はじめに

 酷暑の1984年夏、私たち「釜ヶ崎差別と闘う連絡会(準)」は、一冊のささやかなパンフレットをつくりあげました。

 日々、その勢いを増しつつある反動と右傾化の逆流に抗して、苦闘している多くの仲間たちに、熱い連帯の想いを込めて、この小冊子を送ります。

 年ごとにそのきびしさを増している、春から梅雨期にかけての「アブレ地獄」をのりきって、やっと今、ここ釜ケ崎は労働者の街らしい活気と力を取りもどしたかに見えます。
 早朝のセンターの力強い喧噪、夕暮れの銀座通りにあふれる解放感、車座になって仕事後の酒をくみかわす仲間たちの話し声と笑い声、怒りと決意をみなぎらせた三角公園での集会、こうした釜ケ崎の日常風景のうちにも、抑圧と差別に忍従するこどを拒否する、労働者の不逞の精神の息づかいが聞こえてくるようです。

 そして、私たち連絡会(準)は、この息づかいに耳を傾け、その精神に連なることを通して、この地から反差別、反抑圧の闘いを構築してゆきたいと志向しています。

 高度経済成長という名の資本の強蓄積がもたらした虚構の「豊かさ」にいまだ呪縛されているかにみえる「市艮社会」の住人には視えない現実が、ここ釜ケ崎では、そして釜ケ崎からは、はっきりと視えます。
 ここにはむき出しの貧困があり、アブレ、アオカン、行路死亡は日常的でさえあり、更には、路上強盗、アルコール中毒、バクチ等の「病理」現象にも事欠きません。
 また、支配階級の権力も、ここでは、その一切のみせかけをはぎとられて、むき出しの暴力、強制力として可視化されています。
 そして、この様な現実の只中で、労働者の日々の生活は営なまれ、執拗な闘いが続けられています。

 「釜ケ崎からの現場報告」と題したこのパンフレットが、釜ケ崎のこの現実をどれほどつかみ出し得ているか、パンフレットを手に取る入々の判断を待つ他ありませんが、少なくとも私たちは、この現実をしっかりと見据えて、それとしぶとく、しつこく格闘してゆく姿勢を保持していたいと考えています。
 こうした私たちの姿勢と志向の片リンでも、このパンフレットの中に読み取ってもらえるのでは、と秘かに自負しています。

 多くの人々、とりわけ、息苦しく困難な状況の中で、反抑圧,反差別の闘いをねぱり強く押し進めている仲間たちからの助言と批判を待ちます。