55-衆-法務委員会-23号 昭和42年06月20日

 

昭和四十二年六月二十日(火曜日)

   午前十時三十七分開議

 

本日の会議に付した案件

 会社更生法等の一部を改正する法律案(内閣提出第一四三号)

 会社更生法の一部を改正する法律案(田中武夫君外十二名提出、衆法第七号)

 刑法の一部を改正する法律案(内閣提出第九四号)

     ――――◇―――――

 

○大竹委員 次に、最近出ました新しい問題でありますが、私は当たり屋の事件についてちょっとお聞きしておきたいと思うのであります。

 これは、ことに非常に事件がふえてきた、しかも中には悪質なものが。同じ交通犯罪といってもいろいろな態様があるということから見ますと、ことに刑を重くするというような面からいいましても、その犯罪事実そのものは正確に把握されなければならぬ、こう思うのであります。そういうような面から見ましても、あたり屋の事件というのは非常に私、遺憾だと思うのであります。詳細なことを忘れましたが、たしか四十何件も――いわゆる一ところでやらなかったからかえってつかまらなかったのでありましょうが、全国各県にわたって、たしか私の新潟県なんかまできて、一件か二件やっていったというのであります。しかもその中で、警察のほうに問題になって――もちろんお調べになったでしょうが、その中でやはり運転手が悪いということで、運転手が処罰されたというようなものも中にはあるというのでありまして、そういうような点から見ましても、今後相当そういうものも出る可能性があるんじゃないかというふうにも思われるのであります。つい最近、何か第一審の判決がきまったというような新聞も拝見しておるのでありますが、それらについて、警察庁のほうでありますか、法務省のほうでありますか、簡単でよろしゅうございますから、事態を御説明願いたいと思います。

 

○綾田説明員 先生の御質問は、まことにごもっともでございまして、私どももこの事件につきましては、高知県警に特に捜査本部を置きまして事件を処理したわけでございます。その後、件数がふえまして、現在警察庁に報告がまいっておりますものでは、検挙いたしましたのが当たり屋の詐欺が九十三件、それからその他前借詐欺、あるいは恐喝、窃盗という事件もございます。被害が約三百五十万近くでございます。

 人権尊重のたてまえからも事件を正確に把握しなければいかぬということはまことにごもっともでございまして、私ども捜査本部終了後、この事件をいろいろ検討いたしましたところが、やはり警察についても、捜査上反省すべき点がいろいろあったわけでございます。その点につきまして、去る昨年の十一月に、指導課長名で、全国警察にこういう事件についての捜査に当たっての注意と申しますか、今後そういうことのないように指示をいたしております。これからますます交通事故が多くなってまいりますし、警察も非常に手薄ではございますけれども、今後このようなことのないようにいたしたいと思っております。

 ただ、ちょっと私の感じを申し上げますと、これはいわゆる子供の事件であって、子供の事件の場合は、ともすれば子供を中心に考える、子供を悪者に考えないというふうな人情の盲点をつく事件でございます。特に本件がそれで、重傷あるいは死亡事故であればもっとていねいにやるわけでございますが、比較的軽微な事件である。そういう性格上、しかも相手が非常に巧妙に立ち回っておりましたので、たとえば身元の確認なんかも本人は十七ばかりの偽名を使って、示談の印鑑その他も非常にたくさん持ってやっておるわけでございます。あるいは実況検分の際に、子供が車に当たったその車との関係、それを精密に調べれば出る。あるいは子供の負傷なんかも、若干医師も不審を持ったような擬装の負傷でございましたから、そういう点ももう少し突っ込めば、あるいは出たかもわからないのでありますが、そういう点について今後とも十分捜査上注意いたしまして、こういう事件のないようにいたしたいと思っております。

 なお、事件処理関係につきましては、法務省でございますので……。

 

○川井政府委員 この事件は、全部で九十一件という詐欺を起訴しておりますが、ほかにまだ数件ございますので、全体としては約百件ございます。その中で運転手の過失だという誤った認定をいたしまして事件にいたしましたのが、報告を受けているものの中で六件ございます。その六件の中の内訳は、三件は検事も見破ることができませんでこれを起訴いたしました。いずれも略式命令で罰金二万円が二人、罰金一万五千円が一人、三人の罰金という有罪がいずれも確定いたしております。それから一件は少年でありまして家庭裁判所に送致いたしました。家裁のほうでは審判不開始ということで何ら処分をしないで済んでおります。残り二件はたまたま捜査中でございました。それはそれ以上捜査を進めないで処分をしなかったということでございまして、たいへん申しわけないわけでございますが百件の中で三件について警察も検察庁もいずれも運転者の過失があるということで起訴いたしました。確定したのは三件、これらにつきましては五月の三十一日に、この事件の、当たり屋の詐欺事件の、有罪の第一審判決がございましたので、直ちに私どものほうから三件についてその当時の具体的な状況の詳細な調査を一応指示いたしまして、その調査の結果を待ちまして、なおまたこの五月三十一日の事件は、被告人は控訴しておりますので、確定を待ちまして、それぞれ再審の請求というような手続をとりまして、この不幸にして有罪の判決を受けた人たちのあと始末に遺憾のないようにいたしたい、かように考えております。

 

