四区一郡連合町村会議事傍聴略記

   四日午後二時四十五分開議西区土佐堀通壱丁目外六百五ケ町村連合

   町村費支出予算案中会議費の第一次会を開きしに数回の問答ありし

   のみにて異義なく原案に可決し次に土木費の第一次会に至り同じく

   問答の末十三番(安井氏)は市区改正の必用は府民一般の是認する

   所にして彼の長町の如き早晩移転せしめざるべからざるは勿論なれ

   ど之を断行せんには今日実に好機会と謂ふべし依て方法順序に至て

   は更に意見あるも大体は原案を賛成すと発議せしに三番(泉氏)は

   衛生上及び其他の関係より論ずるも市街密接の東成郡を除くべき理

   由なく且つ原案に掲記する所のものは単に移転地に就て要する長屋

   建築等の費途に止まり絶て移転費即ち該町家屋所有者が直接に蒙ぶ

   る所の損失を補填すべき目途なし殊に市街の中央に存在する若干戸

   を摘除し再び長屋等を建設せしめずとならば忽ち歯抜け町の有様を

   呈出する等原案の組織極めて不完全と謂はざるを得ず然るを之を以

   て市区改正の端緒なりとし為めに数万余円を費消するは不可なり依

   て本項は全廃すべしと論じ四番(扇谷氏)五番(佐野氏)相続で之

   を賛成し市区改正の挙あらんとならば府知事より原案を発し府会若

   くは区部会議に付せらるゝこそ至当なるべればそは兎もあれ斯る一

   小部分に関する姑息法は他日真の改良を計らんとするに至り却て不

   経済たるを免れざるべし殊に昨年の水害と云ひ本年の拉病と云ひ府

   民困難を極むるの今日なれば到底之れが負担に任ふべきにあらずと

   敷衍し其他十九番(長尾氏)七番(大井氏)は原案を維持し反対者

   は該地所有者の迷惑を過慮するも長町の如きは国道第一等の線路に

   して大坂市街の関門なれば其明地は競て購求するものあるべく左す

   れば得失相償はざるの理なかるべし又該地現住の貧民或は移転を肯

   ぜざるべしとの懸念もあらんが新築長屋にして原案の通りの家賃と

   仮定せば従前に比し頗る低廉なるのみならず総て清潔たるを以て相

   率ゐて移転すべしと述べ廿三番(勝浦氏)六番(北田氏)十四番

   (中野氏)十二番(貴田氏)十八番(大西氏)は全廃説に左袒し原

   案の組織不完全なるは勿論西成郡難波村の如きは今日すら戸口の夥

   多にして戸長事務の煩雑に任へざるもの此上豈に斯る移住者を引受

   くるを得んや況んや該村は大阪市街を距る殊に近きにあらざれば彼

   貧民社会が生計上頗る不便なるをもて必ず移転するを肯ぜざるべし

   而して原案賛成者が所謂清潔云々の点に至ては毫も感覚を彼社会に

   與へざるなりと弁じ彼此数回の討論ありしが可否を問ふに及で出席

   員二十二名に対する十八名の過半数にて全廃説に可決し二時会も又

   開かざるに決し次に十二番の発議にて明日は日曜日なれども引続き

   例刻より開議することとなり六時五分散会せり。

   

   著者:朝日新聞
   表題:四区一郡連合町村会議事傍聴略記
   時期:18860907/明治19年9月7日
   初出:朝日新聞
   種別:長町取払/