51-衆-法務委員会-5号 昭和40年12月25日

 

昭和四十年十二月二十五日(土曜日)

   午前十時三十七分開議

 出席委員

   委員長 濱田 幸雄君

   理事 上村千一郎君 理事 大竹 太郎君

   理事 鍛冶 良作君 理事 小島 徹三君

   理事 田村 良平君 理事 坂本 泰良君

   理事 細迫 兼光君 理事 横山 利秋君

      小金 義照君    森下 元晴君   井伊 誠一君    井岡 大治君

      神近 市子君    志賀 義雄君  田中繊之進君

 出席政府委員

        警  視  監

        (警察庁刑事局長)      日原 正雄君

        法務政務次官  山本 利壽君

        検     事(刑事局長)  津田  實君

        法務事務官(人権擁護局長)      鈴木信次郎君

 委員外の出席者

        警  視  長(警察庁警備局警備課長)   後藤 信義君

        専  門  員 高橋 勝好君

本日の会議に付した案件

 法務行政、検察行政及び人権擁護に関する件

     ――――◇―――――

 

○井岡委員 大阪の福島区における新東洋硝子の争議の問題をめぐってかなりいろいろな問題が出てきておるわけですが、そのことについて一応最近の事情等をお聞かせいただいて、それから私は若干この問題に対する質問をさせていただきたい、こう思います。

 

○津田政府委員 ただいまお尋ねのいわゆる新東洋硝子大阪工場事件につきまして現在までの状況を御説明いたします。

 この事件につきましては、本月十七日組合側から告発がありまして、現在大阪地方検察庁におきまして捜査中でございます。

 その事実の要旨は、被疑者赤岩光春、亀井組若者がしらら二百名くらいが、新東洋硝子株式会社大阪工場の争議に際しまして、十二月十四日午前雰時ごろ工場閉鎖のためトラックに分乗し会社におもむき、三号門及び秋山門より構内に入り、ピケを張っていた組合員百数十名に対しまして、青竹、カシの棒等で暴行を加え、組合員鈴木義三に対し治療約三週間を要する頭蓋骨折等の傷害を負わせたほか、約二十七名の組合員に対して治療三日ないし三カ月の傷害を負わせた、この事件であります。この事件につきまして現在大阪地方検察庁において捜査をいたしておるわけであります。

 以上が検察庁側の現在の報告の次第であります。

 

○井岡委員 この争議はやはり非常に考えなければいけない問題がある。というのは会社が帰休制で、不況だということで工員を一時くにに帰りなさいといって、そうして帰した人間をそのまま解雇する、こういう事件から起こった問題なんです。そういうようなことが将来行なわれるということになると、労働者としてはたいへんなことになるわけです。そこから起こった争議なんです。したがって、その争議それ自体は、普通の賃上げをするとかあるいは期末手当をもらうとかいうような争議でなくて、あなた方は一時帰りなさい、そうして会社が景気がよくなれば、あなた方に帰ってもらいます、こう言って帰しながら、そのまま解雇してしまう、そこから起こった争議ですから、単に普通の争議として考えることは私は間違いだと思います。それだけにこの暴力事件というものは、違った意味において判断をしなければいけないのではないか、私はこういうように考えるのですが、この点の御見解を承りたい。

 

○津田政府委員 およそ労働争議あるいは争議行為に関連して発生いたします事件につきましては、それが暴力事件の場合におきましては、これは労使あるいは第三者のいかんを問わず、厳正にかつ公平に事件の処理に当たるべきものだと思います。ただいまかような不祥事件の発生した原因そのものがどこにあるかということは、当然本件は、事件としてはあるいは傷害あるいは暴行事件だと思いますが、その事件の情状としてはきわめて重大な影響のある問題でありますので、その点につきましては厳重に捜査を遂げまして、最終処分をいたしたいということでせっかく努力をしておるわけであります。

 