○沖本委員 当たり屋ということになりましたので、私のおるところが釜ヶ崎ですけれども、当たり屋では一番問題点があるところなんです。説明を加えながら御質問したいのですけれども、いま大竹先生がお取り上げになった御質問の内容は最も特殊な当たり屋の事件で、まあ、あまり例を見ないような内容なんですが、実際現地であるのは、釜ヶ崎の道路を広くしてあるのですけれども、やはり社会に対する反発心か何か、夕方になりますとほとんどが酔っぱらって、歩道なんか歩く人はいないわけです。ほとんど車道を一ぱいになって歩いているわけです。ですから通る車が遠慮して、車のほうが逃げてしまうというような状態なんですけれども、当たるつもりで車が当たるわけではないのですけれども、そういうところにいろいろな事件の要素があって、警察のほうもそれをうんと取り締まればいいと思うのですけれども、取り締まることによってまた騒動を起こす原因にもなっていくわけです。そういうところで、現状としてはさわらぬ神にたたりなしで、結局放任してある。できるだけ騒動に向かないように、そっとして見ておるというのが現地の状況です。ですから、特に当たり屋というのが釜ヶ崎にたくさんいるというわけじゃありませんけれども、やはりそういう事件が起こりやすい。何か当たるともうすぐ引っかかっていく、そういう要素は多分にあります。しかしその問題から、結局道路幅が狭いところに行くと、西成あたりの道路の狭いところでは、そういう不法者であるとか、あるいは日雇い労務者という人に限らず、婦人でもやはり車がうしろに来ておってもよけることがないのです。ですから、しかたがないから車が徐行するというような内容になっております。そこで大事なのは、やはりそういう車のほうを取り締まるばかりでなくて、歩いている歩行者に対する道路交通の道徳とか、そういうものに対するもっと厳重な忠告、あるいは指導、こういうものが十分なされなければならない、私はそう考えるわけです。

 ところが、横断歩道をたくさんつくりましたけれども、悲しいことに横断歩道上の子供に対する事故が多いわけです。それで今度は交通知識に対して、やっと学校までいま正科に取り入れつつあるというところなんですけれども、これはもっと早く学校のほうが子供に対して交通の標識とか、あるいは交通道徳とかいうものが、もっとはっきりされたほうがいいんじゃないか。昔は、人は左、車は右というような、あるいは通行上の問題で、左側通行というようなことが徹底しておったわけです。ところが、最近はそういうものがだんだん言われなくなってきました。そこで、横断歩道上の子供の安全を守るために、そういうものに対する厳重な取り締まりはやっておられますけれども、さらにやりながら、子供のほうが、おじさん、おばさんそれは違う、こっちを歩くべきだ、横断歩道を行ってください、そういう運動が相当起こることによって、事故というものがもっと防止できるということになるのではないかと思うのです。外国のほうの例を見ますと、結局子供の間から交通に対する知識というものは十分徹底されておる。また、交通道徳に対する問題は社会上きびしく行き渡っておるわけです。そういう点からも交通事故がないということになるわけです。いま申し上げましたお話に対して、それぞれのお立場のところではどういう対策をとっておられるかという点について、御説明いただきたいと思うのです。

 

○綾田説明員 車両だけではなくて、歩行者を現場で指導、警告を十分にするということでございますが、私どももそのように考えまして、歩行者については重点主義で指導、警告を行なって、年間の検挙者も非常に少なくて、主として指導、警告をやっております。ただ、釜ヶ崎につきましては、私も大阪で前任地でございますけれども、いろいろ非常にむずかしい事情がございますけれども、今後やはり酔っぱらって歩くというようなものは、問題が起きないようにうまく指導、警告することが必要だと考えます。

 それから、子供の安全教育でございますが、欧米のお話がございましたけれども、日本におきましても、子供にはやはり小さいときから交通安全を身につけるということが一番だと思います。特に歩行者だけではなくて、これからの子供は将来のよきドライバーとしての安全を身につけていくということが根本ではないかと思います。文部省も、全国の各小中学校では――京都あたりでは非常に早く始めたところもございますし、まちまちでございますけれども、最近文部省のほうでも、この安全教育というものを重点に取り上げてやる方針を決定いたしたようでございます。大阪などにおきましても非常に熱心な学校と、熱心でない学校がありましたけれども、だんだん歩調がそろってこれが推進されておるようでございます。警察といたしましても、学校教育に対して、側面からできるだけ援助したいというふうに考えております。

 

○沖本委員 子供に対する安全教育についてですけれども、安全教育の公園をつくったりして、実際に信号機をつけて、そこを子供の車で走らして遊ぶ立場から勉強さしていくというようなところが大阪でやっと一つできた。東京でもありますけれども、非常に数少ない。そういう点が、やはり警察側と文部省の側ですね、こういう関係で横の連絡が非常に少ないのではないか。文部省のほうも自然に予算の関係でしぼられますので、結局学校のほうとしても金がかかるから、そういうことはやりたくないというようなことが一つの隘路となります。そういう点から、おとうさん、おかあさんのほうも含めて、やはり同じような教育をしていかなければならない、そういうふうに考えるわけです。そういう点で、何かもうちょっと力が足りないのじゃないか。もっと深く掘り下げて、真剣にやっていただきたい。そこで起こる成果というものを十分考えて行なっていただきたいと考えるわけですが、そういう点についていかがでしょうか。