(2)大阪市のホームレス対策

 

 巡回相談事業の検討に入る前に、大阪市事業評価システムに基づいて200510月に公表されている「事業分析(経過報告)ホームレス・あいりん」により、大阪市の野宿生活者対策の枠組みを確認しておくことにする。

(大阪市ホームページ「大阪市経営企画室・平成17106日記者会見配布資料(バス事業等34事業)−事業分析タイプC・所管局 健康福祉局・事業番号21・事業名 ホームレス・あいりん−」)

 

「事業分析−ホームレス・あいりん」の表題の意味

 

 表題からは、「ホームレス対策」と「あいりん対策」を一体のもの、あるいは切り離して検討できない関連深いものという基本的立場の上で事業分析がなされているように受け取られる。

 「事業分析」3頁表によれば、「ホームレス対策」は、あいりん地域を経由していないホームレスを対象とし、日雇労働という不安定就労から生じる一時的野宿(日雇労働の現場に現役復帰可能な労働者)については、あいりん地区対策でする、という割り切りがありながら、あいりん地区の日雇労働者の一部が、恒常的にホームレス化してホームレスとなったものについては、両方に関わりがあるとされている。

 「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(以下法と称す)が、「ホームレス」を最も狭く定義していることから、路上で現に野宿している人々のみを「ホームレス対策」が対象としていることは、現状では仕方がないとして、しかし、「ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域を中心に、野宿生活にならないような施策を実施することが必要」と基本方針の中で一項設けられており、大阪においては、法の狭い定義でなく、「現に失業状態や不安定な就労関係にあり、かつ、定まった住居を喪失し不安定な居住環境にある者」という広い意味でのホームレス対策をおこなう必要があるのであるが、この図式の中では、表されていない。これまでのあいりん対策がそれを担っていたのであり、今後もそうである、ということになるのであろうが、ホームレス対策との連携があるのか無いのかは見えない。ホームレス対策の今後の課題の中には、「あいりん高齢日雇労働者のホームレス化予防」が掲げられてはいるのだが・・・・。

「事業分析」には、2つの対策の現状図式も示されている。その図式を野宿生活者の具体的な生活に引きつけて検討すると、ホームレス対策現状図式とあいりん対策現状図式ですっきりと二つの分かれている事業が、入り組んだ関係にあることがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市内ホームレス対策としての自立支援センターには、あいりん地区にかかわりのなかった野宿生活者や釜ヶ崎の日雇労働者がホームレス化したもの、あるいは日雇労働者でホームレス化する以前の回避策として入所を選択したものが入所している。

 あいりん地区対策として立ち上がった「生活ケアセンター事業」や「生活道路清掃事業」や「清掃除草等事業」は、今や、野宿状態となる以前は、釜ヶ崎と縁の無かった市内野宿生活者も活用している。「大阪社会医療センター」もそうである。市内各所から、日雇い労働市場の繁忙期に、釜ヶ崎に働きに来ているのは、元々釜ヶ崎に縁があった野宿生活者だけで無く、野宿以前には縁の無かった人々も含まれている。

 図式が、狭義のホームレス対策とやや広義のホームレスへの対策を含むあいりん対策との2つにすっきり分かれていることに、事業分析の課題を感じる視点が必要なのではあるまいか。

 「大阪市野宿生活者(ホームレス)の自立の支援等に関する実施計画」−2004(平成16)3月−で、「大阪市の主な野宿生活者対策」として9つの事業があげられているが、素案の案段階では、あいりん対策の図式にある「生活ケアセンター事業」や「自立支援就労事業」・「臨時緊急夜間避難所」は入れられていなかった。素案の案の段階では、ホームレス対策とあいりん対策は別の枠組みとの考えがあったが、素案に至る論議の過程で、なるべく一体的にとらえる方がよろしかろうと加えられることになったものと思われる。事業分析でもその考え方を踏襲して、一体のものとして分析する努力は為されたのであろうが、並列に終わっている感がする。これは課題の発生順序と、行政の組織分担に規定されて生じた現象であると考えられる。

 

