(9)「依頼有りグループ」の要望と結果

 (A)依頼有り・初回面接のみ、結果ありグループ

 

 

(9)A―4 要望=医療

 

「医療」を要望して、行政窓口等に出かけ、巡回相談員に繋がるものは、42人と、野宿生活者の生活条件を考えれば、きわめて少ないように思えるが、

通院状況を見ると、全相談者の中には、相談時に入院しているもの、すでに通院しているものが多数含まれていることがわかる(表9-A-4-1)。

 

 

 

 

 

 

 

 

特に、社会医療センターに集中している(表9-A-4-2・表9-A-4-3)。

 

9-A-4-2

 

 

 

 

 

9-A-4-3

 

 

 

 

 

結果に繋がったものの内、7名は緊急搬送されている。そのうち入院が確認されているのは1名に過ぎないが、多分、全て入院したものと考えられる。

 

テキスト ボックス: 病   
院

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救急搬送されているからといって、全員が急を要した症状であったとは限らない。

 53歳男性、食道潰瘍で入院日数不明は、退院日当日に大阪市健康福祉局を訪ね、日用品費か退院後の生活について相談したところ、再度の入院を勧められ、巡回相談の面接を受け救急搬送されたと考えられる。

50歳男性は、胃潰瘍で181日入院、退院日翌日に保健福祉センターを訪れ、やはり日用品費か退院後の生活について相談したところ、再度の入院を勧められ、巡回相談の面接を受け救急搬送されたと考えられる。

救急の記録が無く、入院だけが記録されているものが4人有る。

 救急搬送と直接入院との差は、措置権を持つ窓口あるいは巡回相談員が、受け入れ病院のめどをあらかじめつけることができたものについては、巡回相談員が病院まで移送し、めどが立たなかったもの、あるいは窓口での受け面記録を簡略化したいものについては、とりあえず救急病院へ入れるために救急依頼をしたということだと考えられる。

 市更生相談所では、病院探しは日常業務で、救急車を呼ばなくても病院が迎えにくる例が多いが、保健福祉センターでは、野宿生活者増加で新たに増えた業務と認識され、扱いに不慣れなため、巡回相談員の介在が必要とされているといえる。

 なお、結果無しには、退院二日後に保健福祉センターを訪れた入院日数56日、視力障害・高血圧の55歳男性、退院当日に保健福祉センターを訪れた入院日数19日、不定愁訴・アルコール依存症・精神分裂40歳男性、退院翌日に市更生相談所を訪れた、入院日数29日、高血圧・右大腿骨頭骨萎縮症の46歳男性等が含まれている。いわゆる「処遇困難」事例もあるではあろうが、病院・施設以外の受け皿が未整備で、対応めどが立たない長期入院(社会的入院)が、問題をこじらせる原因となっていることは、長年、関係者により指摘されてきたところである。

 

(9)「依頼有りグループ」の要望と結果

 (A)依頼有り・初回面接のみ、結果ありグループ

 

(9)A―5 要望=住居確保

 

平均年齢は、結果有りが「40.2歳」、結果無しが「58.6歳」。ただ、結果無しの71歳については、備考に簡宿転用アパートへの入居記録がある(生保受給の記載はない)ので、それを除くと「56.9歳」となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(9)A―6 要望=各種手続き支援

 

 

 

 

 

 

(9)A―7 要望=帰郷・連絡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(9)A―8 要望=食事の確保

 

 

 

 

 

 

(9)A―9 要望=金銭の支援 

 

 

 

 

 

 

 

 

(9)A―10 要望=野宿からの脱却

 

 

 

 

 

 

(9)A―11 要望=その他

 

 

 

 

 

 

 

 

(9)A―12 要望=なし

 

「依頼有り・要望無しグループ」は、「保健福祉センター」の占める割合は高い(30.4%)ものの、依頼の全数に占める割合(33.7)より若干低く、市更生相談所の占める割合はきわめて低くなっている(表9-A-12-1)。民間団体も低い。施設管理部署や行政機関の占める割合は、逆に高くなっている。このことから、通報型の相談が多く含まれているのではないかと考えられる。

