40-衆-本会議-7号 昭和37年01月24日

 

昭和三十七年一月二十四日(水曜日)

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 議事日程 第六号

  昭和三十七年一月二十四日

   午後二時開議

 一 国務大臣の演説に対する質疑

            (前会の続)

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○本日の会議に付した案件

 国務大臣の演説に対する質疑

            (前会の続)

   午後二時二十一分開議

 

○滝井義高君 私は、日本社会党を代表いたしまして、池田総理の施政方針演説に対し若干の点について質問をいたさんとするものでございます。(拍手)

 池田総理は、施政演説の中における政治と行政の刷新の中で、「さらに国会がすみやかに懸案の国会正常化をなし遂げ、国民の負託にこたえられるよう、各党各派の真剣かつ建設的な話し合いを心から希望するものであります。」と、こう述べております。話し合いは、単に議会運営委員会や党だけの話し合いで国会の正常化は行なわれるものではございません。与党と野党とがそれぞれの政綱、政策をもって正々堂々と本会議や委員会で討議を戦わせるところに、国会正常化のいろはがあるのでございます。(拍手)池田総理は、この議場から、あるいは社会党の委員長が、あるいは民社党の西尾委員長が述べられたその口の下から、まだ舌の根もかわかないうちに国会の議場を退場する姿は、一体これを国会正常化とお考えになるのかどうか、まず総理の見解を明らかにしておいていただきたいと思います。(拍手)

 さて、昨年、池田総理は、経済のことはもちろん、生命財産もこの池田におまかせ願いたいと申しました。これはすばらしい言葉であります。この池田内閣の基礎は絶対多数の上に乗っております。しかも、その内閣は実力者内閣でございます。それなのに、そこに日本の曲がりかどが来ておるのでございます。思い起こして下さい。昨年一月三十日、池田総理は、この演壇で、施政演説において、こう然とこう遊べました。「国民総生産は、本年度十四兆二千三百億円に達すると思われる。しかも、卸売物価は安定を保ち、国際収支も依然として黒字基調を維持し、外貨準備高は三十七年三月末には約二十億ドルに達する見込みである。また、雇用情勢も一段と改善を見、国民生活も著しく充実向上してきた。これは、わが国の経済が歴史的な勃興期を迎え、構造的変化を遂げつつあることを物語るものであり、この成長と発展は世界の驚異となっておる」、こう述べました。この自信に満ち満ちた言葉に対して、与党の皆様方は割れるような拍手を送ったのでございます。これを受けて水田大蔵大臣は、日本経済は本年度九%以上の成長が期待されること、歳入が多いから、これで国民所得倍増計画を進めること、金融については、わが国の自由化に伴い外国と競争する必要があるので、すでに金利を引き下げたが、この上もなお低下を誘導することを告げました。われわれ国民は、こういう演説を聞いてこれを信じ、日本丸の前途は洋々たるものである、波は静かで船は快速だと思ったのでございます。すなわち、昭和三十六年度という年は、経済のさらに新たなる成長の道、景色のよい方向への曲がりかどであると信じて疑いませんでした。だが、あれから一年が流れました。事態はだんだんおかしくなってきました。高率成長という数字の代償として、至るところに不安定と不均衡を生み出してきたのでございます。第一に生産と消費の不均衡、第二に消費者物価の上昇、第三に労働力の不足、第四に私的資本の暴走と社会資本の立ちおくれ、第五には国際収支の赤字、第六には過剰設備と過剰生産等でございます。こうなると、池田総理の強気論にも弱気の不協和音がまじってきました。超心臓の自信に、おおいがたい動揺の影がさしてきたと見るのは、私のひがみでしょうか。(拍手)