○井岡委員 非常に複雑なことばをお使いになったわけで、私はわからないのですが、事件それ自体は暴力行為だ、しかしその原因それ自体はそういうことでなくて、私が指摘をいたしましたように、現在の経済事情を含めた中に起こった問題なんです。しかも会社は何らの団体交渉をしない、一方的に帰休しておる人間を解雇をする、こういうやり方は、私はやはりそれ自体に対して一つの社会問題が起こるべき問題だと思うのです。しかし、それはここでお聞きしてもしかたがない問題だと思いますが、それだけにこの問題を究明する場合、なぜ暴力団が入ってきたか、なぜ雇ったか、こういうような問題をやはり究明する必要がある。それがこの問題を解決するポイントだと私は思うのです。私はちょうど解雇が発表された日に、たまたま演説会を大阪に持っておりましたから、来てもらいたいということで行きました。私が行ったときは、組合のほうは団体交渉をしてください、そうして指名解雇でなくて希望退職を要求するのであれば希望退職に応じましょう、そうすることが会社再建なら、われわれは喜んでやりましょう、こういうことを会社側に通告をしておったところだった。ところが会社は、団体交渉を持つ必要はない、会社再建のためにわれわれはやるのだと、こう言ってやったところだったわけです。それだけに私は、この争議というものは、こういう事件が起こらないかしらという不安を持っておりました。必ず会社はやるだろう、こういうように考えておったわけですが、それらに対して警備その他が十分でなかったということだけは、私は率直に指摘ができると思う。それだけにこの問題を、やはりもっともっと考えていく必要があるのじゃないか、単に争議だというように考えるだけではいけないのじゃないか、こう考えるのです。事件が起こって、いま捜査をしているのだ、こういうことでございますが、名前までわかっているその人間に対して、いまどういう取り調べをおやりになっていますか、明らかにしていただきたい。

 

○後藤説明員 告発が出ましたことは、ただいま法務省のほうからお答えがあったとおりであります。

 事件は、当初警察のほうで処理をいたしまして、そのうちすでに逮捕いたしておる者もございますし、それらにつきましては、それぞれ所定の手続に従って、ただいま捜査中でございます。その状況を申し上げますと、事件が起こりましたのは、お話しのように十四日の未明でございました。それでだんだんと調べをいたしまして、十二月の二十一日に逮捕状と捜索・差押許可状をもらいまして、二十二日からこれの執行にあたっております。二十二日には合計いたしまして十三名、二十三日には七名、ただいままでのところで二十名を逮捕いたしまして、すでに警察のお手持ち時間の経過した者につきましては、検察庁のほうに送致してございます。

 それで、ただいまお話しの整備の問題でございますが、この新東洋硝子につきまして、経営難と申しますか、そういうことから解雇問題が起こり、そのことについて争議が発生しておるということは十分に承知いたしておりました。これは所轄の福島警察署のみならず、府の本部でも承知をいたしておったのでございます。十分注意はいたしておったのでございますが、当日と申しますか、前、十三日でございますが、十三日の夜の九時半ごろに、新聞記者の電話で、福島署の警備係長に対して、何か西成のほうの労務者がどこかへ行くような気配があるが何かあるのかという話がございました。それで新東洋硝子の争議が頭にありましたために、警備係長は直観いたしまして、直ちに電話で会社の労務課長にそちらのほうで何かあるのかということを言いました。ところが、工場としては何もやらない、何も聞いてない、こういう話であったものですから、これは新東洋硝子に関係ないということで電話を切っておるようでございます。その他パトロールカーあたりから、釜ケ崎の労務者が若干動いておるというような状況が入ったのでございますが、特段の動きもないということで、新東洋硝子と直接結びつけるような状況がないということで、そのままになっておったのでございます。いま思いますと、私どものほうがもう少しその状況を詳細に承知をして、もう少し手を打ったほうがよかったのじゃないかということは反省をいたしておりまして、今後十分にこの点は注意をしていきたいと存じておりますが、いずれにいたしましても、そういう状況でありまして、新東洋硝子と労務者の動きが十分につかめなかったために、そのままになっておりました。

 ところが十四日の午前零時五分になりまして、工場のほうから福島署の警備係長のところに電話がありまして、ただいまからロックアウトをやるということを言ってきたそうであります。これによりまして直ちに職員を現場に配置をする。それから付近におります。パトロールカーに現場に行くことを指示したのでございます。その指示によりまして現場周辺におりますパトロールカーが三台現場に到着いたしましたが、そのときには、私どもで把握しておりますところでは、百数十名の組合側の人々が、そのうちの大半はもう外のほうに出ておって、若干工場の中におるという状況であった。それからこれと対峙しておると申しますか、そういう状況にある者が青竹を持っておるということで、それを置くように、捨てろということを警告しまして、これを捨てさせておるというようなことでありました。一部の者は何か板べいをつくる、かきねをつくるといったような作業に従事しておったようであります。ところが、かかる険悪な状況といいますか、数も多いわけでございますので、これはというので本署のほうに直ちにパトロールカーから連絡があり、機動隊の出動を要請するということで、機動隊が現場に到着いたしましたのが私どもの報告では十二時四十八分ごろ、こういうふうになっておるのでございます。大体事態は二、三十分の間に済んでおったように思われるのでございます。

