43-衆-予算委員会-5号 昭和38年02月02日

 

昭和三十八年二月二日(土曜日)

    午前十時十一分開議

 

本日の会議に付した案件

 昭和三十八年度一般会計予算

 昭和三十八年度特別会計予算

 昭和三十八年度政府関係機関予算

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○春日委員 それじゃ、また再来年くらい自民党の総裁から陳謝を取りつけることにいたしましょう。そういうことでございます。時間がございませんから外交問題その他いろいろありまするが、分科会に譲るといたしまして、今度は重要な問題だけ伺っておきたいと思います。

 経済問題。主として中小企業問題になると思いまするが、私はここで総理大臣に伺っておきたいのでありまするが、私どもが自民党政府の大企業偏向政策をいろいろと批判いたしまする場合、そのとき総理大臣並びに関係経済閣僚の答弁は、野党の諸君がそういうことを言うけれども、しかしこの自民党政府の歴年の施策の成果として日本の経済は成長したではないか、日本国民の生活水準はかくのごとくに高まっておるではないかと答弁されるのが、また反論されるのが通例でございます。私はこの際その国際的の事実関係を照らし合わせて、総理に判断を求めたいと思うのであります。

 これは経済企画庁の調査、一九六二年五月現在のものでありまするが、それによりますると、日本、米国、英国、フランス、西独、イタリー、ソ連、中共とありまするが、そこの中で各国の経済力の比較表、これは日本がそのとき十五億八千六百万ドル、今はずっとふえておるでありましょうが、そうである。このときに西独は六十億である、人口は九千四百万であるのに対して、西独は四千八百万、輸出能力は日本が四十二億ドルであったに対して、西独は百二十六億ドル、国民生活の水準は日本を一とするならば、西独は二・九、イギリスは三・四、アメリカは七・五、西独は約三で日本の三倍。それで国民一人当たりの所得は日本の十万七千五百十五円に対して、西独は三十三万二千六百四十円。これを一体総理は何と判断されておるかという問題でございます。

 御承知の通り、日本も西独も同じように第二次世界大戦における敗戦国、しかし違いまするところは、西独は戦場になりました。そして国土が二分割されました。そしてその敗戦のとき、占領しておったソ連軍が、西独にあったところの機械、設備を全部略奪して、ソ連国内に持ち去ったことは御承知の通り。これは満州における満州重工業関係のものを持ち去ったことと同様であります。その当時二百億ドル、満州関係八十億ドルと評価されたほどであります。それでありまするから、西独は丸裸になっちゃった、同じ敗戦国でも。そうして人口は二分されて四千八百万、国土は日本の五分の一。この西独が戦後十数年間西独国民の勤労の成果、それから西独政府のその施策のよろしきを得た結果といたしましてか、とにかく日本の半分の人口、五分の一の国土でもって日本の三倍の経済力、国民生活は三倍に高められ、保有外貨はかれこれ四倍近い、輸出能力は、やはりこれも三倍以上ということになりましょう。だといたしますると、その国民性も類似しておる、工業国として、勤勉国として非常に似通っておる西独において、こういうような大いなる繁栄がある。私は自民党内閣の歴年にわたるところの経済施策は、やはり功績は功績としてこれを認めるにやぶさかではない。けれども、西独のそれに比べてなおかつ劣るものが多くある。山谷のドヤ街に、釜ケ崎のドヤ街に、全国のそのような特殊スラム街に絶望者たちが数十万人おります。生活保護者が百四十何万人、そうしてボーダー・ラインにおって、今にも生活保護に転落しようという低所得階級が一千一百万人。このことは西独の勤労者の所得がうんと高まって、今や西独国における国民の中堅階層がその生活も地位も安定しておることとあわせ判断して、日本におきまするこれらの実態は非常なおくれがあると思う。だとすれば、このことは日本におけるあなた方の施策が何か足らないものがありはしないか。何か間違っておるものがありはしないか。西独、イタリー、こういうような敗戦国のその再建と経済成長、国民生活水準の向上とあわせ判断して、大まかな一つの反省というものがあってしかるべきであると思うが、いかがでありますか。

 

○池田国務大臣 外貨保有高につきましては、お話しのごとく各国いろいろな事情がございます。ただ、私が申し上げておることは、日本国民の努力によりまして非常に高度の成長を続けておるということであるのであります。もちろん過去の蓄積等は、これはもう西ヨーロッパに対しまして比較になりません。しかしただ、日本が非常な早い速度で伸びつつ行っている、またインフレその他の懸念もない、こういうことをわれわれは誇りとし、それを続けていこうとしておるのであります。もちろんイギリスのような国が、あれだけ過去の蓄積を持ちながら、成長力が非常に弱まっておるというふうなことから比べると、日本はこれから先進国に伍していける素質を持っておるということで、その素質を伸ばしていこうといたしておるのであります。