 私は、まず、高度成長経済がもたらした社会経済的矛盾の一、二について池田総理の見解をただしてみたいと思います。

 第一は、消費者物価の高騰についてであります。そのメカニズムの中心は独占物価の引き上げにあります。なるほど、名目上の独占物価の引き上げが行なわれていないものもありますが、生産性の上昇でコストは下がっているにもかかわらず、販売価格が下がらないこと自体が、実質的な値上がりを示しております。(拍手)このからくりによって大企業の収奪は強化され、これを起点として、非独占物価、特に消費者物価は値上がりを余儀なくされ、一波は万波を呼んで全般的な物価騰貴をもたらしております。主婦連の調査によりますと、昭和三十六年度中に、ゆりかごから墓場まで、すなわち、お産の費用からお坊さんのお経の費用、さらに墓地に立てる卒塔婆の費用に至るまで、実に七十種類に及ぶ値上がりをしたのでございます。(拍手)いかに庶民の生活を圧迫しておるかがわかるのでございます。特に注目すべきことは、地価の暴騰であります。その原因は、土地使用の計画的なプランを持たない膨張経済が、地価の経済的性質と相待って、一般的物価上昇の機運とともに乗数的効果を発揮したことを見落としてはなりません。このため、生産力の拡大を目ざす中小企業の工場拡張は阻止され、一般庶民の夢であった住宅の建設は、建築資材と土地の値上がりで無限のかなたに吹っ飛び、都市及び工場地帯の周辺の農家は、農業生産力拡大の意欲を失って、地価値上がりの待望型の投機ムードに酔っておるというのが現状の姿でございます。

 池田総理並びに藤山経済企画庁長官は、この物価騰貴に対して、いかなる具体策をもってこたえんとするのか。昭和三十七年度中には二・八%しか消費者物価は上がらないと言っておりますが、抽象的ではなく、国民が安心のできる具体的な方策をここに明らかにしていただきたいのでございます。

 さらに、成長経済がもたらした第二の矛盾は、公害の頻発であります。所得倍増計画によると、いわゆる社会資本の充実と整備が政府の最大の仕事になっていて、一見、公害に対する高い見識を見せているようです。しかし、よく見ると、これは大企業の高度経済成長を援助するか、あるいは固定投資を国家が代替するという性格を持っておるものであって、大企業が地域社会に与える有形無形の害悪に対しては、ほとんど実質的な考慮を払っていないのでございます。たとえば、ビルの無計画な建設、さらに、工場及びビルの地下水のくみ上げ及び地下ガスの採取、これらによって広範に見られる都市の地盤沈下は、一たび台風に襲われると、高潮や河川の決壊の被害を極端に大きくしております。第二室戸台風による大阪低地帯の惨害はともかくとして、大阪財界人が誇るビジネスの牙城、あの大阪中之島地帯が一面に洪水の海となったことは印象的であります。彼らが胸を張って豪語する経済成長の成果が、このような反作用で彼らにはね返ってきた皮肉を一体何と見るでしょうか。先ごろ京浜地帯を襲ったえたいの知れない悪臭は、石油精製工場が捨てたもののしわざであることがわかりましたが、各工場の責任者は、いずれも鼻をつまんで逃げ口上を並べております。これは日本の大企業が公害に対する配慮を全く欠くか、あるいはその政策を行なわないことで企業のコスト・ダウンをはかったものと考えられます。いずれも、その経営者が日ごろ好んで口にする公徳心の尊重とは無縁の態度というほかありません。

 このほか、交通の混乱、交通事故のウナギ登りの上昇、水俣病を初めとして、高度成長のもたらす公害の頻発は、ここに一々あげれば枚挙にいとまないほどであります。このため、大気も、河川も、海水も、景観も、これら一切の環境が急速に悪化をしております。その原因の相当部分が大企業に帰せられるにもかかわらず、具体的な責任の追及が困難であるという事情で、その解決は大部分放置されておるのでございます。この高度経済成長下の公害に対し、総理は一体いかにお考えになっておるのか、この機会に明白にしていただきたいと思うのでございます。(拍手)

