43-衆-大蔵委員会-38号 昭和38年06月24日

 

昭和三十八年六月二十四日(月曜日)

    午後三時十三分開議

 

 国民金融公庫法の一部を改正する法律案(内閣 提出第四五号)

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○春日委員 いま大蔵大臣は、わずかばかりいままで施策が講ぜられた分を読み上げられまして、こういうことをやってきたんだから、いま旧地主に対してこのことをなすことも、機会均等の原則に反するものではない、こう言われておりますが、ならば、私がこれからお伺いをいたします項目について、いかなる施策が講ぜられておるか、それぞれひとつ御答弁を願いたいと思うのでございます。

 まず第一に、戦時補償特別措置法によって打ち切られた請求権の損失、その第一番に軍需会社等に対する補償金、第二には、陸海軍納入物資の代金、この中には農事実行組合が納めた馬糧用雑穀、薪炭、松根油、そういうようなものも全部支払いが行なわれておりません。第三には、当時の土木請負業者等の工事代金、第四には、沈没した船舶に対する保険金、この中には漁船までが含まれていることは御承知のとおりであります。第五には、個人や法人の企業整備の補償金、これは一体どうなっているか。第六には、五万円をこえる建物疎開の補償金、これは一体どうなっているか。第七には、戦時保険によりまして、保険金が法人は一万円、個人は五万円で切り捨てられている。そもそも保険金というものは、大体五十年に一回しか災害がないものとされている。五十年に一回そういうような災害があったときに、自力によって再建することのために、五十年間保険金をかけて、その一時の災害に備えるのが目的です。特に戦争中は被害が多いということで、戦時保険というもので高い保険料率を納めて、そうしてその不時の災厄に備えているわけです。そのときに、法人は一万円、個人は最高五万円、これで切り捨てられて、残余のものは未支払いのまま今日に至っている。これは、全国において何百万というものが対象に相なっている。これは一体いまどうなっておりますか。第八には、銀行等の命令融資等による損失の補償金、第九には、社債等の元利保証金、こういうものが第一に、戦時補償特別措置法によって打ち切られたものです。たとえば旧地主団体やあるいはその他の団体のように、全国的な組織をつくり上げて、そこで何千円という会費、運動費を出し合って、それで適当なオルガナイザーがおって、そいつを全国的な圧力団体に組織して、政府に体当たり殺倒したものについては何がしの処置が講ぜられておるが、以上申し上げましたような善良なる全国の数百万の被保険者、企業整備を受けた中小企業者、建物疎開を受けた、楽しいわが家をめちゃくちゃにこわされてしまって、五万円もらってあとはさようならと言われた人人、こういう者は全国的な組織運動が起こらない。適当なオルガナイザーもあらわれてこないで、いまそのままになっておる。ことごとくこれらの諸君は当時国の施策に貢献をし、そうしていまほんとうに住むに家なく困っておる。アパートにいくにしてもなかなかたいへんなことなんですね。そういう人々の上に何らかの施策を講ずるの意思があるか。本日農地補償については二十億の道が開かれた。さらに農地被買収者調査会設置法の答申を待って何らかの補償が約束されておるのだが、法律の前に国民常等の原則を政府が確認するからには、これらの人々に対しても同じような政府施策を政府は相次いで講ずるの決意があるのかどうか。この機会を通じて全国民に明確なる公約を与えられたいと思うのであります。

 

○田中国務大臣 春日さんいま言われましたもろもろのことに対しては、私たちもえりを正しておるわけであります。これが戦争に敗れた日本の実態であります。こういう問題は真剣にお互いが取り組むことはほんとうに必要なことであると私は思います。しかし戦争に敗れたという時点に立って考えますときに、国民はあなたがいま言われたとおり、大なり小なりすべて被害を受けておるのであります。当時の指導者の責めかもわかりませんが、いずれにしても大なり小なり国民は敗戦ということによって、すべてがその差こそあれあらゆる面において犠牲をしいられ、損害を受けておるのであります。でありますから、この中でやむにやまれないものは一つずつその時点に解決をしてくるわけでありますが、それが先行しすぎて自国の再建そのものが画餅に帰してしまうような道はとらないわけであります。でありますから、健全財政の基本を貫きながら、しかもわれわれの生活がきょうよりもよくなるように各般の施策を行ないつつ、国民に理解を求めつつ、今日十八年間の歴史を築いてきたわけであります。でありますから、その中に一つずつその時点において解決をせざるを得ない問題に対しては、誠意をもって、政府も、国会も、国民自体も、それを理解して今日に至っておるわけであります。でありますから、私はその意味において、西ドイツが戦いに敗れてからあらゆる戦時補償や戦いのために犠牲になった者に対しては無条件でこれを処理をしたという考え方は、これはもう何回も負けて敗戦の歴史を何回か経ておる国民でありますから、そうしなければ国家の再建はできないものだというふうに思い切った施策をとったことは、私も敬意に値するものだと考えているわけであります。でありますから、政府が全くそういう問題を一顧だに値しない問題として考えておるわけではないのであります。でありますから、今日まであなたがいま言ったようないろいろな問題を全部片づけることはできませんでしたが、こういうふうに凡百の問題を少なくともその時点において誠意をもって解決をしてきたわけでありまして、国民自体もそれを理解したので今日のような日本が築き得たわけであります。そういう問題はやはりよく考えていただいて、やっぱり日本人として可能な最善ということを見つめながら一歩一歩前進をしていくということが政治であり、行政の実態だと考えておるわけでありまして、春日さんもそういう事実をひとつ十分御理解賜わりたいと思います。