 

○春日委員 私がお伺いいたしました要旨は、まあ自民党さんも一生懸命やっていらっしゃる。しかしわれわれの観点からすれば、それは大企業偏向である。中小企業並びにそのもとに働く関係労働者あるいは農民その他の者に対する施策は非常に薄い。だからわが国の経済は二重構造になっておる。二重構造のひずみの中からいろいろなおくれや貧困を発生しておる、こういうふうに申し上げておるのでございまするが、それは他の機会に深く論ずることといたします。

 そこで私は総理にお伺いいたしたいことは、何といってもわが国の産業経済を分析いたしまするならば、それは経済学者も経済評論家も、相当の経済人も、これは二重構造であると言っている、ある者は多重構造だと言っている。これは要するに企業間、地域間、産業間に相当の断層があるといわれておる。このことは、労働大臣がお見えでございましょうけれども、昭和三十六年の企業別賃金格差対比率によりますると、大企業の賃金を一〇〇として、三十人未満の事業場における中小企業関係労働者の賃金は四九・三、これは三十六年度の通算でありまするから、三十七年度にこれは多少変わっておるといたしましても、実態にそんなに変化はない。同じ政府のもとにおいて、憲法のもと、法律施策の上において、国民は平等の原則が保障されておるが、同じ施策のもとにおいて生きる国民が、同じ国民が、ある者は一〇〇の賃金所得が保障せられ、ある者はその半分にも満たないような賃金しか得れないというこの経済の実態を何と見るか。これは何とか是正しなければならぬ。所得格差を是正すること、それから所得の均衡をはかること。高度成長政策とか何とかというものも総理からずいぶん伺いました。それはいろいろと分配するもとをまずつくるんだというその説、もう聞き飽きております。ただ問題は、日本の経済というものの所得格差、この断層を圧縮することのためには、まず今までのやり方と変わったやり方が必要ではないか。安定成長、均衡ある発展、こういうことでなければならぬ和そのためには、現在の日本の経済構造を、これを政策的に大きく改善、改革せなければならぬとはお思いになりませんか。この点についてお考えを……。

 

○池田国務大臣 所得格差はどこの国にでもあるのでございます。今、労働者の点から申しましても、イギリス、ドイツ等におきましても、大企業としからざるものの間におきましては、大企業を一〇〇とすると七五、六、八〇以下でございます。ただ日本の状態は、三十五年の終わりぐらいまでは、お話の通り四八、九であったと思います。しかし今は五四、五になっていっておると思います。しかしそれでもなお足りません。そこで私は、どういうふうにしてこの所得格差をなくするかということにつきまして、従来から考え、まず第一の問題は農業でございましょう。それからまた業種別、規模別格差、これが今のお話の点だと思います。これをどうやっていくかという場合におきましては、私はやはり高度の経済成長によって薄い方を厚くすることが第一だと考えておるのであります。従いまして、高度成長内におきましての所得格差はかなり縮まってきつつあります。そこで、いろいろな消費物価の上昇等を言われますが、これは、物価は上昇しないに越したことはございませんが、しかし、所得格差をなくしなければならぬという強い命題から申しますと、ある程度はがまんしていただかなければならぬと私は考えておるのであります。従いまして、中小企業、ことに自由職業の方の賃金も相当上がってきております。徐々に格差をなくする方向に進んでいっておる。しかもその進み方は、外国のそれよりも非常に早くいっておる、格差をなくする上におきましても早くいっておる、こう私は考えております。

 

○春日委員 問題は、総理、あなたは今まで高度成長、所得倍増政策をその経済政策の基本方針とされておりました。まあ、そういうことも必要でございましょう。とにかく分配を豊かにするためには、そのもとを大きくすることは必要でありますけれども、今やこの段階においては、パイを大きくつくることは必要ではあるけれども、しかしそれを分配するそのメスの入れ方ですね。それを、ある者だけがうんとたくさん食って、他の者がほんの薄っぺらなものも食えないということでは、これは何も国民に福祉をもたらす形にはならぬ。経済政策の要諦は国民福祉の増大にある。そういう点から考えますと、何といっても、これはすなわち、あなたの政策の具体的な方向というものを、この際は、高度成長から、やはり二重構造の解消、それから国民所得の均衡をはかる方向、ここへ重点を置きかえなければならぬと思うが、宮澤経企長官、それから大蔵大臣、通産大臣、この三大臣、一つ答弁してみてくれ。

