あいりん日雇労働調査報告書 平成212009)年3 財団法人 西成労働福祉センター

Ⅰ 「あいりん地域」日雇労働の現状と課題

大阪市立大学大学院経済学研究科

教授 玉井金五

1 問題の所在
 1990年代からの平成長期不況期を経るなかで、非正規雇用に関する関心が著しく高くなった。非正規雇用が比重を増し始めただけでなく、就労者全体からみてもひとつの固定層ともいうべき様相を呈し始めたからである。それは、見方によればそれまで長年にわたって続いてきた終身雇用、長期雇用といった、わが国における独自の雇用システムの崩壊をも意味したのである。
 しかし、わが国における非正規雇用の歴史には相当なものがあり、時代によってはむしろそれが一定割合を占めたといえる時期も存在した。そのひとつが日雇労働の分野である。今日的に非正規労働との関連でしばしば取り上げられる日雇労働は「スポット派遣」ともいわれる日雇派遣であり、それは近年俄かに注目されるに至ったものである。そこで、従来の日雇労働と区分するためにそれらを新型、従来型を旧型と整理しておきたい。その旧型であるが、大阪はその生成、展開からしてわが国を代表するケースであった。
 ともすれば、新型に眼が向けられるあまり、旧型の存在そのものが著しく希薄化してしまった面があるかもしれないが、実際には厳然として活動を続けている。勿論、旧型を取り巻く社会経済的環境が大きく変化したことで、旧型の従事者数をはじめ、そのスケールは以前と比べて小さくなってしまった。それは、大阪でも然りである。とはいえ、歴史的には1世紀近くの実績を有していることからすれば、その行方や新旧の優劣について簡単には結論付けられないのである。制度的にみても、旧型が独自の雇用保険や健康保険との結び付きがあるのに対して、新型が極めて不十分な状態に置かれ、双方の間に大きな格差があるのはその証左である。
 大阪のケースは、時代的にみて大きくは3つに分けることが出来る。第1は、戦前から戦後にかけての時期である。第2は、いわゆる高度経済成長期である。そして、第3が、それ以降である。第3の時期は、厳密にいうとバブル経済の時期とそれが破綻してからというように区分すべきかもしれない。このうち、第2の時期に戦後の本格的な日雇労働対策が始まったことはよく知られている。ちなみに、西成労働福祉センターがスタートしたのは1962年のことであった。
 高度経済成長期の日雇労働といえば、建設・土木、港湾、製造で大半を占めた。その後の状況変化で、港湾、製造が減少し、建設・土木に著しくシフトしていく。そして、第3の時期はまさに建設・土木中心の時代となり、それが今日まで続いてきているのである。この間、新たに出てきた問題が、景気の好不況に伴う日雇労働への需要の変動とは別の、日雇労働者の高齢化という現象であった。それがなぜ問題かといえば、建設・土木という仕事は必ずしも高齢化と両立しえないという部分があったからである。
 いいかえれば、一定年齢以上になると、仕事につけなくなるという可能性が増大していくことになる。とりわけ、平成長期不況期あたりからそれが認識できる形で発現してきた。大阪でホームレスが目に付くようになるのは、1990年代前半である。それは不況の影響をまともに受けたことにもよるが、他方で日雇労働に関与できなくなった高齢日雇労働者がホームレス化するという出来事が生起したのである。
 こうした状況の下で、大阪府と大阪市を中心に「あいりん総合対策検討委員会」が1995年に発足した。このときまでは、どちらかといえば大阪府が労働対策を、そして大阪市が福祉対策をという形で分業体制をとってきたが、もはやそうした体制では対処することができないという事態が発生しつつあったのである。そのために、現実に起こっている問題をできるだけ精査し、その実態究明をすることに加えて、今後を見通した方向付けを行うという役割が先の委員会には課せられることになった。
 総合対策という名称からもわかるように、この委員会では、雇用、福祉、住環境といった広範囲にわたる領域を設定し、それぞれの課題を掘り起こすとともに、それらが全体的にどのような形で関係しているのかを解き明かすことがメインテーマとされた。その詳細は、当委員会から刊行された報告書に譲らざるをえない。ここでは、紙幅の関係上できるだけ雇用関係に焦点をあてることによって、そのときの分析結果をフォローしておきたい。
 上述したように、1990年代に入ると、日雇労働者の高齢化が顕著になった。当時の調査からしても、50歳を超えると仕事につける機会が激減するということがハッキリした。また、長年建設・土木の仕事に従事していると、いわゆる腰痛にかかっている者が多く、すでに厳しい作業に就けなくなっているケースが多いことも判明した。勿論、50歳を超えても健康で精力的に日雇労働に就く者がいたのは事実である。しかし、全体的な状況からすれば、その数はもはや多数派を占めるものではなかったのである。
