身投と井陥りと棄児

   一昨廿二日午前時頃難波村千四百七十三番地新聞配達業幸来卯之助

   が北区樋上町を通行の節身投げの女を認めし故折しも通掛りし若松

   町の藤井岩吉と云者に斯と告げ警所に報知せんとする処へ憲兵卒が

   通かゝりしを幸ひ其由を告げしに憲兵は頓て其女を助け上て取調し

   処此者は東京本所区三笠町四十八番地藤田清七方同居栗山みね(三

   十五年)とて貧苦の余り死を遂んとせし事の知れ早速其叔父に当る

   北平野町二丁目稲山藤右衛門へ引渡されたり又昨日午前八時頃西成

   郡難波村四百廿番地宗得直七方の軒下にある井の内に年齢四十才許

   にて剪髪頭の非人体の女が落込み居るとの事を難波分署に聞込み巡

   査出張の上其者を救上げ分署に担ぎ込みて治療を加へしに依り幸に

   蘇生せしが未だ何処の者か知れず又一昨廿二日午后九時頃南区瓦屋

   町二番町三十九番地阪井善助方の軒下に生れて間の無き男子を捨た

   る者ありて其傍に本年六月十八日昼からの四時に出産名は小久松と

   記せし一片の書付が添てあり何者の所為なるかは判然せねば南区日

   本橋四丁目の仮救育場にて養育する事になりし由

   

   著者:朝日新聞
   表題:身投と井陥りと棄児
   時期:18860824/明治19年8月24日
   初出:朝日新聞
   種別:自殺/捨て子