 さらに、第三の社会経済的な矛盾は、大企業の中小企業分野への進出の問題でございます。高度成長に伴う産業構造の重化学工業化は、大企業の中小企業分野への進出を必然とします。最近の事例でいえば、八幡製鉄が子会社に資金を援助し、同時に重役の派遣を行なって、中小企業の製品であるボルト、ナット製造に乗り出さんとしておること、また、電気器具製造の巨大メーカーが、中小企業製品である石油ストーブに一斉に進出したこと等があげられます。生産力の向上によって、従来の手工業ないし小規模生産の分野で大量生産が可能となり、ここに大企業が進出をして品質の向上と価格の低下をもたらすことは、それ自体として歓迎すべきことでございます。ただし、現実に見る大企業の中小企業分野支配は、同時に大多数の大企業間の競争を伴って行なわれております。しかも、その競争と中小企業駆逐が、非価格競争といわれる宣伝広告活動を尖兵として行なわれるという点で、必ずしも最終消費者にとって大企業製品が信頼に値するとは限らないのでございます。たとえば電気がまでありますが、出発の初めは中小企業製品の方が優秀なものがあったにもかかわらず、ついに大企業製品によって中小企業の製品が駆逐をされてしまいました。また、大企業の中小企業分野の支配は、初めは中小企業を下請系列化し、その後、技術の吸収が終わった段階で下請関係を断ち切るケースが多いのでございます。そして大企業の中小企業分野支配の最大の問題点は、分解を余儀なくされた中小企業主及びその労働者の救済について、ほとんど何らの社会的保障がないという点でございます。高度成長下においてこのような現状にある中小企業に対して、何らかの積極的な保護対策が必要であることは明白でございます。池田総理は、さきに西尾民社党委員長の中小企業基本法をどうするのかという質問について、明確な答弁を出しませんでした。池田総理は、一体この四十通常国会に中小企業を守るための中小企業基本法を提出する意思があるのかどうか、この機会に明白にしておいていただきたいと思うのでございます。(拍手)

 次に、私は三十七年度予算に触れつつ質問を続けたいと思います。

 そもそも、所得倍増計画の究極の目的は、国民生活水準の顕著な向上と完全雇用の達成に向かっての前進でありました。そのためには、経済の安定的成長の極大化がはかられなければならぬとしたのであります。そしてその目的達成のための主要経済指標が立てられました。しかし、前に述べたように、不安定と不均衡によって、残念ながら、設備投資も、輸出も輸入も、物価も、そして国際収支も、すべて計画された数字はその的をはずれてしまったのでございます。そしてただ一つ、人口増加の推計のみが、白々とした的を確実に射抜いたのでございます。

 元来、経済は人と物で動きます。物と金についての計画は比較的熱心に議論されますが、物と金を動かす主体である人間の問題については、いつも従属的に、付属的にしか議論されませんでした。二兆四千二百六十八億円という、前年度より二割四分も拡大をした大型予算といわれ、しかも、五千八百億に上る新財源を持った三十七年度予算でも、例外でないのでございます。

 所得倍増計画の真のねらいが、生活水準の向上、すなわち所得格差を縮小するものだとするならば、底辺の人たちの生活をどう引き上げていくか、これが予算でどう引き上げられたかが問題の初めといわなければなりません。私は、まず、底辺における問題である生活基準について質問を続けてみたいと思います。

 まず、生活保護基準でございますが、保護基準は、昭和三十六年度当初予算で一割八分、同じく補正予算で五分、さらに三十七年度予算でも一割三分、合わせて三割六分の引き上げがありました。この限りにおいては、幾分の改善があったといわなければなりません。しかし、最近の物価の上昇、特に食料品、公共料金、家賃、地代、サービス料金等の、生活に直接関係のあるもろもろの物価の値上がりは、低所得階層の生活を強く圧迫しております。本年度一割三分の引き上げは、食費でいうと、今までの一人一日五十四円の食費が六十円、わずかに六円程度上がったにすぎないのでございます。はたして、一日六十円――一食六十円ではございません、一日六十円で、この物価高の時代に一人の人間が生きていけるでしょうか。

 失業対策事業における日雇い労働者の賃金についても同様のことが言えます。全国平均一日三百八十六円、これが四百二十五円と、三十九円引き上げられました。就労日数は二十二日間、一カ月九千三百五十円です。日雇い労働者の家族構成は三・四人です。一カ月九千三百五十円で三・四人の家族の生活を想像してみて下さい。何と寒々とした生活でしょうか。まさにこれは昭和の残酷物語といわなければなりません。(拍手)

 池田総理は、昨日参議院におきまして、数年前までは日本の生活程度は世界で四十番目であった、しかし、最近はこれが二十番目になっておると、誇らしげに胸を張って答えたようでございます。しかし、このような底辺の人々に対する思いやりのない政治、貧乏人は麦を食え式のあの政治のもとでは、もはや数字や予算の問題ではなくして、むしろ、日本人のヒューマニティの問題であります。私は、これを高め、これをゆり動かすのでなければ、もはやだめだということを、本年度予算を見てしみじみと思い知らされました。(拍手)私のこの言葉が幾分でも池田総理の琴線に触れるものがあるならば、池田総理の心をゆり動かすものがあるならば、この議場を通じて、池田総理は、率直に自分の底辺に対する政策がどんなものであったかを反省して、ここでお答えを願いたいと思うのでございます。(拍手)