 そうしたなかで、報告書はいくつかの視点から切り込んでいる。あえて、23拾ってみよう。第1は、理念にかかわることである。戦後の日雇労働対策は高度経済成長期から本格化した。対策自体は、日雇労働の保護的側面を有したことはいうまでもない。そして、それに加えて日雇労働から常用労働へ、もしくは常用に近い形に移り変わることができるように支援するということも含まれていた。しかし、当時からその後にわたる推移をみると、必ずしもそのような常用労働化が大きく推進されたようには思われなかった。
 2は、高齢日雇労働者の生活保障にかかわることである。50歳を越えた者は仕事が減るだけでなく、それによって手持ちの金銭等も枯渇していく。こうした高齢日雇労働者は、それこそホームレスに陥る危険性が最も高いので、いかに彼らの生活保障を打ち立てていくかが重大な課題を形成した。その意味で、今後こうした層に対する施策の展開が重点的に求められることが指摘されている。当時、ホームレス自立支援法等はなく、国レベルにおいても動きが緩慢だったので、なおさら緊急を要したのである。
 3は、技能講習にかかわることである。1970年代あたりから建設・土木に集中していった日雇労働であるが、先にも述べたように年齢的な限界があり、いつまでも働き続けることができないことが明らかになりつつあった。そうしたなかで、これまでとは異なった新しい職種への転換ということを組上にのせることが求められたのである。とりわけ、福祉・介護、あるいは情報といった分野は今後のマーケットを考えてもそれなりに期待できるところがあった。そのためには、必要な技能を修得しなければならない。技能講習体制の充実は、こうして一層要求されることになった。
 以上は、あくまで報告書に盛り込まれた内容を中心として当時議論されたことの一部を取り出したに過ぎない。しかし、1990年代がそれこそ21世紀に至る助走期ということであれば、すでにそのときから現在につながる重要な課題の芽が出ていたと考えるべきである。その後、平成長期不況期を経て、一定の景気回復がみられたものの、周知のように現在再び大きな不況の渦中にある。こうしたなかで、大阪の日雇労働はどのようなところにまで立ち至っているのであろうか。
 2 調査のための基本的視点
 上述したように、あいりん地域の今後を総合的に検討する委員会が1990年代半ばに発足した。そのなかでもとくに焦点が当てられたのが日雇労働者であり、また量的に目立ちつつあったホームレスであった。問題状況を正確に把握するためには、何よりも実態調査が必要である。そのために、先の委員会のもとで1996年にあいりん地域の日雇労働に関する調査が行なわれ、報告書の取りまとめに向けて大いに参考とされたのである。
 その調査から、すでに10年以上が経過した。この間、平成長期不況期をはさみ、日本の社会経済的状況は大きく変貌したといわれている。では、それを日雇労働に引きつけていえば、一体どこがどのように変化したといえるのであろうか。この点は、今回約10年ぶりの調査にあたるにさいして、最も重要なところである。そのためには、調査に臨む基本的視点といったものを明示しておかなければならないだろう。そこで、以下に基本的視点として3つのことを提起する。
 1は、日雇労働の形態にかかわる点である。これまであいりん地域で長年続いてきたのは、<集合方式>と呼ぶべきものであった。これは、決められた場所に集合し、そこで日雇労働の取引が行われることを指す。一方、近年では携帯やネットの普及によってそれらを介する取引が登場し、前述のようにスポット派遣といった形で注目されている。これは、いわば集合方式に対して<個別方式>といってよいであろう。最初にふれた区分を援用して、ここでも前者を旧型、後者を新型として位置づけておこう。
 では、旧型の現状はどのように推移しつつあるのか。あいりん地域は日本を代表するケースであるので調査対象としてふさわしく、その正確な実態を究明することは旧型の現段階を深層から照射することになる。今回の調査では、日雇労働者の実態のみならず彼らを雇用する事業者側も重視し、現時点におけるニーズがどこにあるかについて把握するように試みた。そのことは、結果として集合方式それ自体の現代的意味とともに、その問題点を浮き彫りにすることになるであろう。
 2は、あいりん労働福祉センターの利用者についてである。いうまでもなく、日雇労働者は就労に従事できたときと、そうでないときには1日の生活の過ごし方が大きく異なってくる。近年におけるひとつの特徴として指摘できることは、センターを日中から利用する者が目立ってきている事実である。彼らは、就労とどこまで結びついているのか、否か。もし、完全に就労から切り離されてしまっているとしたら、そのことが日中からのセンター利用となって現れているのか。
