昭和59年2月14日

大阪弁護士会長 米田 実

釜ケ崎日雇労働組合 委員長 山田 實殿

処分結果について(通知)

 昭和58年5月16日付、貴殿からの人権侵害申立事件は、当会人権擁護委員会において調査の結果、左記のとおり決定し処分いたしましたのでご通知いたします。

1.大阪府警察本部及び大阪府公安委員会並びに南警察署に対し別紙「警告書」を送付する。

警告書

1.当会の人権擁護委員会は釜ヶ崎日雇労働組合からの申立てにより、南警察署が昭和58年5月8日から11日にかけて管内全域で行った「浮浪者」実態調査につき慎重に調査した結果、次の結論に達しました。

2.南警察署の調査は身元確認のため「浮浪者」に対し、本籍氏名を記載した紙を前に持たせた上半身の写真を撮影し、かつ左手一指の指紋採取をしておられます。

ところが、右の調査をするようになったいきさつは「浮浪者」による殺人事件を契機とする南区の住民の要求であったとも言っておられます。
そうすると、右調査には「浮浪者」の保護、身元確認の目的だけではなく、予防検束的目的や「浮浪者」の南警察署管内からの追い出し目的があると考えられます。
その場合何らの嫌疑や令状もなく、右調査によりその目的を達しようとすることは警察法第2条2項に違反する疑いがあり、「浮浪者」に対する人権侵害となると考えます。

3.又、南警察署は任意の調査であると言っておられます。

任意の承諾があったというためには、単に「浮浪者」が拒否しなかったというだけでなく、調査の趣旨目的を十分に説明し、かつ、「浮浪者」が十分その趣旨目的を理解した上で積極酌に同意することが必要であります。
又、「浮浪者」にとって警察官は一人であっても威迫を感じる対象ですから、調査が深夜に亘ったり数名で取囲まれるという状況では、それのみで任意でないと推測されます。
南警察署の昭和58年5月8日から11日にかけて行われた実熊調査は前項の点に配慮が欠け、説明も不十分であり、4名一組で「浮浪者」を取囲む、或は深夜午前5時ころ迄に亘るという事例が見受けられます。
当会では、積極的に拒否しないまでも右のような状況で行われた調査は「浮浪者」の任意の承諾を得たと言えず、人権侵害に該当すると判断致します。

4.したがいまして、当会はここに本件実態調査に関して南警察署の反省を促すと同時に今後このような人権侵害にわたる調査を行われないよう警告致します。

昭和59年2月13日

大阪弁護士会 会長 米田 実

大阪府公安委員会

委員長 坂本長作 殿