51-衆-法務委員会-43号 昭和41年06月07日

 

昭和四十一年六月七日(火曜日)

   午前十時四十四分開議

 出席委員

   委員長 大久保武雄君

   理事 上村千一郎君 理事 大竹 太郎君

   理事 小島 徹三君 理事 田村 良平君

   理事 井伊 誠一君 理事 坂本 泰良君

   理事 細迫 兼光君

      賀屋 興宣君    鍛冶 良作君  四宮 久吉君    田中伊三次君

      千葉 三郎君    早川  崇君  神近 市子君    山口シヅエ君

      横山 利秋君    田中織之進君

 出席政府委員

        法務政務次官  山本 利壽君

        検     事(大臣官房司法法制調査部長) 鹽野 宜慶君

 委員外の出席者

        判     事

        (最高裁判所事務総局民事局長)      菅野 啓蔵君

        専  門  員 高橋 勝好君

    ―――――――――――――

   本日の会議に付した案件

 執行官法案(内閣提出第一四九号)

     ――――◇―――――

 

○田中(織)委員 いま具体的な例として不動産管理の場合をあげられて、その執行官の能力というふうに説明をされたのですけれども、現在の執行吏の扱う仕事の中から、たとえば最近多くなっている労働関係の問題、あるいはこれは労働関係とはまた違った意味において家庭裁判所関係の問題、そういうようなものを執行吏の現在のなにからはずすべきではないか、それぞれ別の執行体制をとったほうがいいのではないかという意見があるやに聞いておるのですが、特に労働関係の問題で、仮処分等の場合における執行官の能力というようなことも起こり得るのではないか。現在のように、そういうものを分離した形、別な形でやらずに、執行官によって労働関係の――あるいは先年の、たとえば三井三池の争議のときのような問題も、やはり執行官の能力の問題が起こり得るのではないかと私は思うのであります。そういう意味で、執行官の能力はすべて同一であるということが望ましいけれども、現実にはそういう差が出てくるということも、これはいなめない事実だと思うのです。それかといって、その個性というものにあまりにも重点を置く形になれば、端的なことばで言わしてもらいますれば、やはりへんぱな問題が起こる。そういうことで、これはあるいは執行官に対する除斥なりあるいは異議の申し立て、そういうような関係も出てくるかとも思うのです。その執行官の経歴の問題であるとか、そういうような関係から現実に起こり得ると私は思うのですけれども、その点はそこまでお考えになって、この条文が入っておるのでしょうか、いかがでしょうか。

 

○鹽野政府委員 一般的には執行官の能力は均一であるというふうに考えられますので、裁判所の基準に従って事務分配をされるべきものだと考えております。しかしながら現在まで実際問題といたしまして、先ほど例にあげました不動産の強制管理等につきましては、特定の執行吏にそれを命ずるということが行なわれているのが実情でございますので、そういうものにつきましては、執行官法になりましても、やはりそういう余地を残しておくということでかような規定をいたしておるわけでございまして、これがただいま御指摘のようないろいろな事件、各種の事件に広まっていくということは、私どもといたしましては考えていないわけでございます。

 

○田中(織)委員 その点は特に慎重にしていただかなければ、特に労働事件の関係については、他の民事事件とは別なやはり取り扱いをすべきものだという意見が――これは法曹関係の中にも意見が分かれていると思うのでありますけれども、私、いま見ますと二十八年の当時の清原事務次官からの照会に対する日弁連事務総長の回答文の中では、労働事件、家事事件については特殊な性質を帯びていることには異論がないけれども、現在の件数から見て、別個の機関を設ける必要はないというような意見が出ていますけれども、最近やはり労働争議等に関連して出てくる仮処分等で、問題が相当起こっておるわけです。そういう意味で、いま申されたように、これはやはり個性に基づいて執行官がきまるということをあまり広げないようにしていただかないというと、弊害が起こるんではないかと思って、御答弁をわずらわしたわけなんです。

 そこで関連して、これも強制執行制度全体のことで問題になるし、一つは従来の執達吏役場の関係で問題が出ているのですけれども、俗に立ち会い屋と言っている、こういう関係の問題は、もちろん現在の民事訴訟法によりますと、具体的にあるいは証人なり立ち会い人、差し押えに行って、成年の人がいない場合の、警察官であるとか、あるいは成年以上の人間の立ち会いを求めるという規定がありますけれども、仮処分の場合には、えてして執行吏に伴いまして相当な人員が繰り出されるわけなんです。