9-A-12-1

 

 

 

 

 

 

 

 

野宿形態で見ると、結果有りのほうが、テント・仮小屋等の固定層は少ない(表9-A-12-2・表9-A-12-3)。

 

9-A-12-2 結果あり 居住区分

 

 

 

 

 

 

 

 

9-A-12-3 結果なし 居住区分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、健康状態の自己認識では、「結果有り」の22人の内8人(36.4%)が「悪い」であり、「結果無し」では、182人の内28人(15.4%)にすぎない。

 要望なし層には、野宿の不安定さと健康状態により、漠然とした現状の改変を求めて、窓口赴く事例と、巨樹形態でいえば、固定層と一部「段ボール・無し」層を含んだ通報事例があると考えられる。

 「結果」は、健康状態「悪い」の自己認識を反映して、救急搬送・入院・福祉施設入所が多いが、自立支援センター入所、就職事例が、ごくわずかとはいえ存在することは、評価すべきであろう(経路図5)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 要望無し・結果無しグループの、野宿形態別年齢構成を見ても(図9-A-12)、自立支援センター入所適格者といえる60歳未満が多数であり、現行システムによっても、野宿からの移行を実現できる可能性を持つ野宿生活者は少なからずいることに着目した努力は続けられるべきであろう。

9-A-12

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、自立支援センターの居住環境や就職支援システム、なかんずく就職率・定着率の低さ等に起因する忌避感が存在しての要望無しが多く存在するであろうことも今後の検討課題とされなければならないであろう。

 「大阪ホームレス就業支援センター運営協議会」が、本年7月に実施した「ホームレスの人たちへの就業機会拡大に関する企業アンケート」の報告書では、調査結果の概要を次のようにまとめている。

 

『現在あるいは近く人を採用する予定のある企業(95社)で、ホームレスの人を排除しないとの回答が26社(24.7%)あることが確認され、人材次第によっては、道が開かれていることが確認されたことの意義は大きいと考えられる。

また、請負仕事については8社が、内職仕事については5社が、当運営協議会への発注の可能性有りと回答している。職場体験講習の受け入れについては、18社から可能との回答が寄せられている。

これらの具体的な情報に接して、改めて、ホームレスの人々の求職動向の把握、適材の推薦方法などの具体化と得られた情報に即応できるシステム構築の必要性が浮かび上がってきたといえる。

また、今回のアンケートは、企業内担当者を通して、現に企業の中にいる労働者のホームレスの人たちに対するまなざしを浮かび上がらせるものともなった。

漠然と「不安」と記入するものから、「戦力にならない」と切り捨てるもの、「偏見と言われればそれまでですが、生理的な社内の抵抗感はぬぐえないものと思われ、受け入れる土壌を持っていない」と指摘するもの。ホームレスの人たちが、労働市場に再参入するための障壁が、当人の職歴や能力だけではないことを指し示すものといえる。

「競争環境の中にある企業に、住居や当面の生活費まで企業に準備しろというのは無理」という、受け入れ拒否理由もある。

具体的な就職活動の前に、解決しなければならない課題の多いことも把握された。』

 

 自立支援センターから先の出口への、野宿生活者が抱く懸念は、企業アンケートによっても裏打ちされたといえる。

 民間活力による吸収、民間企業の野宿生活者問題解決に向けた協力・理解を求めるだけでは、具体的成果に結びつきにくいことは明らかであり、野宿生活者のみに努力を押しつける結果となっている現行の自立支援センター事業では、野宿生活者が活用する意欲をかき立てることは、とうてい望めないであろう。

 これまで、福祉窓口の対応の不合理を指摘し続けてきたが、福祉窓口からすれば、労働問題のしわ寄せであり、全てを福祉で対応するには、現行自立支援法や実施計画では踏み切れないという思いもあるであろう。野宿生活者の多くも、福祉でなく仕事での自立を求めていることからすれば、当然の思いと考えられる。

 問題は、直接の雇用創造にあることは、明らかであるにもかかわらず、政策論議でなく、予算の枠組みに縛られ、取り組み意欲に欠けていることであろう。