 さらに私は、池田内閣の所得倍増計画の中で、ただ一つ正確であった人口の問題に触れながら、質問を続けたいと思います。

 最近の日本の人口構造は、富士山型から、そのすそがすぼまったつぼ型に、明瞭に変わってきました。このことは、幼年人口が減少して、生産年令人口や高年令人口が増加してきたことを意味します。まず第一の問題点は、増加をする老人人口に対する政策の貧困であります。現在、私たちの平均寿命は、男子六十五才、女子七十才に達しました。そして、六十五才以上の老人人口は五百三十八万人で、総人口の五・七%に達し、しかも年とともに急激に増加の傾向にあります。この増加する老人層の老後の生活を保障する政策は、厳重な所得制限付きで、しかも、七十才以上に対し、月わずかに千円の福祉年金が昭和三十四年から実施されているにすぎません。本年度予算においても、わずかに九千八百七十二万円の老人福祉対策費、すなわち、軽費老人ホーム、老人福祉センター、老人家庭奉仕員等、これらの経費が申しわけ的に計上されております。このような政策の貧困のために、六十五才以上の老人中、約二百万人の人たちが何あかの仕事について生活のかてを求めておるというのを、私たちは発見するのでございます。私たち日本社会党は、拠出制の年金もさることながら、このように増加する老人の老後を保障する無拠出の福祉年金の強化を、一貫して主張してきたところでありますが、本年度予算においてもいまだその前進を見ないことは、きわめて遺憾に思うところであります。総理は、増加する老人人口に対し、物心両面よりの生活安定の方途についてお考えになったことがあるかどうか、お聞かせを願いたいと思うのでございます。(拍手)

 次に、第二の問題点は、老人の問題に関連することでございますが、最近の一つの傾向として、疾病の構造が変わってきたことであります。わが国の最近の死亡の動向を見ますと、結核その他の伝染性疾患による死亡が年を追って減少の一途をたどり、これにかわって、脳溢血、ガン、心臓病、老衰などの、いわゆる壮年期以後に多発する成人病による死亡が増加をし、昭和三十五年の死因統計によると、成人病と目されるものが実に七割を占めております。このような状況に対処するためには、もっと健康管理を充実することが必要です。そのためには、保健所と医療機関の密接な連携のもとに、早期発見、早期治療の体制を確立しなければなりません。しかるに、現状は明らかに大きな立ちおくれがあります。全国の保健所、医療機関には、その待遇の劣悪なために、医師、看護婦等の医療技術者が極度に不足し、しかも、開業医が予防行政に協力できる諸条件に欠けているのが現状であります。このような悪条件のもとで、一体、灘尾厚生大臣は、この成人病対策をいかに立てようとするのか、お示しを願いたいのでございます。

 こうした立ちおくれは、ひとり成人病対策にとどまりません。わが国医療保障全体の問題であります。現在の九千四百万人の国民のうち、池田内閣の高度経済成長政策のしわ寄せを最も強く受けている農民、中小企業者等の四千八百五十万人が加入しておる、医療保障の一大支柱である国民健康保険を見てみても、この給付はわずかに五割にすぎず、しかも給付範囲の制限すらついています。これでは、高い保険料や保険税を払っても、いざ病気のときには、窓口負担の残りの五割が払えず、医療機関に行くことを思いとどまって、配置薬や売薬や加持祈祷などの迷信によって済ませる人が相当多数あることを、私たちは見落としてはならぬと思うのでございます。(拍手)

 このような現状に立って、私たちは、医療保障の確立のために、まず国民健康保険、及びこれと同じように財政的に貧弱な日雇い健康保険について、その内容をよくすることが何より先決であると考えて、昨年以来国庫負担の大幅増額を強く主張してきました。しかるに政府は、本年度予算において、国民健康保険の国庫負担二割を二割五分に引き上げたにすぎません。しかも、日雇い健保に至っては、依然三割五分の国庫負担のまま据え置きであります。これでは、七割給付どころか、医療費の値上がり分すらカバーできかねる状態であるといわなければならぬのであります。昨年お作りになった厚生行政の長期計画というバラ色の夢が泣くというものでございます。

