(9)「依頼有りグループ」の要望と結果

 (A)依頼有り・初回面接のみ、結果ありグループ

 

 

(9)A―2要望=福祉施設入所

 

 福祉施設入所を要望していたものは、104人、そのうち結果に繋がったのは、53人(51%)(表9-A-2-1)。仕事による自立の要望では、3,074人に対し何らかの結果が記録されたもの761人(24.8%)であったから、ほぼ倍の確率である。

 ここでは、要望と結果比較をおこなう前に、結果の有無を別けたものが何であったのか、わかる範囲のデータで検討してみることにする。

 

 

表9-A-2-1

要望=福祉施設入所

 

 

 

 年齢構成であるが(9-A-2-1・図9-A-2-2)、市更相は、40歳代しか巡回に回していず、結果に結びついたものはいない。

民間団体でも、40歳未満は、結果に結びついていない。

 公園事務所は、40歳未満がいなかった。

 福祉施設入所について、条例施設の窓口となっていた市更生相談所の判断は、大きな基準となっていたと考えられるが、40歳未満については、「入所困難」という基準が存在するように思える。

 年齢が高ければいいのかというとそうでもないようだ。公園事務所は、全体としては、60最上の割合が多かったが、結果に結びついているのは、50歳代の割合の方が多い。保健福祉センターでは、70歳以上のほうが、結果に結びついていない割合が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲図9-A-2-1 総数 年令区分 ▼図9-A-2-2 結果有りのみ 年令区分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年齢以外の要因では、体調が考えられる。

 通院・入院状況を「結果無し」と「結果あり」で比べると、通院なしの割合は、「結果あり」の方が明らかに多い(9-A-2-2・表9-A-2-3)。入院中のものは、保健福祉センターに限られていることも注目される。

(9-A-2-2中上段の「有」は通院か入院かは不明だが医療機関にかかっているとして、相談記録に「有」と記入のあったもの。「無」は、通院も入院も無し。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある病院の事務長は、「福祉のケースワーカーは多忙であり、病院回りをしているヒマがない。私たちが、患者さんのことを考え、転院先を手配して、ケースワーカーは、それを追認するだけですよ。」と語っていたが、巡回相談員も同様の役割を担っているのであろうか。

 通院先が明らかな14件のうち、7件が大阪社会医療センターである。依頼先を見ると、2件が市更生相談所で、1件が民間団体、ほかは、保健福祉センター2件、建設局工営所・公園事務所各1件となっている。大阪社会医療センターを利用するには、原則的として市更生相談所で相談して診療依頼券を発行して貰わなくてはならない。市更生相談所の管轄範囲は、あいりん地区である。あいりん地域以外で野宿している場合は、野宿している場所の区保健福祉センターが担当となり、医療相談も受けるのが原則である。現状は、救急搬送後の現地保護主義による医療保護手続き以外は対応されていない。医療単給があるのは、北区のみという状況である。

 野宿生活者が健康を守るために、社会医療センターを利用している道を狭めようとして言挙げしているわけではない。各区保健福祉センターが医療単独給付を始めるか、市更生相談所を、市内全域の野宿生活者をも所管対象とする、かつての「市中央更生相談所」に位置づけ直すか、現状にあわせた対応がなされるべきではないかといっているのである。

 話を元に戻すと、健康状態についての自己認識でも、「悪い」が「結果無し」のほうに多い(9-A-2-4・表9-A-2-5)。もちろん、本人の自己認識と、他者からする判断とが一致するとは限らない。しかし、先の通院・入院状況と重ねて考えれば、健康状態も基準とは成りえていないとおもえる。結局、基準無き「ケースバイケース」となる。

 

 

9-A-2-4

 

 

 

 

9-A-2-5

 

 

相談事業は困難なものであり、相談する当人の短気とか思い違い、今ある施設の規格・ルールを前提としては対応困難など、さまざまなことが結果に結びつきにくくしていることは確かであり、理解もできる。その上でなお、未対応の多さに注意を喚起したい。

 

施設入所を要望した104人のうち、実際に入所できたのは、38(36.5%)11.5%は、短期のケアセンターだけを利用して、その先の記録はない(経路図2)。

 

テキスト ボックス: 巡
回
相
談 
5
3
人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自立支援センター入所が2人いるが、一人は48歳男性、野宿期間1年未満の元会社員で、福祉施設も自立支援センターも区別することなく、とりあえず施設に入りたいと要望したので、記録上「施設入所」に分類されていたと考えられる。

 もう一人は、64歳男性で、19983月から20009月まで、福祉施設に在所経験がある。多分、自己退所後1ヶ月もたたず入院。20011月、退院するにあたって、当初、福祉施設を再利用するとしていたものが、過去の経験からか、考えを変え、自立支援センター入所となったものと思われる。

 居宅保護となったのは、72歳男性で、野宿期間1ヶ月未満、野宿以前は公団住宅に住んでいた。

 なお、福祉施設入所を要望した104人のうち女性は、16名(15.4%)。「結果無し」が、5人。4054566667歳で、いずれも野宿期間1年未満。67歳は夫婦で、40歳は二人で野宿。

 福祉施設入所は、5人。2448555669歳で、野宿期間は、55歳の56ヶ月、69歳の4年の他は半年未満。

ケァセンターだけを利用し、後不明なのは、424355556265歳の6人で、野宿期間は、43歳の15ヶ月と親子で野宿している65歳の7ヶ月を除いた他は、1ヶ月以内。

