(3)野宿生活巡回相談事業の内容

 

 野宿生活者相談事業とは、具体的にどのような内容を持つものであろうか。「平成17年度野宿生活者巡回相談事業計画書」によれば、野宿生活者巡回相談事業の基本的事項は、5点あげられている。5点目は、計画書に疑義が生じた場合の取り決めであるから、4点ということになる。

 

基本的事項

(1) 大阪市野宿生活者巡回相談事業実施要項に基づき、野宿生活者対策の一つとして市内各所を巡回して、道路、公園等で起居するものに対し、生活、健康、悩み等の相談を実施し、生活実態及びニーズを把握することにより野宿生活者の自立の支援を行う。

(2) 巡回相談により面接をした野宿生活者のうち、就労による自立が見込まれるものについて、自立支援事業実施要項(略)に基づき、自立支援センターへの入所依頼を行うものとする。

(3) 巡回相談により面接をした野宿生活者のうち、福祉的援護が必要な高齢者、病弱者等については、保健福祉センター等関係機関と連絡・調整の上、対応するものとする。

(4) 巡回相談事業の実施にあたっては、道路・公園管理者、保健福祉センター、自立支援センター、医療関係機関等との連携が必要であることから、業務手順にあわせた柔軟な対応を行うものとする。

 

 基本的事項を実施する為の業務内容は、11点あげられているが、入手した資料では、11点目を判読することができなかった。

業務内容

(1) 市内の公園・道路等を巡回し、野宿生活を送るもの(自立支援センター退所後の再野宿者も含む)に対する生活、健康、就労、悩み、要望等の面接相談に関すること。

(2) 相談結果の調書作成に関すること。

(3) 生活実態、要望等の集約、並びに今後の施策の参考となる資料の作成、提言等に関すること。

(4) 自立支援事業実施要綱に基づき、自立支援センターへの入所依頼に関すること。

(5) 高齢・病弱者等福祉的援護が必要と判断される野宿生活者の当該野宿生活地を所管区域とする保健福祉センター、医療関係機関はじめ各関係機関と連絡・相談・調整及び対応に関すること。

(6) 野宿生活者に対し、求人情報の提供、帰郷希望者に対する帰郷先との連絡等の支援、年金受給等の手続き助言、指導等に関すること。

(7) 面接相談等に係る、施設管理者、保健福祉センター等関係機関との情報交換、連携に関すること。

(8) 自立支援センターへの入所、医療関係機関との連携による受診、福祉施設等への入所となる野宿生活者の各施設への搬送、付き添い及び事務手続き等に関すること。

(9) 野宿生活者に対する健康相談、衛生指導並びに巡回相談、精神保健相談事業の事前相談に関すること。

(10) その他、業務の立案、調整に関すること。

 

 上記相談事業の業務を図にまとめると、事業図 1のようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図を見て明らかなことは、巡回相談事業に従事する相談員が、市内各所で出会った野宿生活者と面談し、相談して野宿生活者のニーズを把握した後、自立支援のためにできることは、決定権を持つ関係先に、依頼・連絡・相談すること、あるいは支援・助言・情報提供することであって、巡回相談員あるいは巡回相談事業として単独の裁量でなしえることが存在しないことである。

相談員と相談する野宿生活者が、互いに相談した結果選択された野宿から他への移行の手立ての現実化については、第三者の判断に委ねられることになっている。

 これは特段指摘するにあたらないことかもしれない。相談事業とは、元々そのようなものだと・・・・。そうかもしれない。相談した結果の現実化を委ねる第三者が、第三者的立場でなく、「ホームレス対策」をよく理解して、齟齬無く対応してくれるとするならば、何ら問題とするにあたらないであろう。

 しかし、「福祉的援護」のほとんどは生活保護法による措置に限られると考えられ、巡回事業が生活保護法を担当する保護課でなくホームレス自立支援課のもとで実施されている体制で、連携はうまくいっているのであろうか。

 もともと、福祉行政は、「現場王国」の様相がある。特に大阪の生活保護行政ではそうであるように見受けられる。

 生活保護は、当人の申請を待って、ケースバイケースによって要否が判定される。この段階では、第三者の介入は排除される。また、大原則はあるものの、類型化された適用基準はないものとされ、個々の事例が重視されることは、個々の事例を間接に聞くことになる上級機関も意見を差し挟みにくくなると考えられる。