 そこで、政府にお伺いいたしたいことは、予防、治療、後保護の一貫した医療保障体系の確立について、一体どういう構想を持っておられるのか、社会保険の総合調整並びに社会保険行政における現業と監督の分離の問題と、あわせて御答弁を願いたいのでございます。

 さらに、第三の問題は、十五才から六十四才までの生産年令人口の増加に関連して、幾つかの質問をいたしたいと思います。

 最近特に注目すべき傾向は、高度経済成長に刺激されて、激しい国内人口の移動が現われてきておるということであります。昭和三十四年十月から昭和三十五年九月末までの一カ年間に、五百十九万人の移動がありました。しかも、これらの移動人口は、青少年人口が大半を占め、移動先は東京、大阪等を中心とする大商工業地域に集中いたしておるのであります。このため、昭和三十五年の農業就業者数は、全就業者数の三二・八%、すなわち、三分の一を割って、千三百二十二万となり、昭和三十年千四百八十九万人より百六十七万人も減少しました。このような人口移動の中で、私は、その影響を最も受けた農業の問題に触れなければなりません。

 池田総理は、農村の人口を減らし、農業の生産性を高め、都市と農村の所得格差をなくすることを主張してきました。しかし、今や、農村からの若い筋骨隆々たる働き手の急速な無計画的な流出は、農業のにない手を老人や婦人等の脆弱な労働力に変化せしめつつあります。農村まさに荒れなんとする姿を呈しつつあるのが、現在の日本の農村の姿であると申さなければなりません。これは政府の高度経済成長政策が、農業を他産業の成長に従属させるという考えで進められたために、農村と都市の所得格差がますます拡大をして、農村の青少年が、農業の将来に希望が持てなくなった結果であります。この現状に対して、政府が農業基本法でうたっている自立経営農家の育成が、はたして可能でしょうか、池田総理の自信ある見解をここでお示し願いたいと思うのでございます。

 さらに注目すべきことは、農業人口は減少しても、農家戸数、世帯主はほとんど減少していないことであります。そのために、零細経営の矛盾は解消されず、動力耕耘機等の農業機械の急激な増加も、むしろ過剰投資となって、投資効率を低下させています。そのほか、肥料、飼料、農薬等の農業資材の投入が増加をしているため、農業経営費は増加して、農家の所得率は次第に低下の傾向を示しつつあります。一方、農業資材投入額の増加による農家所得率の低下は、飼料や農業資材を生産する大資本の成長を促進しておることも見のがしてはなりません。池田総理はこの矛盾にいかに対処する所存であるか、ここに明らかにしていただきたいと思うのでございます。

 さらに、政府は、農業基本法の中で農業生産の選択的拡大をうたい、成長部門として畜産、果樹、野菜などをあげておりますが、これらはいずれも農家手取価格と小売価格の間に大きな開きを示しております。そして、最近国民の総食費支出は年率五・四%ずつ増加をしており、消費者の食糧に支出する全金額は四兆円をこえているのに、農家の販売年額は一兆一千五百億で、三分の一にも足りません。しかも、農業手取率は、昭和三十年の三五・三%から、最近は二八・七%に低下し、中間の流通加工部門の配分が増加する傾向を示しております。これでは、食糧の消費が増加をし、あるいは農業生産が上昇をしても、農民の所得を増加させることはできないのでございます。ここに、農家人口が急激な勢いで都市に流れる根本的な理由を私たちは発見するのでございます。特に、最近は、大手水産会社を初め食品大企業が各地に農畜産加工工場を建設し、農産加工分野に進出しています。もし、資本力を背景にして農畜産物の買い占め、買いたたきが行われるならば、農家の手取価格は一そう低下することは、火を見るよりも明らかであると申さなければなりません。(拍手)最近、アメリカにおいては、このような問題に対して、農民の団体交渉力の必要性が認識されるようになったといわれております。現インド大使、元ハーバード大学教授のガルブレース氏は、大会社は市場におけるその規模と地位に基づいて有利な交渉力を確立した、農業者は団体交渉力を強化する必要がある、と述べております。米国に比して農業経営規模が零細なわが国では、農民の団結権、団体交渉権を強めて農家手取額を高めなければならぬと考えるが、これに対する池田総理の見解をお伺いいたしたいのでございます。(拍手)

