43-参-本会議-31号 昭和38年07月01日

 

昭和三十八年七月一日(月曜日)

   午前十時十九分開議

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 議事日程 第三十一号

  昭和三十八年七月一日

   午前零時十分開議

 第一 職業安定法及び緊急失業対策法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)(前会の続)

 

 

○本日の会議に付した案件

 一、職業安定法及び緊急失業対策法の一部を改正する法律案(前会の続)

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○議長(重宗雄三君) これより本日の会議を開きます。

 日程第一、職業安定法及び緊急失業対策法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)を、前会に引き続き議題といたします。

 本案に対する質疑を続けます。小柳勇君。

  〔小柳勇君登壇、拍手〕

 

○小柳勇君 私は日本社会党を代表して、ただいま議題となっております失対二法の改正案に対して、総理並びに関係大臣に質問いたします。

 まず、総理に質問いたしますが、この法律改正案が衆議院に提出されて以来、数万の月雇い労働者、全日自労の諸君が、この法律改正阻止のために請願陳情に押しかけております。また先日は、ここに請願に参りました労働者の一人が、池田総理に遺書を書いて自殺をいたしているのでありますが、このような実態をいかに見ておられるか。あなたは、この法改正によって、職業訓練を施し、就職促進措置を講じ、中高年令層には失業対策事業を特別に作ってやるから、これはよいことだと考えておられるようであるが、よいことであるなら、なぜ労働者が命がけでこれに反対しているのであるか。きのう阿具根議員の質問に対して、世論もこれを待望していると二度も答えられたが、あなたの言う世論とは一体何であるか、お伺いしたいのであります。県議会、市町村議会あるいは市町村長なども、この失対打ち切りに反対をいたして決議をいたしているところがあります。その一例を私はここに読み上げます。

  これが改正にあたっては慎重な態度を望むものであります。特にわが県としては、さきに申し上げた特殊な事情を考慮し、

  一、就職あっせんにあたっては、各種社会保険、退職金など整理された安定した企業の常用的な雇用にあっせんすること。

  二、前項によりあっせんした者が再びやむを得ざる事情によって離職した場合には、優先的に失対事業に入れること。

  三、最低賃金制の実施を促進すること。本人の職業選択の自由を尊重すること。これらのことがやられないならば、わが県においては非常事態が発生する、こういう不安な情勢にあることをお訴えする。

 こういうことが決議されているのであります。こういうように、労働者自体が反対しているし、市町村あるいはそういう当事者も反対しているこの法律を強行通過させ、これを成立させようとされている総理大臣のお考えをお聞きしておきたいと思うのであります。

 また、この法律改正とILO八十七号条約批准の問題についてお尋ねいたします。ILO八十七号条約の批准については、総理みずから熱意を持っておられることに対しては敬意を表します。この八十七号条約は、労働者の団結権、団体行動権を保証する法律であります。現在全日自労の諸君が言っているように、失対二法の改正のねらいは、現在失対事業に従事している若い層と老年層と一般失対就労者の三部分に分けることである、いわゆる組織を三つに分裂せしめることである、労働者の団結している組織を法的に政府の圧力で分裂せしめる行為ではないか、こう言っているのであるが、そうすれば、八十七号条約とその精神に違反すると思うが、総理の見解をお聞きいたします。

 次に、この法律案の基本的な考え方がはたして正しいかどうかという点であります。今政府統計によりますと、完全失業者は三、四十万人を前後し、就業者の一%にも満たない状況で、この数字からだけでは、ほぼ完全雇用に近い状態にあると言えるわけであります。しかし、わが国の失業問題がほとんど問題にするに足らない状態だと考える方は、おそらくありません。現に、この法律案をめぐって、今このように大きな問題となっていることの中に、わが国の失業問題の深刻さが示されていると考えるのであります。

 それはどのようなことかというと、わが国の失業問題の特徴は、失業者が十分生活を保障する手段を持たないため、はっきり失業者の形をとらないで、生きるために、きわめて劣悪な条件のもとにでも就業せざるを得ないということであります。いわゆる不完全就業者、あるいは潜在失業者として存在するわけであります。一万円以下の賃金で働いている労働者は、現在なお六百万人おります。自営業者や家族従業者をも加えますと、潜在失業者の数は一千万人をこえるといわれております。この膨大な不完全就業者の問題を抜きにして、わが国の失業問題について語ることはできません。この不完全就業の解消を中心に据えた失業対策でないと、決して前進的なものでないと考えるところであります。いかに職業訓練や職業指導を強めて失業者を再就職させようとしても、それは現実には、膨大な不完全就業の中に失業者を再び送り込むことにすぎないという悪循環が繰り返されるのであります。また、そのことで労働者同士の競争を強め、全体の労働条件を引き下げる結果となり、すなわち、低賃金を体制的に強化することになるからであります。