 日雇労働者の高齢化が進んでいることは、10年以上前の調査でも確認した。それからかなりの年数が経過した現在、日雇労働から切り離されてしまった者は量的に増えているはずである。先に述べたセンター利用者はそうした現実とどこまでかかわっているのか。彼らに新しい動きが認められるとしたらそれは一体何か、といったことを少しでも把握すべきである。なぜなら、事実の解明によっては、日雇労働対策の視点を超えた取り組みが求められることになるからである。
 3は、日雇労働の今後をいかに見通すかという点である。あいりん地域も高齢化が進み、それが日雇労働を取り巻く環境を大きく変えてきた。集合方式を中心とした就労、労働市場と接した生活世界の構築といった、いわば日雇労働の20世紀型は、21世紀に突入した現在、明らかに移行期に入ってきている。それは、今日浮上しつつある個別方式に収敏していくのか、それとも集合方式の再編を生み出していくのかといったことと大いに絡むところがある。
 一方、日雇労働の保護のみならず、日雇労働から脱して常用労働(常用に近い労働も含む)に導くという当初の行政施策における理念についても、再考すべきときにきている。そのためにも、日雇労働それ自体が変質しているのであれば、当然のことながらそれをまず見極める必要がある。雇用のフロー化の進展によって、日雇労働そのものが多様化、複雑化してきている。それは、時間の経過とともに常用労働に向かうというのでは必ずしもなくて、むしろフローの世界の中で形を変えつつ一定のポジションを得ていくことをも訴えているように見える。このあたりの状況把握は、それこそ新しい理念の提起と密接に関係してくるといえるだろう。
 ともあれ、以上のように3つの基本的視点のもとで調査を行うことにしたが、勿論この3つですべてを包括し切れているわけではない。しかし、多少経験的かつ感覚的なところがあるにせよ、この10年以上の間の劇的な社会経済的な変化を考えれば、3つの基本的視点に盛り込まれたものは決して的外れではないと思われる。
3 現状と課題
 さて、上述のような基本的視点で臨んだ調査は2008年の9月から12月にかけて行われた。もっとも、この間に世界的な金融危機が生じたこともあって、景気が急速に悪化した。したがって、調査が始まった頃と、終わる時期の間にはかなり大きな落差があるので、その分は割り引いて考えなければいけないであろう。以下ではそうした状況変化も視野に入れて、調査から浮かび上がってくる現象そのものと、それが持つ意味について、できるだけ全体を俯瞰するような姿勢で論じておきたいと思う。
 今回の調査から見えてくるものの中から、いくつか取り出しておこう。基本的視点の第1として、日雇労働の新旧に言及した。旧型というと、長年当地で日雇労働に従事しているというイメージを植えつけてしまうが、今回の調査からはここ10年ぐらいの間にあいりん地域に来たという者の割合が予想した以上に高かったように思われる。これは、平成長期不況期のときにその一定割合が流入してきたことを示すものであるといってよい。その意味で、旧型といっても必ずしも固定的ではなくて、依然流動的な部分を抱えているというべきである。
 それではどこまで仕事につけているかであるが、それにはやはり技能のレベルと年齢的なものが大きな要素を占めているといってよい。とりわけ、技能的に優れているものは飯場に入るか、あるいはセンター寄場に来てもすでに馴染みの業者とのかかわりがあるので、日々の交渉という場には入りきっていないところがある。こうした層は、旧型に括られるにしても、かなり典型的な日雇労働者といえるものであり、それは1ヶ月の収入をみてもそれなりの額を得ているところから証明されるのではないだろうか。
 それでは新たに流入してきた層で、旧型の日雇労働に従事するのであれば、どういった形を採るのであろうか。勿論前職の内容によっては優遇されるケースもあるが、建設・土木のなかで解体関係の仕事が以前にもまして増えており、さほど技能的に優れたものを有していなければ、若いという年齢を武器にそうした仕事につくということは大いにありうることである。したがって、センター寄場での労働市場の規模は小さくなりつつあるものの、技能的に高度な熟練が要求されない解体等の仕事については、依然として成立しているといってよい。
 また、新型のケースで携帯等の利用による労働者集めが注目されているが、旧型についてはどうかということも今回の調査のポイントであった。これについては、まだ決して大きな数字とはいえないが、次第に普及し始めている様子が伺えるといってよい。とくに、技能的に優れ、比較的固定した事業者に雇用されている層は必要な連絡に携帯等の手段を用いているようである。その意味で、かつての集合方式は部分的に個別方式化しつつあるといってよいのではないだろうか。
