(11)おわりに

 

 巡回相談記録の検討を行ってきたが、「依頼有り・再面接有り・要望=就労自立」グループまでしか、検討できなかった。「依頼無し」グループについては、要望グループごとの検討ができなかった。

 しかし、問題点の指摘は、なしえたつもりである。

 

 大阪市野宿生活者巡回相談事業は開始されて、丸6年間の活動実績があり、全国一の巨大野宿生活者群の自立支援に取り組んできた。巡回相談活動の展開は、野宿生活者総数の減少に多少の貢献をしたことは認められるが、2000年では、野宿期間1~3年の占める割合は81.9%であったのに、巡回相談活動の継続によって長期野宿は減るのではなく、逆に2005年には野宿期間13年の占める割合が55.8%に下がっており、野宿期間4年以上の長期野宿の占める割合が増えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(表11-1・図11-12000年は、2000年新規面接時の野宿期間と1999年新規面接で、2000年に再面接を受けたものの新規面接時の野宿期間に1を加えて作表。2005年についても、同様の作業をおこなって作表した。「b」は、「結果」があったもの、すなわち、途中で野宿が中断していると思われるものを除いたもの。)

 野宿の長期化傾向は、明らかに、現行の「自立支援センター→民間活力に依存した就職期待→就労自立」という施策が、施策対象者から受け入れられていないことを示すものである。

 確かに、具体的に数字を検討したように、全く効果がなかったわけではない。2回目の自立支援センター入所で就職した人もいる。「民間活力に依存した就職期待→就労自立」を目指す人を支える仕組みは必要であるし、誘導することも必要であることは認める。

しかし、これまでの検討が明らかにしたところでは、他の選択肢無く放置されている人々のほうが多いということである。福祉施策との連携は、円滑・十分とはいえない。

2000年と2005年で年齢区分ごとの野宿期間を比較すると(図11-211-3)、2005年のほうが野宿期間4年以上の占める割合が、どの年齢区分でも多くなっている。30歳代、40歳代でも、野宿長期化傾向を示しているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2005年に野宿生活者巡回相談室が、実際に把握した大阪市内の野宿生活者は、2,795人(表4-3)であった。自立支援センター入所枠が500人であるとし、全ての野宿生活者が入所して退所し終わるには、1人半年在所するとすれば、2年半かかることになる。

「当面の対応策」によって、巡回相談事業・自立支援センターの運営が開始されたのであるが、その当初から、大阪の野宿生活者の数からして、自立支援センターへの誘導のみでは対応できないことは明らかであったし、現在でもそうである。

だから、大阪においては、千人単位の具体的な就労機会の提供事業を求めていたのである。

 

また、自立支援センターの出口についても、最初から「福祉」を除外していたことが、問題解決を困難にした要因ともなった。

3カ所の自立支援センターが開所し、大阪府が国の雇用創出基金を活用しての「常用化促進事業」を開始するときに、委託を受けたのは特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構であり、著者は当時事務局長として、事業開始初日に、3カ所の自立支援センターで事業参加者に挨拶をするよう求められたことがある。

「常用化促進事業で就労リズムを取り戻し、就職活動に取り組まれることを期待する。しかし、努力を積み重ねても、期間中に就職できなかった場合は、生活保護の申請をおこない、みすみす野宿に戻ることがないようにして貰いたい。」というような話をしたが、3カ所共に、施設運営者からは大不評であった。「自立支援センター開始間なしで、皆、職員も入所者も、就職に向けて頑張ろうとしているのに、水をかけるようなことは言わないで欲しい。」

自立支援センターの出口として、生活保護(居宅)も、福祉施設入所もあることは、検討の中でも明らかとなっている。しかし、それらがごくわずかな例外であり、基本的な考えとして位置づけられていないことも明らかである。巡回相談事業においても同様のことがいえる。

自立支援センター利用者の退所後の再野宿の多さが、野宿生活者の中に巡回相談に乗ることへの無力感を広めたことは疑いようがない。「社会として、チャンスは与えましたよ。それをものにできなかったのは、あなた自身の責任ですよ」といって再び路上に送り返す仕組み。そのよう見える施策には、誰も乗らない。

 

各区支援運営課の野宿生活者への対応能力のなさは明らかである。大阪市立更生相談所を、再び、中央更生相談所」に位置付け直し、管轄地域を「あいりん地区」から市内全域へと拡大し、広義の「ホームレス」対策の総合的実施機関・各区支援運営課と相談者とのの調整機関とすべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巡回相談員は、路上での相談事業だけではなく、「自立」に至までの全過程、その後に、までかかわる「トータルサポーター」と位置付け直されるべきである。

「大阪ホームレス就業支援センター」での実効性ある仕事提供や職業訓練の機能は、拡大されるべきである。

それでもなお、仮小屋等での自分なりの生活運営に固執する人々については、「居留地」が準備されるべきである。

「次世代へ負担を残さない財政再建=社会保障制度の貧困化」が、実は次世代を、現在すでに食いつぶしており、論理矛盾を来していることに気づくべきである。

「法」は、附則3条で、「この法律の規定については、この法律の施行後5年を目途として、その施行の状況等を勘案して検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」としている。

2条(定義)は、『「ホームレス」とは、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者およびそうなる虞のあるものをいう。』に改められなければならない。

ちなみに、釜ヶ崎支援機構の定款第3条(目的)は、「野宿生活者と野宿に至るおそれのある人々の社会的処遇の改善活動及びその自立支援が図られるような地域の形成に関する事業を行うことにより、もって社会福祉の向上を図ることを目的とする。」となっている。

10条(財政上の措置)「国は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を推進するため、その区域内にホームレスが多数存在する地方公共団体及びホームレスの自立支援等を行う民間団体を支援するための財政上の措置その他必要な措置を講ずるように努める。」と改められなければならない。

残念なことに、野宿生活者の再生構造は、日本社会の中に根を下ろしているように見える。「法」が失効する日までには、現行生活保護法に変わる「国民最低生活保障法」の成立を目指すことが急務なのかもしれない。

相談記録の検討を、不十分ながら終えた今、そう考える。

(付記:今回データは、大阪市立大学都市創造学科島和博教授の大阪市への働きかけによって提供されたものである。データ検討にあたって、何度かの討論をおこない、今回まとめるにあたっての、貴重な意見もいただいた。末尾ながら、感謝の意を表しておきたい。2006/11/20