 雇用審議会が昭和三十四年に行なった答申第二号、いわゆる「完全雇用に関する答申」は、この立場を明確にして、当面の失業対策の中心問題は、就業の質を改善すること、すなわち不完全就業の状態を縮小し解消していくことにあるとしております。そして、との膨大な不完全就業の存在が、失対事業の滞留などの原因となっている、そのことを明確にさせているのであります。ところが、この法律案は、不完全就業の問題を無視し、これを解消するどころか、むしろ拡大する条件を強めていると言えます。そこで総理大臣、雇用審議会の答申第二号が答申しているように、わが国の失業問題の中心は、就業の質を改善すること、すなわち不完全就業を解消していくことにあるとお考えになりますか。この点をお伺いいたします。

 また、不完全就業の強化をもたらすようなこの法律案は、ここで廃案にいたしまして、根本的にわが国の失業問題を検討して、対策を立て直す気がないか、総理にお伺いするところであります。

 次に、未解放部落における深刻な失業問題についてお伺いいたします。未解放部落の人たちにとって、その因習による身分差別のために、若年の人でさえまだ安定雇用につくことが妨げられていることは、ここで指摘するまでもありません。さらに、部落の主要な産業の破綻、零細農業の解体、手工業の衰退などによりまして、未解放部落における中高年令層の失業がますます深刻になりつつあります。これらの理由から、未解放部落の人たちにとって、失対事業が欠くことのできない生活手段になっていることは、信じて疑いないところであります。たとえば、三重県の例をとってみますと、全県下の失対就労者三千二百名のうち、その七割強は未解放部落の出身者で占められている現状であります。しかも、この中には働き盛りの三十代の人たちの比重が高いのですが、この地域での求人が、民間雇用がきわめて低いために、いやおうなしに失対事業への固定化が起こらざるを得ないのであります。このような例は、西日本のたくさんの県において大なり小なり共通の傾向であります。これらの傾向は、はたして「職業訓練や職業指導を強化する」という政府の方針で解決し得るような簡単な問題ではありません。失対問題は未解放部落において死活の問題であると言わなければならぬのであります。部落民であるために就職や結婚に不当な差別が今なお行なわれている事実、総理大臣はこの深刻な問題をいかにお考えでございましょうか。また、いわれのない差別に苦しめられてきた未解放部落の人たちにとって、失対事業が最後の生活をささえる手段になっている現状を認め、この人たちから失対事業への就労の機会を今後とも保障していくことを明言していただきたい。この点は特に重要でありますから、総理大臣に誠意ある御答弁をお願いいたす次第であります。

 また、大橋労働大臣にお尋ねいたしますが、未解放部落においてもその他の地域においても、民間雇用への再就職がきわめて困難であることが明白である場合でも、職業訓練などのいわゆる就職促進の措置を無理やりに指示することになるのかどうか、お尋ねいたします。この場合、失業多発地帯以外でも、地域の事情によって民間の安定雇用の需要がきわめて少ない場合には、失業者就労事業への就労をストレートで認めるべきであると思うが、大臣の見解をお尋ねいたします。この問題は、政府提出の法案が失対事業のなしくずし的打ち切りをねらうものであると批判された中心点であるだけに、もし政府が打ち切りでないというならば、ぜひ明確にしていただきたい。きのうの柳岡議員の質問に対して、大橋労働大臣は、この肝心な点の答弁を全く行なっておらないが、柳岡議員の質問と十分あわせて御答弁願いたいのであります。もし労働大臣からお答えがないならば、再質問の権利を保留せざるを得ないことを明らかにしておきます。

