大阪市野宿生活者相談事業経過分析と今後の課題

 

1)野宿生活者相談事業の開始の経緯

 

 大阪市内野宿生活者の増加をうけて、行政機関内に「野宿生活者問題検討連絡会」が設置されたのは、19985月のことであった。国・関係自治体による「ホームレス問題連絡会議」が、「ホームレス問題に関する当面の対応策について」をまとめたのは、19995月である。

 「当面の対応策」では、「ホームレス」を以下のような3つの類型に分け、それぞれについての対応を示していた。

 

○勤労意欲はあるが仕事がなく失業状態にある者(TYPE1)
産業構造の変化や不況等による日雇労働の機会減少、リストラ等による常用労働者の失業等 
⇒ 就労による自立を支援
○医療、福祉等の援護が必要な者(TYPE2)
アルコール依存症の者、精神的・身体的疾患を有する者、高齢者・身体障害者等
⇒ 福祉等の援護による自立を支援
○社会生活を拒否する者(TYPE3)
社会的束縛を嫌う者、諸般の事情から身元を明らかにしない者 
⇒ 社会的自立を支援しつつ、施設管理者による退去指導
 

 その上で、施策の具体的方向を、示している。その第一にあげられているのが、「総合的な相談・自立支援体制の確立」であった。

 

○福祉事務所等における相談体制の強化
福祉事務所等の窓口相談に加え、保健所等との連携による街頭相談の拡充
○自立支援事業の実施
ホームレスを一定期間宿泊させ、健康診断、身元確認、生活相談・指導等を行うとともに、
就労意欲を向上させ、職業相談・斡旋等により自立を支援
 

 これを受けて、19997月に「大阪市野宿生活者対策推進本部」が設置され、同年8月から「野宿生活者巡回相談事業」が開始されることになる。

 ただし、相談事業の大きな受け皿と想定されていた「自立支援事業(自立支援センター)」の発足は200010月と出遅れており、自立支援センターへの入所が可能となるまでの相談活動は、医療・福祉相談中心となっていたと考えられる。

 「野宿生活者巡回相談事業」開始から丸7年が経過し、その間には、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が成立、国の基本方針と、大阪府・大阪市で「自立支援等に関する実施計画」が策定されたが、大枠としては、「当面の対応策」の範囲内での施策実施にとどまっている。

 「特別措置法」に定められた見直しを来年に控えた現在、もっとも多くの野宿生活者と出会い、自立支援への入り口を担う巡回相談事業に検討を加えることは、見直しに向けた重要な準備手続きと考えられる。

 検討を加えるデータは、大阪市健康福祉局ホームレス自立支援課から提供を受けた199910月から20067月までの巡回相談の記録(氏名を番号化し、生年月日の内生年だけを残すという個人を特定する情報を省いたもの)である。

 巡回相談事業開始の年は、大阪市から委託を受けた「大阪市立大学都市環境問題研究会」が、市内各公園等で野宿生活者からの聞き取り調査を実施した年でもある。巡回相談事業を実際に担うことになったのは、大阪市内の日雇労働者や野宿生活者が入所する救護施設を運営する法人であったが、運営する施設内でなく、野宿現場での面談は未経験であり、実施を前にしてとまどいがあったようである。そこで、「大阪市立大学都市環境問題研究会」が西成公園でおこなう聞き取り調査に、各施設の責任者が参加することで、相談事業の感覚を得る試みが計画された。著者は、そのときの聞き取り調査にも参加していたが、相談事業の事前体験をした参加者から、「結構話をしていただけるんで安心しました」という感想を聞いた記憶がある。初々しい出発に立ち会ってから7年たった今、巡回相談記録の検討を行うことになった。巡り合わせを感じる次第である。

 相談事業に検討を加える前提として、与えられた条件の中で、日々面接を重ねてこられた巡回相談員各位には十分な敬意を払っていることを明らかにしておきたい。批判は、事業の体制が持つ限界について加えられるものであって、巡回相談を担った人々に向けられたものではないことを、当然のことでありながら、事前に確認をしておく。