 さらに、こうした人口移動に対処して問題となる第二の点は、住宅問題であります。

 農村あるいは失業多発地帯等からの労働力の移動を順当に進めて高度経済成長に対応するためには、住宅の供給は不可欠の条件であります。しかるに、現状はほとんど有効適切な手が打たれておりません。わずかに炭鉱離職者に対して幾分の政策の前進がありましたが、きわめて不満足なものでございます。現在住宅の不足は約三百六万戸といわれていますが、一体これをどう充足していこうとするのか、過去の住宅政策を検討してみますと、かいもく見当がつかないのであります。

 数年前、西ドイツのエアハルト経済相が来日したおりに、彼が日本の労働者の低賃金を指摘したことは有名でありますが、そのとき、エアハルト氏は、わが国の労働者住宅を見て回って、こう言いました。日本の労働者がこんな粗末な住宅に住んでいる限り、西ドイツの商品は日本商品に絶対に負けないと申したのであります。(拍手)この言葉はきわめて示唆的であります。急テンポの経済成長を誇る日本の労働者住宅が、国際的に比較した場合に、いかに劣悪な水準のものであるかが端的に示されておるのであります。経済成長のにない手である労働者は、生産に従事し、働いて寝るだけであって、住宅の保障もろくろく行なわれていないというのが現状でございます。ここにも、昭和の残酷物語の一端が現われております。(拍手)

 本年度の予算案を見ましても、公営住宅、公庫住宅、公団住宅を合わせて、建築予定数はわずかに二十一万六千戸にすきません。もちろん、このほか民間建設分もありますが、これでは焼け石に水というべきであります。私は、この際、政府が思い切った措置を講じて、たとえば五カ年なら五カ年で住宅難を完全に解消するめどをつけ、そのためには、現在の天井知らずの宅地の値上がりを強力に押える措置をとり、公営住宅を大量に建設し、また住宅の質を向上させ、かつ森林の乱伐を防ぎ、森林資源を豊かにし、あわせて、防火の見地からもブロック建築等を画期的に推し進め、これが資金については、年金積立金や失業保険の積立金を積極的に活用する等の措置を直ちに講ずべきであると思いますが、住宅問題解決に対する総理の明確な御答弁をお願いいたしたいのでございます。(拍手)

 さらに、生産年令人口増加の条件のもとで第三の問題点は、中高年令層の失業の問題であります。

 最近は、新規若年の労働力に対する需要は、娘一人に婿八人の状態でありますが、四十才をこえると供給過剰の状態が生じております。特にこの傾向は農村と炭鉱において顕著であります。従って、当面する課題は、このような労働力の需給のアンバランスをなくし、産業の発展に応じて適切な労働力の配置をすることでありますが、それには、住宅や移住資金や生活を保障する賃金が与えられ、かつ必要な技術訓練を施す等の条件が整備されなければなりません。しかるに、現状は、すでに指摘したように、住宅事情は悪く、また移動するにも費用が足らないといったありさまでございます。

 また一方、技術革新下の経済高度成長をになう現場においては、技能労働者及び技術者の深刻な不足の問題が現われつつあります。昨年二月の調査においても、百十万人をこえる技能労働者の不足が明白になって参りました。所得倍増計画の目標年次までには、中級技術者が四十万人、高級技術者が十七万人も不足するといわれております。おそらく、現状のままで推移するならば、人間の問題からも所得倍増計画に大きな行き詰まりを来たすことは、明白なことといわなければならぬのであります。(拍手)この際、政府は公費による職業訓練を大々的に行ない、さしあたり失業者、半失業者に一定の技術を身につけさせるとともに、中級、高級の技術者養成にも計画的、積極的な施策を講ずべきであると思うが、総理の見解をお示し願いたいと思うのでございます。