 あいりん対策の歴史は長く、保護課が所管している。従来は、釜ヶ崎の日雇労働者の不安定就労の故に生じる福祉課題に対応してきた。失業時期や傷病を抱えたときの対応が主で、困難事情が解消すれば日雇労働者として現役復帰すること、あるいは他の職域・地域に移動することを前提としての一時的措置に重点が置かれていた。釜ヶ崎地区内に野宿生活者が増大し、対応が迫られ、ケァセンターや就労事業、夜間宿所等の事業が展開されたが、一時的措置の基本的な考え方は変えられることはなかった。

 ホームレス対策は、市内野宿生活者の増大に対応すべく研究から始まったわけであるが、とりあえず、保護課の中のチームとして取り扱われた。事態の長期化と対策施策実施の過程で、保護課から独立し、ホームレス自立支援課となった。保護課からの独立は、単に地域の分担−あいりん地区の内と外−だけでなく、福祉的措置の活用からの分離をももたらしたように思える。社会援護担当部長は新たにできたが、保護課とホームレス自立支援課を結びつけるところまでは役割とされていなかったようである。福祉施策の活用をなるべく視野に入れない自立支援、「自立支援センター入所―就職」が、ホームレス自立支援課の主要課題とされたのである。

 本年、社会援護担当部長の職掌が一部拡張され、保護課施設係担当のままの夜間宿所や就労事業等についても組み入れられたようであるが、一方、生活保護担当部長も新設され、ホームレス対策の中での福祉施策活用は課をまたがった状態のままとなっているようである。

 野宿生活者巡回相談事業は、かかる背景の下、ホームレス自立支援課の事業として続けられてきた。今後の課題と目標の中で、「より多くのホームレスを巡回相談事業を通じ、各種自立支援施策につなぐ」とされているが、これまで各種自立支援施策の選択肢はそう多くなく、現状もそうであると考えられる。

 以下の参考資料で確認できるのは、「実施計画」で野宿生活者対策等として9項目あげられているが、現在ホームページで公表されている野宿生活者対策では4項目しかあげられていないことである。あいりん対策は、ここ数年掲載内容が更新されておらず、新しい事態に対する認識と対応が反映されていない。行政組織としての大阪市の中で、ホームレス対策に関して、統一された意思が存在することを感じることは難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考:平成16年3月・大阪市大阪市野宿生活者(ホームレス)の自立の支援等に関する実施計画より

 

2 大阪市の主な野宿生活者対策等

(1)野宿生活者巡回相談事業

相談員が市内を巡回し、野宿生活者の就労・健康・悩み等についての相談を行い、帰郷を希望する人については、家族・知人等への連絡・仲介を行い、就労による自立意欲のある人については、自立支援センターへの入所を促進しています。また、高齢、障害や病弱等の福祉的援護が必要な人については、関係機関と連携を図るなど、個々の状況に適した支援等を行っています。

(2)自立支援センターの設置・運営

就労意欲のある野宿生活者等が一定期間入所することによって、就労による自立の促進を図ることを目的として、自立支援センターを設置し、現在は、市内3カ所で運営しています。自立支援センターでは、入所者の宿所、食事を提供するとともに、生活、心身の健康などの相談指導、公共職業安定所との連携のもとで、職業相談・職業紹介などを行っています。

(3)仮設一時避難所の設置・運営

テント・小屋掛けのある長居公園・西成公園及び大阪城公園について、緊急的な取組みとして、公園内に仮設一時避難所を設置し、公園で野宿生活を余儀なくされている人たちを支援しています。これにより、公園をこれまでどおり快適な市民の憩いの場とする公園管理の適正化の推進を図っています。

また、入所者への就労に向けた自立を支援するため、公共施設等の環境美化事業による生活実態の改善と自立意欲の助長や、公共職業安定所との連携による職業相談・職業紹介を行っています。

(4)野宿生活者能力活用推進事業

自立支援センターや仮設一時避難所の入所者を対象に、多様な就業先の確保につながることを目的として技能の向上を図るため、平成13年12月より、自転車修理・靴修理等の技能講習会を実施しています。また、公共職業安定所の求人情報以外の求人情報の提供等も行っていま

