128-参-政治改革に関する特別委…-10号 平成06年01月11日

 

平成六年一月十一日(火曜日)

   午前十時一分開会

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   参考人

       東京工業大学教授        田中善一郎君

       三菱化成株式会社相談役     鈴木 永二君

       日本労働組合総連合会会長代行  芦田甚之助君

       駒澤大学教授   前田 英昭君

       筑波大学教授   蒲島 郁夫君

       弁  護  士  志田なや子君

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  本日の会議に付した案件

○公職選挙法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○衆議院議員選挙区画定審議会設置法案(内閣提出、衆議院送付)

○政治資金規正法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○政党助成法案(内閣提出、衆議院送付)

○公職選挙法の一部を改正する法律案(橋本敦君発議)

○政治資金規正法の一部を改正する法律案(橋本敦着発議)

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○参考人(志田なや子君) ただいま御紹介にあずかりました弁護士の志田でございます。

 私は参考人として、政府案及び日本共産党案について意見を述べさせていただきます。

 今回の政府案の核心は、衆議院の中選挙区制を廃止いたしまして小選挙区比例代表並立制を導入することにあります。国民主権の原理、国民の選挙権の保障、この観点から見てこれがよいことなのか悪いことなのかこれが問題の本質であると思います。

 一昨年、私は小選挙区制の母国イギリスに調査に行ってまいりました。イギリスでは小選挙区制に対する批判が大変高まっております。イギリスでは、保守党が四割前後、労働党が三割前後、自由民主党が二割前後の得票があります。ところが、小選挙区制が民意をゆがめ、保守党が過半数の議席をとって政権を担当し続けている。他方、第三党の自由民主党は二割前後の得票で三%の議席しかとれません。世論調査では、この小選挙区制の問題点についてどういうことが言われておりますかといいますと、半数の支持も得ていない政党が政権を担当すべきではない、このように回答している人が六六%に及ぶわけです。また、小選挙区制では選択肢が二つに狭められてしまいます。

 さらに問題なのは、小選挙区制では当選政党が固定化いたしまして、大部分の選挙区が無風選挙区化してしまう。イギリスでもアメリカでも再選率は約九割となっております。そうしますと、無風選挙区での選挙が事実上意味のないものになってしまう。また、当選政党以外の政党を支持する有権者が自分の意見を代表する議員を出せないということが批判されております。ですから、今イギリスでは小選挙区制を廃止いたしまして単記移譲制という日本の中選挙区制に似た選挙制度を導入しよう、こういう機運が高まっております。

 小選挙区制、保守二大政党制のアメリカでは投票率は三割台にまで下がっております。貧しい人たちは民主党、共和党のどちらに投票しても変わらないということで政治に絶望して投票にすら行かないのです。

 ケネディ大統領のブレーンの一人でありましたアメリカの高名な経済学者ガルブレイス教授が最近「満足の文化」という本を出版いたしました。日本でも翻訳されております。この本の中でガルブレイス教授は、国民の中では少数派ではあるが投票者の中では多数派である、そういう上位二割程度の満ち足りた人々、この支持を得て行われる政治が、ホームレス飢餓、教育の不備、麻薬の苦しみ、貧困など、いかにアメリカ社会を傷つけ破壊しているかということについて厳しく批判をしております。

 選挙制度と社会保障の関連について興味深いデータがございます。ユニセフの一九九三年度版の「国々の前進」という書物がございます。その中で、先進資本主義国の中で貧困ライン以下の子供の割合が二割と最も高いのがアメリカなのです。二位がカナダ、三位がオーストラリア、四位がイギリスとなり、貧困ライン以下の子供の割合がそれぞれ一割前後となっております。今述べました四つの国はいずれも小選挙区制の国です。

 私は事柄は単純であると思います。つまり、国民のための政治が行われるためには、国民の民意を公正に反映する選挙制度が不可欠であるということなのです。小選挙区制が国民主権の原理から見ていかに欠陥のある制度がおわかりいただけるかと思います。

 次に、定数五百のうち二百二十六の比例代表部分について申し述べます。

 小選挙区部分が二百七十四で、比較第一党が得票率が三割台であってもその小選挙区のうち八割もの議席をとるという劇的な結果が生じますから、残りの二百二十六の比例代表がこの結果を覆すことはできません。例えば並立制で昨年の総選挙が行われたとしますと、自民党が六割の議席を獲得して圧勝してしまい、政権交代は起こらなかったということになります。並立制といいましても、結局は小選挙区制が基本の選挙制度だということなのです。

 その上に、比例代表部分では三%阻止条項で小政党が切り捨てられます。法案では、立候補、小選挙区の選挙運動、公的助成、企業・団体献金で徹底的に差別される。これほどまでに徹底的に小政党や新しい政党、それから無所属候補を差別して議会への進出を妨げる、そういう立法例を私は知りません。この法案の構造は、明らかに憲法四十四条が定める被選挙権の法のもとの平等に反するというふうに思います。

 さて、小選挙区比例代表並立制の導入の理由の一つといたしまして、民意の集約による政権選択の明確化などということが言われております。比較第一党でありさえすれば、半数の支持がなくとも、たとえ三割台であっても、過半数の議席を獲得して民意を集約し、比較第一党が内閣をつくるために国会議員の選挙を行うというもので、あたかも内閣が国権の最高機関であると言わんばかりの考え方であります。