 いずれにいたしましても、そういう状況でございまして、非常に残念なことに、事前に警備の措置ができなかったことは私ども十分今後も反省していきたいと考えておるわけでございますが、事件につきましてはただいま申し上げましたようなかっこうで、捜査を続行しておりますし、それから自後の警戒につきましては、ただいま機動隊を工場の周辺に配置いたしまして、再びこういう事案が起こらないようにということを警戒しております。

 

○井岡委員 会社側が不振だという話ですが、これは私は内容を知っておりますが、そういうことじゃない。別の意図でこれをやったわけですが、それは私は追及しようとは思いません。ただ問題は、事前にそういう動きがあった、同時にあの入り口は交番所があるのです。私、自分のところで知っておるのですが、交番所の前を通らないと、そこに行けない。ですから、もう少し注意をしておれば、こういう問題は起こらなかったのではないか、こう思うわけです。それらの点について、いま率直にわれわれのほうで少し警備が足らなかった、こういうお話ですから、あえてそれを追及しようとは思いませんけれども、そういうところにある。しかもそこを通らない限り絶対に入れない、川っぶちですから。それだけにやはり今後もこういう問題が起こらないとも限りません。しかもあの地区は何も釜ケ崎から人を集めなくても、あそこ自体がそういう何なんです。ですから今後十分注意をしてもらいたい、こういうことを私はお願いをしておきます。

 同時に、いまのお話だと、十二時五分にロックアウトの通告をしてきたという、私はそういう通告のしかたについて、やはり警察のほうもお考えがなければならないのじゃないか、こう思うのですが、その点はどういうように判断をされておったのか、お伺いをしたいと思います。

 

○後藤説明員 工場側とは十分に所轄の署のほうでも連絡をとりまして、その争議の成り行きについては注意はいたしておりましたわけでございます。それで会社側のほうからは年内に妥結をしたいというような話も出ておったそうでございます。それからまた組合側のほうに連絡をいたしますと、組合側のほうでも、まず年内の妥結ということを目途にしたい、こういうふうなお話だったそうでございますが、その話の過程で会社側のほうから、場合によってはロックアウトをするかもしれぬというような話が出たそうでございます。ただしそのときに、ロックアウトということになって、警備員を雇うというようなことになると、いろいろ問題が出てくる、暴力ざたなどになっても困るといったようなことで、これは十分に注意をいたしておったそうでございます。そのようなことがあるいはあったために、会社側としては警察のほうに事前にそういうことを通告するととめられてしまうというふうなことで、不意にと申しますか、ただいま申し上げましたように、前日の午後十時ごろには、労務担当の課長が、そういう動きはないということを言っておるわけでございますから、警察のほうとしてはそのことばを信用したようなかっこうになるわけでございますが、そういう点から見ますと、どうも会社のほうとしては警察にあらかじめロックアウトをやるというようなことでは、――そのやり方は問題でございましょうけれども、そういうやり方ではどうも警察のほうからとめられるのじゃないかというふうなことで、あるいは不意にやったのではないか、こういうふうに考えるわけでございます。

 

○井岡委員 いまいみじくもお話がありましたように、私が先ほど言ったように、帰休制即解雇ですから、そうでなくて、希望退職さえやってくれれば、組合はそれだけの人間は応じます、こういう態勢だったわけです。そこにこの問題があるわけなんです。しかも警察のほうは、単に労働争議として見ておいでになったのではないか、こう思うのです。私は福島署の署長さんと仲がいいものですからしょっちゅう会いますが、単に労働争議として見られたのではないか。そうでなくて、会社は計画的に帰休制をやったのです。そうしてその人間の首を切る。しかも帰休する場合には指名をしているわけです。一人一人指名しているわけです。ここに問題があったわけですから、これらの問題については、今後も起こり得る問題だろうと思います。ですから、今後十分に注意をしていただきたい、こう思うのです。問題が起こってから、これがどうだこうだと言ってみたってしかたのないことですが、単に今後この種の起こる問題を考えて、厳重に注意をしていただきたい、こういうように考えます。同時に、そこの場所、新東洋硝子という場所それ自体がそういうところでございますから、十分注意するようにお願いをしたいと思います。

 