す。

(5)日雇労働者等技能講習会

自立支援センターの入所者の資格取得・技能向上を図ることにより、就労機会を確保することを目的として、平成15年度から、国から委託を受けた社会福祉法人が、ハウスクリーニングや農業ヘルパー、原付免許取得講習会等の多様な講習を実施しています。

(6)臨時夜間緊急避難所(夜間シェルター)の設置・運営

野宿生活を余儀なくされているあいりん日雇労働者に対し、緊急・一時的に宿泊場所を提供することにより、就労自立を支援するとともに、地域の福祉の向上と安定を図るため、臨時夜間緊急避難所を設置し、運営しています。

(7)生活ケア・センターの設置・運営

高齢・病弱等で援護を要する野宿生活者が短期間入所し、生活指導等を通じて自立の促進を図ることを目的として、生活ケア・センターを設置・運営しています。

(8)自立支援就労事業

あいりん高齢日雇労働者等に対し、就労による自立促進を図るため、生活道路の清掃や、公共施設等の除草等の事業による雇用・就労の機会を提供しています。

(9)保健医療対策

自立支援センターや仮設一時避難所の入所者に対し、健康診断、結核検診を実施し、必要に応じて、医療の確保に努めるとともに、健康相談を実施しています。巡回相談事業では、野宿生活者の健康面での助言、指導及び医療面での専門的知識による対応を行うため、平成12年7月から、保健医療担当相談員(看護師)を配置しました。また、あいりん地域の結核事情の改善を目的として、あいりん総合センター前での結核検診(昭和48年から実施)や、保健所分室における結核療養相談指導を実施しています。また、結核患者の治療を確実に終了するため、平成13年7月からDOTS事業(服薬を直接確認する結核短期療法)も実施(平成11年7月から試行実施)しています。

 

参考:2006年11月11日現在;大阪市ホームページに見る野宿生活者対策とあいりん対策の項目

 

野宿生活者(ホームレス)対策(http://www.city.osaka.jp/kenkoufukushi/sonota/pdf/nojyuku.pdf

@ 巡回相談の実施/A 自立支援センターの運営/B 仮設一時避難所の運営/C 大阪ホームレス就業支援センター事業

 

あいりん対策(http://www.city.osaka.jp/kenkoufukushi/sonota/pdf/airin.pdf

あいりん総合センター

更生相談所

「あいりん」でつぎのような業務を行うほか、各種の相談に応じています。また、保健所分室では、結核や精神保健などの保健相談に応じています。

@ 生活保護/A 生活相談室/B あいりん銀行/C 西成市民館

 

参考:平成18年度主要事業の概要 U 人がいきいきと輝き、ゆとりと豊かさを実感できるまちに

. 安全で安心できる、みんなで支えあう大阪(http://www.zaisei.city.osaka.jp/index.cfm/13,112,c,html/112/20060409-103931.pdf

 

(4) ホームレス対策と福祉活動の支援など

(ホームレス対策) 15億3,200万円

@ 自立支援センターの整備・運営 9億1,200万円:整備 1ヵ所 運営 5ヵ所 サテライト型 3ヵ所 健福

A 自立支援型DOTSの実施 (1,200万円)住居の確保が困難な患者に対して、一定期間生活の場を提供し、治療の継続と完治後の自立に向けた支援を実施 健福新

B 公園内一時避難所の運営など 3億6,200万円 運営 1ヵ所 健福・ゆとり

C ホームレスへの就労支援 2,100万円 大阪ホームレス就業支援センター事業など 健福

D ホームレス巡回相談事業など 2億2,400万円 健福

E ホームレスの実態に関する調査の実施 1,300万円:国の「ホームレス自立の支援等に関する基本方針」の見直しに向けた調査 健福新

 

(あいりん対策) 17億3,500万円

F 越年対策事業 2億5,400万円 健福

G 高齢日雇労働者等生活道路清掃・除草等事業 3億 500万円 健福

H 臨時夜間緊急避難所の運営 1億3,400万円 健福

I 社会医療センターの運営・整備助成 7億2,600万円 健福

J あいりんDOTSの実施 (1,900万円) 健福

K あいりん越年時検診 (200万円) 健福

L 生活相談、あいりん銀行、更生相談所、生活館の運営費など 3億1,600万円 健福