寄書 内務省訓令第七号に付官民の注意を望む

   大坂東区 何某

   

   拝啓、先般内務省訓令第七号を以て各府県へ御訓令相成りたる人力

   車、乗合馬車、宿屋、街路等の取締法は過日貴紙上にも縷々御論述

   相成候通り如何にも我々の注目思考を要し候事柄にて拙者も至極貴

   社と御同意なるは言を俟たざる所に御座候へども近来見聞仕候所に

   拠れば世間の人々の中には往々此訓令の出でたるを見て太早計にも

   早や此訓令の各条の通り夫々実施せらるゝ事の様に想ひ做し彼れ是

   れと気を揉み入らざる世話を焼き若くは之を頭痛に疾む者等有之候

   様子にて是れは只だ平の人民のみならず当該の役人たる警察官吏其

   人の如きも御多人数の中には往々同様の太早計を為しクヤ/\其方

   は内務省第七号のクンディを心得ぬか抔と申さるゝ御方之れ無にし

   も非らざる趣誠に笑止千萬の事と奉存候元来右の訓令第七号は其前

   文句にも明言せられたる如く只だ各地方官へ是等の取締の標準を示

   めされたるまでのものにして各地方庁に於て其土地の状況民度の高

   低等に由り便宜之を増損取捨して夫々其地方の規則を設け内務省の

   認可を経て之を公達施行せらるゝに至り始めて其地方の法規と相成

   る訳のものに候へば今日只だ此訓令の出でたるのみを見て未だ其地

   方の公達の出でざるに早や此訓令の各条の通り夫々之を実施せらる

   ゝことと相考へ候は誠に太早計の甚しきものに候はずや我大坂府の

   如きは建野郷三君其人の如き良二千石の有ることに候へば此の標準

   を取捨増損せらるゝに於ても必ず十分に府下人民の実情を考へて適

   当完全の規則を設らるゝことと今より確信仕候右は官民両者の御注

   意の為め一言仕候草々

   

   著者:大坂東区 何某
   表題:寄書 内務省訓令第七号に付官民の注意を望む
   時期:18860707/明治19年7月7日
   初出:大阪日報
   種別:寄書/内務省訓令