 女性単身者については、大阪府の女性自立支援制度との連携を強化するか、役割分担をしないのであれば、大阪市のホームレス対策の中でしっかりした事業を打ち出す必要がある。

 

 

(9)「依頼有りグループ」の要望と結果

 (A)依頼有り・初回面接のみ、結果ありグループ

 

(9)A―3 要望=生活保護

 

 依頼の総数に占める「保健福祉センター」の割合は、33.7%であったが、生活保護を求めて窓口に訪れた野宿生活者を、巡回相談につないだ割合では、47.6%を占めている。同じ措置権を持つ市更生相談所は、1件もない(表9-A-3-1)。

 

 

 

9-A-3-1

 

 

 生活保護法による保護は、窓口への本人からの申請により、困窮の事実に基づいて、無差別平等に受けることができる、とされている。ただし、他方他施策優先で、全ての能力を使い果たした後、最終の手段として、という規定がある。このことが、運用上の様々な問題を引き起こしている。

 大阪では、65歳以上で、居所確保さえできていれば、困窮の事実に基づいて生活保護の適用を受けることができる。あいりん地区においては、2000年から簡易宿泊所の敷金無しのアパートへの転用が加速し、野宿生活者の居宅における保護が、増大した。

 2002年「ホームレスの自立支援等に関する特別措置法」が成立し、20038月に、国の「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」が定められた。基本方針では、ホームレスに対する生活保護法に基づく保護の実施に関する事項についても定められていることから、厚生労働省は、取り扱いについて、全国の地方自治体に処理基準を通知した。

「ホ一ムレスに対する生活保護の適用に当たっては、居住地がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるものでないことに留意し、生活保護を適正に実施する。」「保護開始時において、住居のない要保護者が住宅の確保に際し、敷金等を必要とする場合、特別基準の設定があったものとして必要な額を認めて差し支えない。」

 

 これにより、同年9月から、住む予定の賃貸住宅の重要事項証明書と稼働能力を活用しようと努力したことを裏付けるためのハローワークでの相談活動記録を持参しての居宅保護申請が増え、敷金支給されての居宅保護への移行が定着した。

 

 以上の背景を踏まえ、年齢区分を検討するとき(表9-A-3-260歳以上51.6%・表9-A-3-360歳以上63.6%)、少なくとも保健福祉センターの依頼分は、保健福祉センターの受付段階で、相談者への丁寧な説明と的確な助言があれば、巡回相談へ回さなくてもすんだ事例は多かったであろうし、結果無しも、もう少し少なくなったのではあるまいかと考えられる。

 

 

9-A-3-2

生活保護・年令区分と依頼元

結果あり

 

 

 

9-A-3-3

生活保護・年令区分と依頼元

結果なし

 

 

 

 

 結果無しには、厚生・国民・共済年金等に20年加入していたが、11ヶ月野宿している70歳男性や、親子三人で野宿している1組(62歳男性、45歳女性、こども、200311月から200422日まで施設入所、22日から野宿、29日に巡回相談と面談。以降記録無し)が含まれている。

 結果の有無については、「措置記録」によっているのであるが、措置記録には記載がなく、「基本記録」の備考欄に結果の記載がある事例が2つあった。特別な手順のものに限られているようではある。

 57歳、アルコール依存症で精神障害2級の手帳を持つ男性は、200411日から2ヶ月野宿している男性は、20043月に、和泉市のアルコール依存症専門病院で、あるいはその近くで、巡回相談を受け、同年5月に、居宅保護となっている。野宿以前も、居宅保護を受けている。外国籍のものは、緊急医療の現地保護を除いては、外国人登録地でなければ保護を受けることができない。その手続きも絡んで、巡回相談員がかかわったと考えられる。

 73歳男性、200475日から野宿を開始し、730日、浪速区の「行政機関(外郭含む)」へ相談に訪れ、巡回相談員へ連絡があったものであるが、債務があったためか、同日、あいりん地区内簡宿転用アパートに入居したものの、居宅保護適用は、91日となっている。8月分の家賃・食費は、アパートからの借金となったと考えられる。

 居宅保護を要望した42人のうち、要望通りとなったのは、自立支援センターという迂回を含めて2人(4.8%)に過ぎない。生活保護法上の保護を受けたという意味で、入院・施設保護を含めても、7人(16.7%)にすぎない。先の2人を入れても、21.4%。自立支援センターや福祉施設入所と比べて、きわめて狭き門となっている(経路図3)。

テキスト ボックス: 巡
回
相
談 
1
1  
人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自立支援センター入所を経て居宅保護となったのは、75歳男性で、20003月から7ヶ月野宿、それ以前は、1997年に3ヶ月施設入所、1999年から野宿直前まで入院していた。20001019日に相談を受け、116日に自立支援センターへ入所している。わずか22日在所後の1122日、居宅保護となっている。

当人要望は、居宅保護であり、この迂回の理由が、年齢から考えても想像できない。このような迂回が、就職率を上げることに躍起となっている自立支援センターとすれば、適格者を送り込まない巡回相談事業に対する不信・不満の元となっていると考えられる。もっともだと考えられ、巡回相談を実施する側も、そのことは十分に承知しているはずである。にもかかわらずこのような事例が存在するのは、当人に事情があるにしても、巡回と福祉の連携の悪さを考えざるを得ない。