 次に、世上、スラムといわれる貧民街対策についてお尋ねいたします。

 この問題は、山谷事件とか釜ケ崎事件にも示されているように、歴代自民党内閣の大きな責任であります。これらの地域では、ほとんどの住民が不安定な仕事に従事する日雇い労働者であります。しかも、仕事が不安定な上に、住宅もないために、いわゆるドヤと呼ばれる旅館に住まっているわけであります。そのために、仕事では手配師にピンをはねられ、住宅ではドヤの親分に畳一畳一カ月三千円も取られるということが平然と行なわれております。しかも、相次ぐ物価高で、その日暮らしの生活は一そう絶望的となり、ルンペン的とならざるを得ません。この人たちは、組織を作り、団結して自分たちの生活を守り、将来に希望を持つことができませんから、どうしても一揆的に行動することによって不満を爆発させがちであります。しかも、この人たちの相当の部分は、ビル建築、道路工事などのいわゆる産業基盤を建設する重要な仕事に従事しているのであります。しかも、これらのスラム街の問題は、山谷、釜ケ崎にしぼられるものではなくて、横浜、神戸、名古屋をはじめ、日本の大・中・小都市に共通する問題でありまして、重要な社会問題であります。政府がもし失対事業のなしくずし的打ち切りを強行するならば、このスラム問題は一そう重大化し、きわめて憂うべき事態を招来する可能性があることを私は指摘せざるを得ません。政府は全日自労などの日雇い労働者の運動を敵視し、今回の法改正案も全日自労対策であるといわれているほどでありますが、そのような考え方は大きな誤りを犯すでございましょう。なぜなら、しいたげられた労働者に生活の希望を与えているのは、その労働組合そのものであります。もし政府がこの労働組合を破壊することを考えて、失対事業の打ち切り縮小を強化するならば、他方では、たくさんの山谷、釜ケ崎事件を増大させることになることは明らかであります。犯罪や不道徳が一そうはびこることも明らかであります。今回の国会内外における全日自労の運動を見ても、その秩序ある行動は数年前とは一変していることを見ていただきたいのであります。角をためて牛を殺すということのないように、慎重なる配慮が必要であると思います。(拍手)

 以上の見地に立って総理大臣にお尋ねしますが、いわゆるスラム街対策について、あなたはどのような方針を持っておられるか、具体的にお聞かせ願いたいのであります。

 労働大臣に対しましては、今回の法律改正案の準備過程において、日雇い労働者の労働組合を不当に圧迫する意図があったかに漏れ承りまするが、その点を御存じであると思いますので、答えていただきたい。特に、自民党、労働省内部にこのような意見があったと聞くが、これはほんとうなのかどうか、この問題に対する大臣の将来の方針をもあわせてお聞かせ願いたいのであります。

 また、自治大臣にお尋ねいたしますが、いわゆるスラム街対策について、自治省は地方自治体をどのように指導しておられるか、今後の方針をお聞かせ願いたいのであります。

 また、次の質問は、失対事業就労者の四割を占める婦人の問題であります。失対事業就労者に婦人が多いことが問題点の一つとされておりますが、労働省の行なった実態調査によりましても、この婦人たちが失対事業に就労するに至った理由はほとんど夫との死別または離別であり、しかもその半数以上は職業経験を持っておりません。また彼女たちの半分近くが、いわゆる母子世帯に属するものであります。これまで家計の柱であった夫を急に失った家庭の主婦が子供をかかえて生活していかなければならないことを思うとき、しかも、身につけた技術もないという中で、彼女たちの唯一の生活の場が失対事業であったのであります。母子福祉年金はわずか月千三百円にすぎませんし、子供をかかえた中年過ぎの、技能のない婦人に与えられる職場は、ほとんどないと言っても言い過ぎではございません。ここで、もし失対事業への就労を閉ざされますならば、あとは一日百円、二百円という内職をやるか、あとは生活保護しか残されておらないのであります。政府の失対制度改革案は、このような不幸な婦人たちに今大きな不安を与えているのでありますが、労働大臣に次の点について明確な答弁をいただきたいのであります。