 

○宮澤国務大臣 過去のことをおきまして、今の時点で考えますと、まさしくそういう問題が私どもにとって一番大切な問題だと思います。農業については、今総理がちょっと触れられましたが、先日申し上げましたように、技術革新に伴うところの設備の更新等が大企業については一巡したやに思われますが、これから中小企業にも、おそらくそういうことが起こるであろうということを先日申し上げかけたわけでありますが、それはそうなければならぬことだと思います。中小企業基本法等、いろいろな法体系の用意、あるいは金融措置なども用意されておりますが、経済の大きな動きとしては、まさにそういうことがこれから中小企業を中心に起こっていくであろうと思います。それとともに、おそらく五年くらい先には、かなりの中高年令層を別にいたしまして、一般的な労働事情の逼迫と申しますか、生産性を高める必要が起こって参りますから、趨勢としてはまさしくそうであると思います。

 

○福田国務大臣 日本の中小企業には特殊の事情が起こったことは、地理的、歴史的、いろいろな事情があったことは、あなたもおわかり願えると思うのでありますが、しかしこの段階において二重構造を是正をしなければならないというお考え、その方針には私は賛成でございます。

 

○田中国務大臣 地域間や業種間の格差是正に対して諸般の立法処置を行ない、予算措置も行なっておることは御承知の通りであります。中小企業に対しては、春日さん中小企業の専門家であり、私も御質問を受けながら随時検討いたしておるわけでありますが、これは政治の面、行政の面で一つ思い切って取り組まなければならない問題であるということだけは事実であります。また、三十八年度の予算でも、あなたがいつでも言っておられましたように、中小企業投資育成会社等にも踏み切りましたし、今度の税制等の改正につきましても、圧縮記帳の問題、その他中小企業育成等の各種の手段を行なっておるわけでありますが、中小企業そのものをただ現実的な目で見て、このままの姿でもって中小企業と大企業との格差が必ずしも直ちに是正できるかということは、問題があると思うのです。

 時間がありませんから簡単に申し上げますと、日本の中小企業はいかにも多種多様である、こういうところに大きな問題がありまして、お互いこの問題に対しては、一つ積極的に取り組みながらこの問題を解決しないと、日本のほんとうの経済革新というものもできないという考えに立って、政府も鋭意これが目的達成に努力を払っているわけであります。

 

○春日委員 結局、明らかになりましたように、今後の具体的経済政策の方向というものは、高度成長にあらずして、二重構造の解消、国民所得の均衡をはかるという方向にこれは組み直さなければならぬと思う。かくのごとき要請にこたえるものが、私は中小企業基本法であろうと思うのですね。だから問題は、私は総理以下関係閣僚に申し上げたいのでございますが、この中小企業基本法というものは、中小という名前がついておるものだから、何だか政治問題としてその価値の評価が中ぐらいのもの、あるいはちっぽけな政治問題のごとくに印象づけられておるというきらいなしとはしないのですね。だから、私はそういうような大目的、国民の福祉の増大、富の所得の格差、これをなくする、均衡をはかるという大きな問題、これは政治問題の全的なあらゆる要素を包含しておると思うのですね。従って、この中小企業基本法こそは、わが国の経済改造法案みたいなものだと思うのですね。社会改造法案、日本国改造法案、私はこのような大きな使命をになうものであると思うので、従って各条文の作成、これは基本法であるからおのずから国家宣言になるであろうと思うが、その宣言は、私は、てきぱきとした明確な、篠田弘作氏のような人柄で、ばりっと言いたいことを言ってもらうような、そんな発言、表現が必要だと思うのですよ。私は、中小企業基本法を読んでみると、一体どちらを向いてものを言っておるのか、実際わけがわからぬ。私は、通産大臣に対してきわめて遺憾の意を表せざるを得ないのだが、これは一体どちらを向いてものを言っておるのか。大企業に気がねして、あるいは農民団体や消費者団体にも気がねをして、そしてぶつぶつとひとり言をつぶやいておるようなものですね、実際の話が。厳然として国家の意思を宣言するの鮮明さを欠いておるのですね。だから、私はこれが日本国経済改造法案である、日本国改造法案であるという見識の上に立って、この文言あるいはその宣言内容というものをもう少し高めていただくのでなければならぬ。昨日も新聞報道によると、いろいろな団体がいろいろな圧力をかけて、その弱いつぶやきをさらにサイレントにしようとしておるのですね。まことに悲しむべき事態と申さなければならぬ。

 そこで総理、伺いますが、中小企業基本法はいつ提出されますか。