 さらに、中高年令層の失業問題に関連をして、この際、私は一言賃金問題について政府の見解をただしておきたいと思います。

 昨年十一月の箱根における日米会談において、日本の低賃金が問題になって以来、労働省は、低賃金の事実を否定するPRを盛んにやっております。最近は、機構の改革で労働基準局に賃金部を設けようとする予算も要求しておるようでございます。一方、日経連は、前田専務理事の主張に見られるように、低賃金政策を今年度の課題とすべきことを全経営者に強調いたしております。池田総理は、この賃金問題についていかなる見解を持っておるか、この機会に明らかにしていただきたいと思います。

 なお、さきに石炭労働者の賃金切り下げ、首切り、あるいは第二会社の設立等が問題となり、石炭産業の雇用安定のため、最低賃金制の確立が必要であるとの見解に立って、中央最低賃金審議会に炭鉱労働者の最低賃金について諮問されましたが、該審議会の審議状況は一体どのようになっておるのか、また、審議会が一定の金額を答申した場合に、政府は一体これをどう処置する方針であるか、労働大臣の見解をこの機会にお示しを願いたいと思うのでございます。

 最後に、人口構造の変化における第四の問題点として、十五才以下の減少しつつある幼年人口の問題について質問を進めたいと思います。

 日本の人口動態が、多産多死から少産少死に変貌した現在、私たちは、私たちの次代を継ぐこの十五才以下の幼年人口を、質的に優秀な国民に育て上げなければなりません。かかる見地に立つときに、まず第一の問題は、昭和三十八年度から大幅に増加する高校生急増対策をどう進めるかということであります。昭和三十八年度から高校に進学する諸君は、ミルクも食糧も衣料も不足の時代に生まれ育った子供たちであります。この窮乏と混乱の中に生育した子供たちに、さらに狭き門の悲哀を与えることは、民族の将来にとって不幸であるといわなければなりません。(拍手)政府は、わずかに来年度五十億の起債のワクだけで、この不幸な環境に生育した子供たちの夢にこたえようとしております。それで政治家の良心が許すでしょうか。池田総理は、この際、昭和三十八年以降の高校進学希望者数と収容可能数が政府の措置によって十分満たされることを、国民の安心のいくようにこの機会に御説明を願いたいと思います。日教組に強く、予算に弱い荒木文部大臣も、あわせて具体的な数字でお示し願いたいと思うのでございます。(拍手)

 さらに、問題は六・三制の義務教育までの段階にもあります。それは、教科書の無償配布と、学校給食の完全実施と、保育所の拡充強化並びに児童手当の実施がこれであります。教科書の無償配布については、昭和三十八年度から一年生だけまず実施ときまった様子ですが、一割四分の値上がりがずうずうしくも先行することになりました。学校給食は、パン一食一円補助が八十五銭に削減され、そのかわりに、ミルクやおかずの量と質を幾分高めてお茶を濁しました。しかし、同時に付録がつきました。四月から月に四十円ないし九十円の給食費の値上げをやろうとしておるのでございます。保育所の問題も、職員の給与改善その他が幾分の前進を見ました。しかし、高度経済成長で年功序列型の賃金体系が崩壊せんとし、同一労働同一賃金の機運が高まってきた現状で、その必要性が強く主張し始められている児童手当については、海のものとも山のものともかいもく見当がつかないというのが今の状態でございます。

 政府は、内政的に見ますと、旧地主の補償には思い切った政治的な配慮を加えました。防衛費については、前年度より二百億以上も増額をする予算措置をとりました。対外的には、ガリオア、エロアの返済に四億九千万ドル、すなわち千七百六十四億円も気前よく協定をしました。タイ特別円に対して、九十六億円も出す用意をしました。あるいは韓国の財産請求権に対し、無償供与までもつけ加えて措置しようとしています。もしこのような余裕のつく金があるならば、民族の将来を背負う若年人口のための、これらの教育上の重要な問題をまず解決すべきであると私は思うのでございます。(拍手)このことは、今や、社会保障の見地から考えても、所得格差を防止する手段として目下の急務であると考えるのでございます。たとえこれらのかわいい子供たちが選挙の票は持っていなくとも、あるいは政治献金はできなくとも、日本民族の将来のために、気前よく金を出す寛容さがほしいものです。(拍手)このことこそが、池田総理の言う、青少年こそ祖国の生命力の聖なる源泉であるという施政演説の言葉にも合致するものであると思うのでございますが、池田総理のこれらの幼年人口に対する明白な方針をここに国民の前に明らかにしていただきたいと思うのでございます。(拍手)

