大阪・釜ヶ崎からの報告

野宿生活者の就労・生活の保障をめざして

 

(1)盛夏の野宿生活者は・・・・

 

 「今日も何人倒れた」「手がブルブル震えていた」という会話が連日続いています。

 釜ヶ崎支援機構は、大阪府・大阪市から事業委託されて、55歳以上の登録労働者に輪番制で就労機会を提供しています。ただお金をばらまく事業ではなく、働いた対価としての賃金を支払う事業であり、作業内容は草刈りや道路清掃などですから、連日の35度前後の猛暑の中でも、日陰のないところでの草刈り作業などに従事してもらっています。その現場で、毎日、2〜3人は軽い日射病・熱中症で倒れる労働者がでているのです。救急車の出動を求めるときもあります。

 熱中症にかかりやすい人は、高齢者や休養を充分にとっていない人、体力の衰えている人などですが、暑さの中の労働に身体がなれていない人やきまじめな性格の人もかかりやすいといわれています。登録輪番労働者は、野宿を余儀なくされている人が多く、熱中症にかかりやすい複数の条件を抱えた状態で、限られた就労機会を逃すまいとして就労した結果、現場で倒れるのです。

 釜ヶ崎支援機構が大阪府・市から委託を受けている今年度事業の事業費総額は約8億円ですが、輪番就労に関わる予算は、約4億9千万円です。輪番就労に登録している労働者は2,821人、一日あたり就労できるのは、釜ヶ崎支援機構以外のものも含めて218人です。予算額は多いように見えますが、労働者一人ひとりにとって見れば、10日に一回、月平均3回半の就労機会に過ぎません。夏の暑さの中での労働に体を慣らせるほどの日数ではありません。

 一日働いて手にする賃金は5,700円(弁当代400円を引くと5,300円)、月3回半の就労だとすると、18,550円になります。輪番就労の日以外は、何もしていないのかというとそうではありません。多くの人は、早朝、2時から7時頃にかけて、アルミ缶を集めて歩き回っています。一日800〜1,000円になればいい方だそうです。

 仮に、月20日アルミ缶集めをして3日輪番就労につくと、月収は39,000円くらいになります。一時、1,200〜2,000円であった簡易宿泊所(ドヤ)の宿泊料も値下がりして、一泊900〜1,000円ですが、一ヶ月泊まろうとすると30,000円は必要です。寝場所を確保すれば、食事に回せるお金は、9,000円で、一日300円、一食あたり100円と、計算上はなります。

 

(2)安眠もままならず・・・

釜ヶ崎支援機構は、大阪市からの委託を受けて、「あいりん臨時緊急夜間避難所」の運営も行っています。2階建てプレハブに、2段ベッドがズラっと並んでいます。ワンフロアー100人分ですから一棟で200人。3棟ありますから、全部で600人泊まれることになります。その他に、200人が泊まれる大テントがありますから、合計800人の無料宿泊施設があることになります。輪番労働者も寝場所代を節約するために、利用します。路上や公園や夜間避難所を寝場所とすれば、稼ぎのほとんど、一日あたり1,300円を飲食にまわすことができます。

夜間避難所には扇風機はついていますが、クーラーはありません。室温が体温以下に下がることを、夏の間、望むことはできません。大テントではなおさらです。夜間宿舎や大テントより路上や公園の方が夜間は過ごしやすい気温なのですが、石や花火を投げつけられたり、ガソリンをかけられて火をつけられるという、危害を加えられるおそれがあります。

炎天下での作業に耐えられる体力や睡眠、そして、栄養状態や充分な休養を心がけることは、野宿生活者にとって困難なことです。

釜ヶ崎支援機構には、福祉相談部門があり、生活保護や入院・入寮の手助けをしていますが、冬寒いときよりも、夏暑いときの方が、相談件数が多いという傾向があります。野宿生活者にとって、どうやら冬の寒さも過ごしやすいということはないのでしょうが、夏の暑さの方が身体にこたえ、耐え難いようです。

輪番の登録は、2,821人ですが、大阪市内の野宿生活者は1万人を越えていると見られています。日本橋で野宿している人の話によれば、ここ2〜3ヶ月、背広姿で野宿する人、アルミ缶を集めている人が日本橋周辺で目立つようになってきたということです。

 

(3)「ホームレス自立支援特別措置法」

「ホームレスの自立の支援などに関する特別措置法」が、第154回国会の会期末ぎりぎりの7月31日、参院本会議において全会一致で可決され、成立しました。

1999年の政府の「ホームレス問題に関する当面の対応策」から3年、ようやく「問題」への本格的取り組みのための基盤ができたという想いがあります。

 法の目的は、『自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在し、健康で文化的な生活を送ることができないでいるとともに、地域社会とのあつれきが生じつつある現状にかんがみ、ホームレスの自立の支援、ホームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関し、国等の果たすべき責務を明らかにするとともに、ホームレスの人権に配慮し、かつ、地域社会の理解と協力を得つつ、必要な施策を講ずることにより、ホームレスに関する問題の解決に資することを目的とする』となっており、現にホームレスとなっている人々の対策だけではなく、ホームレスになることの予防も措置も含まれています。

施策の目標として、安定した雇用の場の確保、職業能力の開発等による就業の機会の確保、住宅への入居の支援等による安定した居住の場所の確保並びに健康診断、医療の提供等による保健及び医療の確保に関する施策並びに生活に関する相談及び指導を実施することにより、これらの者を自立させること。そして、一時的な宿泊場所や日常的に必要な物品の支給など緊急に行うべき援助などがあげられています。

釜ヶ崎支援機構が最も重要だと考えているのは、『ホームレスの自立のためには就業の機会が確保されることが最も重要であることに留意しつつ、前項の目標に従って総合的に推進されなければならない。』と、就業機会の確保が最も重要であることが明記されている点です。

今後、国の基本計画の策定、地方自治体の実施計画の策定という作業の中で、法律の文言を、具体的に予算を伴う事業として確立していけば、野宿生活者を対象とした就労事業の規模がとりあえず一日の就労数が3,000人に拡大され、月に半分働けるだけの仕事が創出されれば、たまに暑い中で働いて熱中症にかかる労働者も減ることでしょう。居住の問題も、日々働けて収入が確保されれば、当面は簡易宿泊所に泊まることによって解決されます。

 もちろん、野宿生活者は個々別々の人格であり、生活歴も違いますから、一律の就労事業だけですべてが解決するわけではありません。多様な仕事、職業訓練、福祉相談などのプログラムが準備されなければなりません。しかし、何よりも優先されなければならないのは、自分の稼ぎで自分の生活を、路上や公園ではなく畳の上で支えているという誇りを再獲得する条件を整えることです。その誇りを基盤にしてこそ、次の生活をめざすための技能習得意欲、新しい生活に飛び込んでいこうという活力がよみがえり、「社会再参入」が可能になるのだと思います。

 一義的に国や地方自治体の行政努力、そして、野宿生活者自身の努力が求められているのですが、広く一般の人々の理解と協力も必要です。法では、『国民は、ホームレスに関する問題について理解を深めるとともに、地域社会において、国及び地方公共団体が実施する施策に協力すること等により、ホームレスの自立の支援等に努めるものとする。』と書かれています。

 宿泊施設を設置しようとすれば反対、就職しようとしても「元野宿者では・・・・」ということでは、いくら行政や野宿生活者がりきんでも成果は上がりません。「社会再参入」は、受け入れる社会があってはじめて成り立ちます。