 事業者の調査結果のなかで、あいりん地域の日雇労働者への需要度を問うものがあった。詳細は集計・分析に委ねるが、数は多くないものの明らかに一部の事業者はあいりん地域からの雇用をしていないという答えを行っている。とはいえ、それ以上の割合であいりん地域からの雇用を続けている事業者が結構あることを考えると、実態としては2つに分かれてきているのではないかと思われる。また、需要といえども年齢的要素が重要で、余程の技能を有していない限り、どうしても若い者が有利な立場にあることが調査結果からわかる。いいかえれば、年齢が高くなるほど然るべき技能を有していることが求められるということである。
 他方、事業者による需要の中身にもう少し立ち入ってみると、十分に労働者が確保できないときや、急に人数を集めなければならなくなったときにセンター寄場を利用する姿が浮かび上がってくる。ということは、技能も高く、その事業者にとって大きく貢献する不可欠な層は飯場等で長期的に雇用するか、まとまった形での就労斡旋を行なうといった形で、引き続き雇用継続しているということである。勿論このことは今に始まったことではなく、これまでの日雇労働市場を体現しているといってよいが、その傾向が一層顕著になってきているといっていいのかもしれない。
 次に、第2の基本的視点にかかわる点に言及したい。公共事業や大型プロジェクトの減少によって、日雇労働への需要は次第に低下した。それは、とくに高齢日雇労働者に大きな影響を与えてきている。高齢日雇労働者については、すでに10年以上前に行った調査においても危惧が表明されており、今回の調査結果はそのことを一層確実にしているように思われる。今回の調査ではそうしたことを掘り下げるために、センター寄場でほぼ1日中過ごしている労働者の実態に迫ろうとした。
 そこから明らかになったことは、早朝仕事を探しにセンターに来るが、仕事が見つからなければセンターでほぼ一日を過ごし、夕刻になると宿泊のためにシェルターに戻るというパターンである。おそらく、その間「炊き出し」等で食事を取っているものと思われる。そして、こうした層がすでに一定割合に達しつつあり、今後さらに増え続けていくのではないかと予測される。なかには年齢が55歳以上で特別清掃事業に従事している者や、アルミ缶収集、ダンボール集めに従事している者もいる。その場合、わずかの収入を得ることが出来るが、低料金の宿泊施設の利用や低額の食事すら取ることは困難である。
 だとすれば、こうした層に対する労働対策はどこまで成り立つのであろうか。日雇労働市場への復帰ということは、諸般の状況からして極めて厳しいといってよい。それでは福祉対策をといっても、生活保護だと住居や年齢的な問題等が生じてくる。いいかえれば、労働対策でも正面から扱えない、また福祉対策でも条件面で整わないといった、いわば両施策の狭間というべきところに陥ってしまう現実がある。また、こうした層はすでに健康面で問題を抱えていたり、また精神面でも行き詰っていたりするケースが結構ある。その意味で、一律的な対処が非常に難しい。
 もっとも、10年以上前と異なって、あいりん地域には彼らを支援するNPOやボランティアがこれまで以上に活動してきている。従来の施策に加えて、こうした団体のサポートにより個々人の状態に応じた処遇を行って健康や心の問題をすこしでも解決できれば、それに越したことはない。また、これまで従事してきた建設・土木から離れて新しい職種を目指して再スタートを切ることも大切である。そのために、技能講習を受けることはそのきっかけとなる。たとえ年齢が高くなっても資格を取得することによって就労に結びつくことがあろう。そうした可能性を追求することで、一人でも多くの者が現在の状況から転化することが強く求められている。
 最後に、第3の基本的視点にかかわることを取り上げておこう。集合方式というべき旧型は、20世紀を貫くものでもあった。それでは、近年よく指摘される個別方式が21世紀の新型として定着していくのであろうか。日雇派遣に代表されるように、個別方式のあり方に対する厳しい批判が生じている現在、どのような方向にシフトしていくかを論じることは容易ではない。しばらくの間、旧型と新型が並存するという形を採るのであろうか。実は、この問題は日本の雇用システムの今後のあり方や働き方の多様化にみられるように労働者の意識にも大いにかかわりを有するところがある。
 その意味で、今回の調査で「常用」「日雇」のいずれを望むかという問いに対する答えは興味深いものがある。総じていえば、「現在のままでよい」という理由(高齢のためも含む)で、日雇を希望する者が一定割合を占めた。一方、広い意味での常用を希望するものは半数までいかなくともそれなりの割合を占めた。見方によれば、双方はかなり拮抗しているといってよいのである。もし、この結果をそのまま受け止めるとすれば、一方では依然として日雇労働対策を継続していかなければいけないということになる、他方、常用を希望する者に対しては就職斡旋、技能講習等を通じて常用への途を側面から支援していかなければならない。