大阪市保護課は各区保健福祉センター支援運営課を指導・内部監査する立場であるが、具体的な措置事例までは口を挟まない慣例であるようだ。各区の担当課長を集めての会議はあるが、必ずしも各区横並び的な措置の実施確保には結びついていないようである。ホームレス対策と保護行政の連携を確保するといっても、現場で、「ホームレス」を特別扱いする根拠はない、同じ50歳台の失業者が相談にきても押し返しているのだから、と考えれば、連携の実はあがらないことになる。

 野宿生活者巡回相談事業を検討するについては、このことをよく踏まえ、大阪市の事業として実施されているけれども、実態としては、民間有償ボランティアの活動であること、それに伴う限界を最初から持つ事業であること、この2点を考慮しておかなければならないと考える。

 先に提示した「事業計画書」から導き出された図は、基本であるが、実務的にはややことなっている。就労自立を目指すものと、福祉的援護が必要なものに別けて図で示すと事業図2及び3のようになっているようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の図と違う大きな点は、「巡回相談事業」ではあるが、野宿生活者と出会うにあたって、必ずしも巡回だけというわけではなく、公園や道路を管理する部署や各区保健福祉センター(旧福祉事務所)や民間団体等から依頼を受けて、相談員が派遣され、面談が始まるというケースが加わっていることである。

また、相談員が自立支援センターに入所依頼しても、入所枠等の関係で、必ず受けてもらえる保証はなく、入所依頼が、最悪の場合宙に浮くこともあるということである。

そして、入所までが巡回相談員の仕事であり、入所後は、関わりを持つことはない。再野宿で出会う場合は、別であるが。

 

 福祉的援護を要するものの図式は、十分な情報を得ているわけではないので、推察によっている部分が多い。相談室の点検が必要かもしれないが、とりあえず提示しておく。

 
 

 大阪市のホームレス対策・あいりん対策でいう「福祉施設」には、大阪市が「大阪市立保護施設条例」によって設置している大阪市立のものと民間社会福祉法人のものがある。これまで、「大阪市立保護施設条例施行規則」によって、大阪市の条例施設には、原則として更生相談所から送られたものしか入所できなかった。しかし、本年8月、「大阪市立保護施設条例施行規則」第8条が削除され、更正施設については、生活保護法の規定による保護施設であるから、生活保護法の措置を行う各区保健福祉センターからも送ることができるようになった。

参考:条例施設−救護・更生施設(大阪市立淀川寮)、救護施設(大阪市立港晴寮、大阪市立第2港晴寮)、更生施設(大阪市立大淀寮)。民間−大阪自彊館、今池平和寮。

 (注)ここでいう福祉施設は、生活保護法でいう施設保護対象施設(救護・更正施設)をいい、法外援護として提供される「ケアセンター」、また、医療保護以外は適用されない自立支援センターは含まない。今後の記述で「福祉施設とある場合」は同じ。

 

「野宿生活者の自立支援フロー図(案)」は、昨年末に開催された「大阪市野宿生活者(ホームレス)対策に関する懇談会」で、新たに舞洲自立支援センター1・2が開所することに伴って自立支援の流れが変わることを説明するために配布されたものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自立支援センター舞洲1には、自立支援センター(従来型)と違い、巡回事業対象者の3分類の一つ「医療や福祉等の援護が必要な者」の受け入れが想定されていることに気付く。相談事業が、生活保護法の措置権者との間で「苦戦」している部分を組み込んだことになっている。

また、自立支援センター入所希望者は、原則として「舞洲1」に入所し、そこから各自立支援センターへ再入所することとなった。

入所要件は、従来、巡回相談員の就労自立可能との判断であったが、「舞洲1」開所後は、「就労する意欲がある」あるいは、「就労による自立を望む」という当人の主観・願望を含むことになり、必ずしも相談員の判断と一致しなくとも入所できることとなったようである。

 「野宿生活者の自立支援フロー図(案)」には、保健福祉センターとの連携矢印が見えるが、民間福祉法人が実施を担っている巡回相談事業とよりも、大阪市の外郭団体が実施を担っている自立支援センターとの方が、連携矢印が太くなっている。この差はあまり望ましい現象とはいえないが、ありえることとして、しかし、現実に、「医療や福祉等の援護が必要な者」を巡ってのホームレス対策と生活保護行政の連携が、舞洲1ができたことによって、巡回相談事業単独以上に強くなっているかどうかは、これまでの経緯からして疑問が残る。今後の検証が求められるところである。