 しかし、憲法は前文で、日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると宣言しております。また、憲法四十一条では、国会は国権の最高機関であるというふうに定めております。ここで言う国民代表といいますのは、民意の分布が忠実に国会に反映される社会学的代表を意味するというのが憲法の学説でございます。これを国民の選挙権という観点から見ますと、一票の投票価値が平等であって、選挙での支持に比例して代表を送ることができるということが求められると思います。ですから、民意の反映を大きくゆがめる小選挙区比例代表並立制は、憲法の求める国民代表原理に全くこたえることができない選挙制度だと思います。

 議会選挙に小選挙区比例代表並立制を採用している国には、韓国、セネガル、ハンガリー、ベネズエラ、ブルガリア、マダガスカル、メキシコ、ロシアがあります。実は、このほとんどの国は大統領制を採用している国でありまして、国民が直接に政権を選ぶときに選挙で決めているという仕組みをとっております。つまり、並立制による民意のゆがみが政権選択にまで及ばない、そういう仕組みになっているわけであります。

 以上、憲法から見ましても、諸外国の実例から見ましても、政権選択のために並立制を導入するということが全く根拠がないということがおわかりいただけるかと思います。

 中選挙区制はどうかといいますと、定数の不均衡があっても三割台にまで得票率が下がった政党が過半数の議席を獲得するということはできません。現に、昨年の総選挙で得票率三七%の自民党は政権の座をおりました。また、中選挙区制には比例的な機能があり、準比例代表制とも呼ばれております。また、政党だけではなくて、候補者個人も選択できるという長所があるというふうに言われております。したがって、中選挙区制は国民代表原理にこたえることができる選挙制度と言うことができます。今求められているのは、中選挙区制のもとでの最大格差二・八三倍に及ぶ衆議院の議員定数の不均衡を抜本的に是正して、より公正に民意が反映できるようにすることであると思います。

 私は、女性の一人として、小選挙区比例代表並立制が衆議院への女性の進出を妨げるということを皆様に訴えたいと思います。小選挙区部分では、各党が候補者を一人に絞るために女性がそもそも候補者になりにくい。比例代表部分でも重複立候補と惜敗率ということで小選挙区制の論理が入り込み、女性の進出が困難になっております。韓国で並立制の導入によって小選挙区部分では女性議員がゼロになった、こういう経験があります。今でさえ女性の衆議院議員は少ない。これをさらに激減させるような選挙制度を導入すべきではないと私は考えます。

 次に、政治資金規正法改正案と政党助成法案について述べます。

 国民が政治改革として望むのは、各種の世論調査でもおわかりのように、政治腐敗の防止であり、政治資金規制の強化です。政府案の目玉は政治家個人への政治献金の禁止ということですが、これは衆議院、参議院の審議の中で、政党支部というトンネルを通って政治家個人が企業・団体献金を受け取るなど、たくさんの抜け道があるということが明らかになりました。政治腐敗をなくすためには企業・団体献金をすべて禁止するほかありません。もし企業・団体献金を禁止することには反対であるということでしたら、なおさらゼネコン汚職や佐川急便事件などの徹底解明をしていただいて、政治腐敗をなくするためにはどうしたらよいかということを真剣に検討していただきたいと思います。

 また、先日の新聞報道によりますと、大企業の一昨年の使途不明金が五百九十五億円に上っているというふうに報道されております。このような使途不明金がやみ献金の温床となっているということは今や国民の常識です。この使途不明金に対する対策についてもぜひ検討していただきたいと思います。

 このように政治腐敗には抜け道をつくっておいて、政党助成法案では国民の税金から三百九億円を助成するということを提案をしております。政党助成は政党を国家の側に組み込むものでありまして、結社の自由を保障し政党を国家から独立したものと位置づけている憲法の原理とは全く異質なものです。国民の側から見ますと、自分の支持しない政党にまで政治献金を強制されるということになり、思想、信条の自由という観点からも大問題です。

 このように、今回の法案は改革案というふうに名のってはおりますが、実は大改悪にほかならないと思います。衆議院と参議院の審議の中で並立制導入の根拠となっていた、お金がかからなくなる、政権交代ができる、政策本位の選挙になる等々という根拠はすべて崩れ去ってしまいました。あるのは民意を無視しても即断即決で政策を実行していける強力な政治を実現するということだけになってしまいました。

 最後に、共産党提案の法案について述べたいと思います。

 中選挙区制のもとでの最大格差一・五倍未満の定数是正、企業・団体献金の禁止、使途不明金の規制、連座制の強化など、政治腐敗の防止に不可欠な内容が盛り込まれていると思います。その意味で国民の常識にかなった提案であるというふうに思います。

 とりわけ、私はここで強調して申し上げたいのは、選挙制度という国民主権の原理と国民の愚挙権に直結する問題については、政党が選挙で公約をきちんと掲げて戦い、国民的な議論を尽くして、国民の同意を得て決定する必要があるということです。昨年の総選挙で並立制を選挙公約としていなかったわけですから、現行の中選挙区制のもとでの定数の不均衡を抜本的に是正するというのが、これが当然の道筋であると思います。

 一昨日のテレビ番組で武村官房長官が、衆議院の選挙制度を変えた暁には参議院、地方議会の制度が今後の課題になるというふうに発言しておりました。国民の選挙権は、このままでいきますとどこまでも切り縮められるということになりそうです。

 憲法は、選挙権は国民固有の権利であるということを定めております。国会議員は国民の代表者として勇気を持って行動していただきたい。このことを参議院の議員の皆様にお願いをいたしまして、私の意見を終わりたいと思います。(拍手)