 

○春日委員 これは全く答弁にはなっていないと思います。国敗れて山河ありということがあるが、日本敗れて保守政権ありということなんですね。保守政権はその地盤となるものに対して偏向して施策を講じておる。そのことが本日この日本の政治と経済をかたわにしてしまっておるのです。私はこの点を大蔵大臣に対して特に御銘記を願いたいと思う。本大蔵委員会は、過去十カ年間のうちに、かれこれ三、四回にまたがって欧米諸国――大体日本とレベルを一にするところの工業国の視察をしてきておるのであります。アメリカにも、また西ドイツ、フランス、イギリス、イタリーすらまで中小企業という政治問題がないのです。皆さん御承知のとおり、あなた方の力によって相当に日本国は経済の興隆を来たしたと言っておるけれども、こんなものは大したことはないのです。なるほど大企業、大財閥、保守政権関係のそれぞれの国民は繁栄をもたらし得ておると思うが、山谷のドヤ街とか釜ケ崎のドヤ街にはなお数万の絶望者がおる。全国のスラム街にはこれが五十万おる。百六十万の生活保護者、千百万の低所得者ボーダーラインがおりますこんなものは、田中大蔵大臣が自由民主党の施策の結果、日本国の興隆を来たしたなどといばるような結果にはなっておらない。三井、三菱、住友、そういうようなところはマンモス的成長を遂げておるけれども、山谷のドヤ街には、全国のスラム街には五十万の絶望者がおる。百六十万の生活保護者がおる。一体あなた方は何をか国民の前にその大口をたたくことが許されますか。いいですか、国民所得は西ドイツは日本のそれの大体三倍です。日本の国民所得が十万何千とすると西ドイツは三十万。それは日本国の半分の人口とあんな小さな国土の中においてそれだけの施策が行なわれておるのは、政策が平等に行なわれておるからなのですよ。いまここにその補償の問題についても、いまあなた方は圧力団体に対してはしかるべき施策を行なってきておる。いま一つの盲点に置かれて施策を受けることなく置き忘れられておる請君の階層は何か、これを調べてみると、軍需会社に対する納人品代金がもらえていないのは、みな下請企業です。中小企業の諸君。一生懸命で軍需会社に品を納めた。戦時補償特別措置法、この法律をたてにとって親会社が代金を支払わず中小企業者は全部まる裸になってしまった。そうして本日その補償を行なっていないのです。それから建物疎開をやった諸君も、企業整備、みな中小企業です。何も補償をいただいておりません。戦争によって家が燃えた、工場が燃えた。何百万円という保険の契約を結んでおった諸君が、法人が一万円、個人が五万円だぞ。そうしてそれが打ち切られて本日まで何らの補償が行なわれていない。旧地主に対しては、この間聞くところによると、綱島正興先生の案によると二千八百億とかいう膨大な金を旧地主に対して何らかの形により補償する、そういう形で近く答申を待って施策を講じられようとしておるのであるが、これらの諸君に対しては本日までびた一文も払われていないが、将来において二千八百億旧地主に補償するがごとく、二百八十億でもいい、たとえ二十八億でもいい、その程度の金を支払うことによって、法律の前に国民平等の原則を貫いて、そうして本日わが国の経済が二重構造、三重構造、産業間、階層間、地域間、そういうような所得の格差を解消することのために何らかの適切な施策を講ずる意思はないか、この点この機会に明らかに政府の方針を述べておいていただきたいと思うのであります。

 

○田中国務大臣 いままで御発言にありました戦時中における疎開その他を含めた様たな問題につきましては、国ができるだけ早い機会に立ち直って、これらの問題を一つずつ片づけていけるように、何らかの措置をしていけるように、国の力が大きくなることが望ましいことであります。また政府も日夜それを考えて、われわれの生活のレベルアップまた所得の倍増に精を出しておるのでございますが、現在の段階においては、一つずつの問題もさることながら、戦後他の先進国に比べては低いとはいいながら、相当社会保障も拡充いたしてきておるのでありますし、もろもろの社会的施策を行なっておりまして、できるだけ早い機会に先進国の最も高い水準にまでこれらの施策を推し進めていくことによって、これらの方々に報いたいという考えでありますので、いまあなたがたくさん申されました問題、私もその当時被害者の一人でもありましたので、おっしゃることはよくわかります。よくわかりますし、事実も、うなずけるものがございますが、これを一々全部取り上げていつの日にか解決できるかということになりますと、これは政治の一つの基本的な姿勢の中に当然組み入れるべき問題だと思いますけれども、政府がこの段階において、このようなスケジュールによってこういたしますなどと言うには、あまりにも大きな問題でございますので、その間の事情は、毎度政府の立場を申し上げておりますことともあわせて、御理解いただきたいと存じます。