 日雇労働対策を継続していくといっても、旧型、新型が入り混じっている現在、ターゲットをひとつに絞り込むことはむつかしいところがある。とりわけ、あいりん地域に引き付けていえば、依然旧型が存続しているというものの、その中身には変質がみられる。ということは、あいりん地域でも次第に旧型から新型に移行していくという視点で問題に接近すべきなのか、否かということになる。新型がより個別方式に収敏していくのであれば、集合方式を前提としてきたこれまでの施策は時代遅れとなる。それとも、新型が個別方式とは言い切れない姿を現すとなれば、また別の対処が必要となる。
 このように、日雇労働を取り巻く状況は極めて複雑なものがある。今回の調査結果は、必ずしもあいりん地域でひとつのまとまった流れが形成されていることを示すものではなく、むしろ新旧が入り混じった様相のなかで、いくつかの流れが枝的に生じていることを明らかにしているのではないだろうか。その流れのどの点をメインの課題として位置づけることになるのかについては、集計・分析のさらなる読み込みが必要になると思われるし、今回の調査はそれだけのデータ的価値を有しているといってよい。
 1962年に西成労働福祉センターがスタートしてから、早や半世紀近くになろうとしている。この間、日本経済を初め、国際的環境も大きく変貌した。そうしたなかで、日本経済を支えた日雇労働の重要なサポート機関としてのセンターの機能と役割について再度検証するとともに、このあたりでセンターの21世紀の新たな目標を設定することは、時期的にみて実にタイムリーだと思われる。今回の調査はそれに十分資するであろう。

Ⅱ 調査実施概要

1 調査対象
本調査は、あいりん地域を就労の拠点とする日雇労働者(以下「労働者」という。)及びあいりん地域において日雇労働者を求人している事業所(以下「事業所」という。)を対象として実施した。
 2 調査手法及び結果
 (1) 労働者調査
 労働者への調査にあたっては、労働者の状況を幅広く把握するため、()西成労働福祉センターの窓口来訪者、()窓口以外の労働者、()高齢者特別就労事業輪番登録者、()平日午後の寄場滞在者、の4種類の調査手法を用いた。
 それぞれの調査手法と回収結果は以下のとおりである。
 () 西成労働福祉センターの窓口来訪者
()西成労働福祉センターの紹介課、労働福祉課、技能講習室の各窓口へ職業紹介、相談等に訪れた労働者に協力を要請し、各窓口において調査票(1)を配付、回収した。
(調査期間:平成20114日~122)
<回収結果>
・紹介課窓口来訪者    56
・労働福祉課窓口来訪者  80
・技能講習室窓口来訪者  117
 () 窓口以外の労働者
 早朝時にあいりん労働福祉センター寄場付近で求職活動をしている労働者、あいりん労働公共職業安定所に雇用保険の手続に来所した労働者、地域内の簡易宿泊所に滞在している労働者に協力を要請し、調査票(1)を配付、回収した。
(調査期間:平成20111日~122)
<回収結果>
・早朝時の寄場内滞在者50  (5時から6時の間で求職活動をしている者)
・アブレ手当認定者82 (あいりん労働公共職業安定所へ求職者給付金の受領に来た者)
・簡易宿泊所滞在者61 (比較的長く滞在している日雇労働者)
() 高齢者特別就労事業輪番登録者
()西成労働福祉センターの高齢者特別就労事業輪番紹介登録者のうち特別就労事業に従事した者に対して協力を要請し、終業時に調査票(1)を配付、回収した。
(調査期間=平成20114日~121)
<回収結果>
・高齢者特別就労事業輪番登録者291
() 平日午後の寄場滞在者
あいりん労働福祉センターの寄場に滞在している者に対して協力を要請し、調査員による聞き取りを実施した。(調査票(2)を使用)
(調査期間:平成20917日、18)
<回収結果>
・平日午後の寄場滞在者99

 (2) 求人事業所調査

近年のあいりん地域における求人動向を把握するため、平成15年度から平成19年度までの間にあいりん地域において求人実績のある事業所545社を対象として郵送方式による調査を実施した。
なお、上記事業所のうち、西成労働福祉センターに求人事業所として登録している事業所は、500社、それ以外の事業所は45社である。
(調査期間:平成20114日~127)
<回収結果>
・常時、地域において求人活動を行っている登録事業所102
・不定期に地域において求人活動を行っている登録事業所107
・頻繁に地域内で求人活動を行っている未登録事業所5