有無・再面有無・結果有無別集計

 

 

 

 

 

 

 

 「N」は「依頼無しグループ」、「A」は「依頼有りグループ」。

 おおむね想定の範囲であるが、「依頼無し・再面接・結果あり」グループがやや予想外の傾向を示している。高齢者の割合(60歳以上)が、他の「結果ありグループ」よりも多く、40歳以下の割合が少ない。また、「依頼有り」にもかかわらず、「結果無し」に40歳以下の割合が、「依頼無し」の「結果無し」の40歳以下の占める割合よりも高いのも、予想を裏切っている。自立支援センター入所の意志が、説明を聞いて変わったということであろうか。

「結果あり」の中に存在した「要望なし」のグループの年齢構成を見ると、図8-5・表8-6になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼表8-6 「結果あり」中「要望なし」の年齢構成 ▲表8-6の図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 格別要望は無かったけれども、相談し、結果に結びついたということになる。

 仮に、60歳以下を自立支援センター適格者とし、それ以上の年齢については、福祉的援護を要する対象と区分すれば、「依頼有りグループ」は、新規面接、再面接ともに、自立支援センター7に対し、社会的援護を要するものは3の割合であるといえる。

 「依頼有り」の中の自立支援センター適格年齢者については、自身で自立支援センター入所の要望を持って、行政窓口におもむき、巡回相談員への連絡を頼むというケースのみをこれまで前提としていたが、そうではなく、当人が必ずしも望んだわけではないが、「通報」によって巡回相談員が相談に出向いたというケースも存在するということを、「結果有り」の中に存在する「要望なし」の年齢構成を見ることによって確認することができる。

 福祉的援護を要する高齢者については、当人の要望に関わりなく、見るに見かねての「通報」が多いであろうことは、充分予測されることである。

 「依頼無し」グループの新規面接のみで結果に結びついている「要望無し」は、際だった特徴を示している。50歳代が不自然に少ない。それを補うかのように、再面接では50歳代の割合が平均レベルまで回復している。この年代の、自立支援センター入所勧奨が、困難であることを示しているように思える。