43-参-法務委員会-23号 昭和38年06月27日

 

昭和三十八年六月二十七日(木曜日)

   午後零時六分開会

 

  本日の会議に付した案件

○刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法案(内閣提出、衆議院送付)

○検察及び裁判の運営等に関する調査

 (吹田事件に関する件)

 (地方選挙違反事件に関する件)

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○亀田得治君 たとえば昨日の臨時司法制度調査会で検察官の方々との懇談会を持つ機会があったわけですが、そういう場合にもたまたま私もこの問題に触れたわけですが、といいますのは、検察官に若い人がなかなかならない、こういうことがまあよしあしは別として、現実に起きているわけですね。やはり若い人は公安事件というようなものには関心が深いわけです。そういう問題についてどんな処置を検察当局がするだろうか、こういうことがきわめて敏感に響くわけなんです。司法修習生の時代にいろいろ検察庁で説明をしたり、あるいは誤解を解いたりといったようなことも、ある程度役立つかもしれませんが、やはり何といっても注目されている問題について、検察庁というものが、形式的な正義じゃなしに、ほんとうに人の心に触れた正義というものをしっかりつかんでいるんだというふうな感じを与えるか与えないか、こういうことが非常に大きく響くのではないか。これは単に吹田事件だけじゃありません。ほかのことでもいろいろあるわけです。たまたま吹田事件が今こういう段階にあるものですから、その例を引いただけですが、そういう面からも慎重にこれはやってほしいと思うのです。下手をすればよけい志望者が少なくなるし――志望者を多くするためにことさらに曲げてやってくれということじゃない。ほんとうに正義感に合致するような措置をとるということが、そういう検察官の数の問題等にも非常に響いているのだということをまあ申し上げるわけです

 そこで、まあ大臣は、検察当局が判決をよく検討して、そうして措置をきめるだろうというふうに言われましたけれども、この判決の検討をすれば、これは必ずどうも裁判長は検察の言い分を過度に採用しておらないというふうな感じを検察当局はおそらく持つだろうと私は思う。そうすれば、それだけでいけば控訴だということに当然これは論理的に発展するわけです。私はその点をよく慎重に検討してほしいと言っているわけです。一般の人がこの問題について指摘しておりますのは、ともかく十一年間もこういう事件でたくさんの人をくぎづけにしているという事実について指摘しているわけで、いやそれは何か法に触れることをやったのだから仕方がないのだというふうな簡単な論理では済まされぬ感情というものを一般の人が持っているわけなんです。それは事犯にもよるわけですよ。これが強盗したとか、いや窃盗だとかというようなことであれば、これはまた別です。根本は、当時は朝鮮戦争勃発二年目で、やはり戦争はほんとうにいやだ、単純にそういう気持の人がこれは大部分です。ことに女の方も六名ほどおられます。当時はみんな二十才前後。ほとんど単純なそういう気持なんです。初めてそういうものに行ったという人もおるわけです。それはただ戦争反対というデモがあるからということで、集まって行っているわけです。

 ところが、そういう人が付和随行ということで起訴される。これは罰金だけですね。罰金幾らになりますか。二千五百円くらいでしょう、最高が。そういう人が十一年間裁判にかかり、結婚でもみんな苦労した。しかし、ほとんどいろいろな道をたどって結婚しておる。ところが、しょっちゅう裁判にひっかかっているものですから、一人一人のことを聞きますと、流産があったり、それから夫が会社を休んで公判の日には子供の守をしたり、初めは子供を連れて行った人も相当おるようです。しかし、あとの子供に対する影響が非常にやはり悪い。それで、夫はその日は休む、休みの日を振りかえて。いろいろなことをわずか罰金二千五百円程度の付和随行者がやってきているわけですね。それが三十人おるわけですよ。女性は六人ですが。

 そういう点を、これはもう立場が右だとか左だとかでなしに、ほんとうに人道的な立場で、一体これをどう処理するのが正しいのかということで、大阪で現在はもうあらゆる階層の人が心配している。これを判決に書いてある理屈がどうも気にくわぬからということで控訴する、また上告、また、裁判の進展いかんによってはそれだけで終わらないで、また差し戻しといったようなことに理屈だけをたどってやっておればなる可能性もある。全くそれはばかげたことでして、そういう角度からのひとつ御検討を検察当局に十分やってもらいたいと思っておるわけでして、大臣にぜひそういう人道的な立場からの検討をひとつ最高検の当局に御指示を願いたいというのがきょうの私の質問の結論なんです。検察当局の御検討を待つというのじゃなしに、その点どう裁断が下されるかということで非常に注目しておるわけでして、それを大臣に要請をしたいわけです。どうでしょうか。