 具体的には本年の一月の二十七日の夜中から二十八日の未明にかけて、京都で文化厚生会館の管理権の問題で、私どもの関係しておる部落解放同盟の京都府連の関係と、部落問題研究所との間で仮処分問題が起こった。しかもそれが異例の夜間執行ということになったのであります。所轄の、川端署でありましたが、機動隊が約百名出動しているほかに、執行吏のほうでいわゆる立ち会いの名義だと思うのでありますけれども、約五十人の人夫を伴って来ているのであります。そのために、かつて本委員会の委員でありました坪野君が弁護士として私どもの関係の訴訟代理人として、その仮処分に反対の立場で結局現地で徹夜したという関係もある。あとで調べてまいりますと、その五十人の、暴力団と言うと語弊があるかもしれませんが、釜ケ崎の立ちん坊を連れてきているのですね。日当が二千円というのです。これは現在の場合においては、いわゆる執行吏の要請に基づいて、債権者のほうでその執行を確保するために、もちろん執行吏との間の話し合いで、そういう者を動員してきたのだと思うのであります。夜間執行の関係でありますから一人二千円ずつで、その人夫の費用だけでも十万円だ。これは仮処分申請者のほうでは、かつて裁判官であった青木英五郎氏ほか三名の弁護士が立ち会いました。私のほうの関係では坪野君ほか一名の弁護士が立ち会ったのでありますが、そういうような関係が、先ほど申し上げました三井三池の場合におきましても、執行吏に伴うそういう人員、あすこは炭鉱地帯でありますから町の暴力団であるとかいうような関係から、四山鉱では組合員が刺し殺されるというような問題が、これは強制執行に関連してでありますが起こっております。今度はこの法律によって執行吏は執行官ということで、より国家公務員である、ことに裁判所の職員であるという性格が明確になっての場合だし、法律によりますれば、そういう場合に威力を用いて抵抗があるというような場合には、警察官の立ち会いということが法で認められておるわけでありますけれども、現実にはそういう形で暴力団なり、あるいは釜ケ崎の立ちん坊というような、そういう日当目当てで、したがって何をやるかもわからぬ、そういう者を従来の執行吏は従えてやはり職務の執行をやっている、こういう実情があるわけなんです。したがって、この法改正にあたっては、当然そういうことはないように――これは従来はいわゆる債権者となる人たちから、債務者の立場からやる場合もあると思いますけれども、執行を申し立てた人間が費用を分担することになってきているから、勢い便宜的な、そういうことが起こるのでありますが、最近なまなましい問題としてそういうことが起こっておるわけなんです。今度はまさか裁判所でそういうものまで費用の予納だというような形のことは、法の上からは出てこないと私は思うのでありますが、現実には従来はそういうことをやっておるわけであります。また執達吏役場というものは今度は廃止になるからいいようなものでありますけれども、そこには競売屋であるとかいろいろな連中がおるところに、一つは執行吏制度改正の問題が出てきたので、今後はそういうような悪の温床にもなるという役場がなくなって、裁判所にじかで執務するということになっておるのですから、そういう弊害はなくなると思うのでありますが、そういうようなことについてまで当局はお考えになっておられるのかどうか、あわせて伺っておきたいと思う。

 

○菅野最高裁判所長官代理者 強制執行は強制力の行使でございます。そこに実力行使の面があるわけでございますが、これが整然として法の規制に従ってなされなければならないことは当然でございまして、従来とかくそういう面におきまして、不十分な点がなかったとは申し上げかねますけれども、今後役場が廃止され、裁判所の監督というものが直接的になってきたという点におきまして、そういう強制力の行使が整然と行なわれるという面におきましても、従来よりか前進した姿が出てまいるものと信じております。

 

○田中(織)委員 この点は、ことに私がいま具体的に申し上げた点は、特に立ち会い屋といっている部類に属するんではないかとも考えられるわけであります。そういういうものが連係を持っておるような関係が、今度は断ち切られるだろうという点が一般的にこの改正から推測をされますけれども、現実にはそういうことが今後とも起こらないという保証はないと私は思う。したがって、今度の改正の中ではその点は触れられていませんけれども、さらにそういう点についてはもっと実情を見きわめられて必要な規制をやっていただきたいという点をこの際要望しておきたいと思います。

 それから、まだいろいろ伺いたい点もありますけれども、時間も経過いたしましたので……。今度、従来執行吏が保管していた金銭を裁判所が扱うということにされたことが一つの改正の大きな点で、したがって執行吏の権限内に、あるいは占有に属されていた金銭の問題にまつわる不祥事件等がなくなるわけであります。しかし、気になるのは附則の第十条で、当分の間は必ずしも右の処置によることなく最高裁判所が別段の定めをすることができるようにした。こういうことになると、今度の改正によって、従来執行吏が直接していた関係の――もちろん債権の取り立て等で支払いを受けたものであるとか、費用等の問題についても、予納をすれば、その予納の範囲内で一つの免責があるわけでありますから、それらを裁判所が直接扱われることになったというけれども、この附則十条の、ごくしろうと的な解釈ですけれども、この点も最高裁判所が何か別な規則を設ければ、裁判所に保管しない、別な、従来に似たような取り扱いができるんじゃないかというような、一つの抜け穴というか、そういうふうに解釈できるんですが、その点はほんとうのところはどうなのかということ。

 それから附則の関係でしばしば「当分の間」ということが出ているのでありますが、およそどのくらいの期間を考えておられるのか。これは必ずしも法律が公布されてから施行されるまでの六カ月ということではない、別な期間のように解釈をしなければならぬのじゃないかと思うのでありますが、一体それは、少なくともあと根本的な改正というものが出てくるまでの間まだ何年か続くというような意味のものなのか。そういうような点から私が質問の最初に申し上げたように、一つは「執行官」ということにかえて、問題の多いこの執行吏制度の問題について手をつけてみたけれども、結局附則で当分の間は現状の執行吏代理の問題であるとか、あるいは事務職員の問題であるとかいうような形のものが引き続いて――まあ役場というものはないけれども、そういう一つの役場の体制がそのまま裁判所の中へ入り込むような結果になりはせぬかという心配が出てくるのでありますが、この附則の各条文に出てくる「当分の間」というのは、少なくともどのくらいの期間を考えられているのか。いろいろ準備等の関係もあり、次の改正の展望も持たなければなかなか時間を確定することはむずかしいかもしれませんけれども、ずるずると二年も三年もということになればせっかく手をつけたことの意義が減殺されるような気がいたすのでありますが、その点はいかがでしょうか。