○小島委員 ちょっと関連して質問したいのですが、ただいまの質問と答弁とを聞いておりまして、どっちもごもっともなことであって、私はそれに対してかれこれ言うことはございません。いまの質問のしかたというものも、ほんとうに筋の通った正しい質問のしかたであり、また了解のしかたである、かように私は考えます。ただしかし、一言私が申し上げたいのは、先ほど警備について手落ちがあったかもしらぬということで反省しておるということばがございました。私はそれもけっこうだと思います。しかし、常にそういう態度でおられることはけっこうでありますけれども、それが行き過ぎてしまって、不当な、過重な負担を警察官にさせるというようなことになったのでは、現場の警察官というものは非常な苦しい立場になるのではないか、こういうふうに私は思うのです。私は決してあなたの答弁が間違っていると言うのではありませんよ。また、井岡君の言われたことも正しいと思っておりますよ。決して間違っているとは思いませんよ。ただしかし、先ほどのことばの中に、反省していると言われたことは、反省はけっこうですよ、しかしそれが過重な負担を警官に与えるようなことになってしまったのでは、私は現場の警察官というものはやるせがないと思います。それは確かに争議の性質だとかなんとかいうことについての判断のしかたについては、警察にも手落ちがあったのでし上う。そういう判断というものはなかなかむずかしいものですから、わからないこともあったでし上うけれども、それはそれといたしまして、そうかといって、そういう争議があるときに、何か問題が起きたら常に警察官に手落ちがあったのじゃないかというようなことで、しかも幹部がそういうことに対して、常に、いや手落ちがあったかもしれぬから反省するというようなことばかり言っておったのでは、私は警察官がかわいそうだと思う。言われることはけっこうです。私はその答弁と質問のしかたには、むしろ敬意を表するくらいけっこうだと思うのです。そうでなければならぬと思うのですが、その結果があまりに警察官に負担を与えないようにしてもらいたいということだけを私は申し上げたいのです。現地の警察官がよく言うことは、自分たちはあらゆる努力をし、あらゆる判断のもとに行動したのだけれども、しかし常に何かというと、すぐ警察官が悪いというようなことを言われる、それは私たちにはほんとうにたまらない気持ちですということを私は現地の警官に聞いたことがあるのです。ですから、私はその答弁の中に、決して間違っているとは思わぬし、正しいと思うけれども、その点を注意してほしいということを申し上げたいのです。

 

○後藤説明員 そういうことは私どもはよくわかっておりますが、今回の問題は、やはり何と申しましても一種の自力救済の行き過ぎた形だろうと思うのでございますが、そういう形でやはり凶器などを持って一種の襲撃みたいなかっこうに出たということ、その結果、かなりのけが人も出たというふうなことでございますので、あらかじめその両者に紛議があることは承知しておったわけでございますので、何かもう少しこれを事前に察知して、そして未然に防止することができなかったかどうか、そういうことを実は私ども考えているという意味のことで申し上げたのでございまして、私は現実に大阪府警の当該の警察官がいろいろな落ち度があったとか云々ということは、これは申し上げているつもりではないのでございます。やはり一般問題といたしまして、こういうけが人が出ないような、そういうことにもう少しくふうのしかたができたのではないかというようなことを私どものほうで問題にしておりますので、そういう意味でいろいろこの事件を十分に検討いたしまして、私どもの警備に手落ちがなかったかどうか、あるいはそれがいま先生のおっしゃいますように、現場の警察官に対して非常に難きをしいることになるかどうか。それからまた、かりにそういうことであるとするならば、やはり私どもとしてはそういう事態を未然に防止したいわけでありますが、警察の現体制では、こういうことはどうしてもあのような状況下においてはやむを得ず起こるということになってしまうということになりますかどうか、私どもその点も十分検討して今後の仕事の参考にしていきたい、こういうふうに考えております。そういう意味で答弁を申し上げたのでございます。

 

○小島委員 けっこうでございます。

 

○井岡委員 私は決して小島さんがおっしゃっておることを――私は、ですから言わなかったのです。私は、その福島区という警察のところで育ったのです。ですから大阪の新東洋硝子というところがどういうところなんだということだけを言っているのです。ですから将来注意してもらいたいと言っているのです。同時に、釜ケ崎というところと事件のあったところとは、これは昼だったら一時間くらいかかるのです。しかも百何十人という暴力団を集めている。そのことが現場で確認されている。そうだったら、どこに行くか、トラックで行くわけですから、ついていかなければならないのです。私はそれを言いたくなかったから、こういうところですから、ひとつ注意をしてくださいと言っているわけなんで、そう言われると、私はそのことを言いたくなるわけなんです。ですから、そういう意味で先ほども申し上げたので、私は署長さんとも心やすいですからよく知っておりますが、場所がそういうところだから将来も起こらないと保証ができないから、しかも交番が入口にある、そういうところですから、御苦労でも十分注意をしてください、こう言っているわけですから、誤解のないようにしてもらわぬと、私も文句が言いたくなる。