 

○国務大臣(中垣國男君) お答えいたします。

 お尋ねの前段のほうで、裁判がいわゆる十年裁判と申しますか、十年以上もかかっておる、それがためにあらゆる意味で人権が侵害されておるのではないかということでございますが、私も全く同感でありまして、裁判ができるだけ短期間に行なわれることを希望しておる一人であります。刑事被告人という立場に立たされた者が、自分の立場につきまして真実を認定されるということ、それに対して時間が十年も十一年もかかるということ、こういうことにつきましては、いまいろ御論議もあろうかと思うのでありますが、法務大臣といたしましては、できるだけ短期間に裁判されることが望ましいと申し上げる以上いろいろなことを申し上げますと、裁判に干渉するようにとられても困りますので、その程度にしておきたいと思います。

 それから吹田事件につきまして控訴に対しまして法務大臣として検察当局に対して意見を述べたらどうかという御意見でありますが、これにつきましては、従来の例といたしまして法務大臣が積極的に指示するというようなことは、今までは例がないようであります。もし相談でもあれば私は私なりの考えを述べたいと考えているのでありまするが、ここで必ずそういう指図をいたしますという約束をするということはどうかと思います。ですから、法務大臣としましては良心的にこの問題については対処するというところで御了解をいただきたいと思います。

 

○亀田得治君 ある程度了解できるわけですが、もうちょっと詰めて申し上げますと、三十名付和随行者といったような方がおられるわけですね。少なくともこういうものはこの際人道的な立場からやはりはずしていく、最小限度これくらいのことはもうちょっとはっきりおっしゃってもらっても、ちっとも差しつかえないように思うんですが、どうですか。

 

○国務大臣(中垣國男君) お答えいたします。

 判決の内容をよく精査いたしまして一応の検察当局は結論を出すでありましょうけれども、ただいま御指摘のとおりに、単なる罰金刑であるといったようなそういうものを十一年もかかってようやく判決が出た、それをまたなお控訴をするというようなことは、私個人といたしましてはそういうことは好ましくないと思いますけれども、しかし、この事件は、個人が中心になって問題になっているのか、いわゆる吹田事件と称するものがもう少し広い意味におきまして問題になっているのか、そういうこともしろうとの私にはよくわかりませんけれども、御意見のほどはよくわかりますので、私としましては良心的にいろいろ考えてみたいと考えております。

 

○亀田得治君 じゃ、もう一度だけ。もちろん三十名の付和随行者といいましても、検察の起訴の仕方自体は、騒擾のほかに威力業務妨害というものをつけておりますから、求刑は体刑になっているわけなんです。しかし、騒擾と威力業務妨害というのを二つこうくっつけているのが、これは裁判でも争点になっておったんですが、騒擾罪がこれは主体なんです。威力業務妨害的なものは騒擾に含ませて処理しているわけなんですが、付和随行だけだと三十人ほどは罰金だけの対象であるから、それに対して勾留をしたりといったようなこともひど過ぎる印象を与えるので、威力業務妨害にくっつけている。だから、形の上では求刑は皆体刑などをされているわけですが、実質的には今申し上げたようなわけです。だから、そういう点をぜひこの際よく御研究を願いたい。おそらくメーデー事件、大須事件などもこれはまだだいぶ先になるようですが、三つの大きな事件として言われているわけでして、今度の扱いというものが相当やはり一つの前例等にもなると思いますし、慎重にひとつ先ほど大臣が言われたような気持で御検討あらんことをお願いしたい。

 もう一つは、まあこういう長期裁判が起きまして、裁判の途中でもだいぶ批判が出たわけですね。こういう事件について、わずかの関係しかない人まで洗いざらい起訴していくということがはたしてどうだろうかというふうな批判等もあって、たとえばその後に起きた釜ケ崎の事件ですね、ああいう場合には、個々の人の責任を追及するという格好で処理していったわけですね。だから、人数は少ないし、事件としては個々に扱っていくんですから、早く処理もできていっているわけです。で、こういう点等もこれは起訴のやり方の問題でありますが、今後十分気をつけてやってもらいたい。あわせてこれを要望して、時間もありませんから、この程度にいたします。

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