 さて、以上で私の質問を終わりたいと思いますが、要は、池田内閣のもとにおける高度経済成長政策が、国民生活の上にあまりに強い明暗を描き過ぎており、日陰にある多くの人々が、依然として希望のない状態に放置されておるということであります。超近代的なオートメ工場、冷房、暖房の完備した壮麗なピルの林立、町には自動車と高級品の洪水がありながら、すぐそのそばに山谷と釜ケ崎があり、五人の家族が一カ月わずかに一万三千円でぎゅうぎゅういう生活をしておる六十万の保護世帯があることを私たちは見落としてはならないのであります。(拍手)このようなアンバランスは、単に社会保障の費用を少しばかり引き上げるということで解決のつく問題ではありません。もし、政府も財界も、生産力と企業が国民のための社会的公器だということをお認めになるならば、国民経済全体のもっと合理的な規制と計画化によって、いわゆる二重構造といろものをなくす努力をしなければなりません。たとえば合理的な資金計画の策定、財政投融資の民主化等を直ちに行なわれてしかるべきものであります。そうなりますと、こうした政策と並んで社会保障の費用を大幅に増額し、国民の医療や所得の保障をする、全国一律の最低賃金制を確立して賃金の底上げを行ない、勤労者の生活を少しでも安定をさせる、職業訓練施設を増強して、労働力需給の不均衡をなくし、失業状態を好転させる等々の措置がきわめて効果的な対策となってくるのでございます。また、このことによって安定した国内消費市場は拡大し、日本経済自体の安定度も増すということになるのでございます。

 池田内閣の高度成長政策の破綻は、今日では、もはやだれも目をおおうことのできない明白な事実となっております。そこでこの際、池田総理も虚心たんかいに自身の政策の破綻を反省され、財界の中にささやかれておる、好漢惜しむらくは税を知るも経済を知らず、好漢惜しむらくは行政を知るも政治を知らずという汚名を返上し、日本社会党の主張に十分耳を傾けられいよいものは大いに取り入れていくといろ度量を示し、さすがは池田勇人と言われるようなステーツマンシップを発揮していただきたいのであります。(拍手)

 このことを最後につけ加えて、私の代表質問を終わりたいと思います。(拍手)

  〔国務大臣池田勇人君登壇〕

 

○国務大臣(池田勇人君) ただいまの本院の休憩の問題につきましては、これは国会議運の問題でございますから、私は答弁いたしません。

 なお、消費者物価の上昇につきまして、独占物価の上昇によるのだ、こういう断定でございますが、消費者物価の上昇が独占物価の上昇に基因するというものはごく小部分であります。大体におきまして消費支出の増加とかあるいはサービス料の上昇、生活内容の上昇が主たる原因と考えておるのであります。しかし、いずれにいたしましても、国民生活に重要な関係のあるものでございますから、政府といたしましては、今後消費者物価の上昇を極力押えるように努力いたしたいと思います。

 また公害の頻発につきましてのお話であります。われわれは、昭和三十一年以来、工業用水法あるいは水質保全法あるいは工場廃水法等いろいろな法律を設けまして、これの防止に努めております。ことに最近の地盤沈下の問題につきましては、いずれ法案を提出いたしまして、御審議願いたいと考えております。

 また中小企業基本法につきましては、私は実態を調査して、すみやかに出すべく関係閣僚を督励いたしておるのであります。

 大企業と中小企業との関係のお話でございまするが、この産業構造の問題は、大企業と中小企業のみならず、大企業間におきましても、今後この構造改善につきましては、われわれは相当いろいろの事態を考えて、善処しなければならぬと考えておるのであります。

 なお社会保障関係の問題につきましてヒューマニティの問題がございましたが、過去二、三年の間、ことに去年と今年における社会保障制度に対しまする政府の熱意は、滝井さんもおわかり下さると思っておるのであります。

 なお、私の経済成長政策につきましての御批判は御勝手でございまするが、今まで答弁した通りの態度で進んでいきたいと思います。

 その他は非常に専門的な問題でございますので、各省大臣をして答弁させます。(拍手)

  〔国務大臣福永健司君登壇〕