 昭和三十七年度の公共職業訓練実施結果について、訓練を終了した者のうち婦人は一体どれだけいるか、もしわかれば、そのうち三十代以上の中高年令の婦人がどのくらいおられるか、お聞かせ願いたいのであります。これまで失対に就労した婦人のほとんどは、訓練を受けてもほとんど効果は期待できず、一律に職業訓練を行なうのは不合理だと思うが、このような人々については、直接、失業者就労事業へ就労を認めるべきではないか、あるいは一週間程度の職業指導の期間を経て、すぐ事業への就労を認めるなどの便宜的な行政措置をとる用意があるかどうか、お伺いしたいのであります。婦人を対象に家事サービスの補導を強化し、公営の家政婦会を設けて就職促進を行なうということを聞きましたが、これは今年度はどのようになっているか、お伺いをいたします。この婦人の問題はきわめて問題が深刻でありますし、この法律案が失対打ち切りであるといわれる一つの根拠でもありますから、具体的に誠意のある答弁をお願いしたいのであります。

 また、関連して厚生大臣にお伺いをいたします。母子世帯に対する社会保障の現状と、今後の改善計画についてお尋ねをいたします。

 さらに、労働大臣に質問をいたします。

 

○議長(重宗雄三君) 時間が超過して参りました。

 

○小柳勇君(続) 第一は、職業訓練を施して就職せしめるのだから、喜ぶべきだという思想があるようであるが、就職時あるいは就職後の賃金については何の決定もこの法律にはございません。現在は年功序列賃金でありますから、先に入社している労働者の賃金とどう調和せしめていくかということが問題でありますが、職業訓練をやってあと就職する者の賃金を一体どうしたらいいか、この点をお聞かせ願いたい。

 次は、現行失対法は、就職までの暫定措置という思想が貫かれております。ところが、今度の改正案によりますと、失対就労事業あるいは中高年令失対事業というのは、それ自体が永久的な就職のような思想に変化しております。そうするならば、この事業に従事する労働者に対しては、一般労働者と、労働法、労働基準法の適用が同じでなければならぬと考えるが、その点はいかがですか。

 次の点は、職業訓練は数カ月によって簡単に習熟せしめるいわゆる単純能力工の養成であるが、これをもって永久的就職、いわゆる安定した職業というならば、この人たちが低い賃金で就職したとき、現在、各職場で働いている単純工程の労働者の賃金を引き下げるか、あるいは、くぎづけにする不安があると思うがどうか。

 次の点は、現行失対事業において、機械がない、資材が少ないために仕事ができない。だから、失対事業はなまけているといわれている。だから、失対労務者がなまけているといわれる前に、失対事業にもっと機械を使い、あるいは仕事がしやすいようにすることがその対策ではないかと考え、今度の法改正によりまして二十数億円の金をこれに使おうとしているが、もしその金を現在の失対事業について機械や資材のほうに回せば、もっとなまけないで仕事がはかどって、この事業主体においても歓迎すると思うが、その点はいかがであるか。

 

○議長(重宗雄三君) 小柳君、時間です。

 

○小柳勇君(続) 次の質問は、職業訓練手当が月に一万九百五十円であります。就職指導手当が月に九千百五十円であります。失対賃金は一万七十六円であるが、平均一家族の人員構成を三・二人として、一人当たりは月に三千四百円が生計費となっております。人事院の男子一人の生計費が二万九百六十円であるといわれているが、ちゃんと政府の人事院でさえ一万九百六十円と言っているが、こういうようなことで、これで訓練が大丈夫だと、失対賃金が大丈夫だと、こういうふうに労働大臣は一体考えているのかどうか。

 次の点は、もしこの賃金をもって最低のものと考えるならば、この底辺の労働者の賃金より低い賃金というものは日本の労働者にはないはずだ。それならば、全国一律一万円の最低賃金制というのは当然もうここで実施さるべきであると思うが、労働大臣、いかがでございますか。

 次の点は、失対労務者の子供は就職しにくいといわれている。学校を出ましても、失対労務者の子弟であるがために就職できないという訴えがあるが、この点について一体どういうふうに処理しようとされるか、お聞かせ願いたいのであります。

 以上が労働大臣に対する質問でありますが、さらに厚生大臣に対して質問いたします。

 

○議長(重宗雄三君) 時間が超過しております。

 

○小柳勇君(続) さっき申し上げました雇用審議会の答申で、社会保障の充実という点で、すべての雇用者に平等に社会保険の適用がなされねばならないと書いてあります。五人未満の零細企業から離職した失業者は失業保険の適用がない、また年金制度もありませんから、非常に不幸でありますが、このような零細企業の各種社会保険の適用状況と今後の対策についてお伺いいたします。

 自治大臣と大蔵大臣に質問いたします。失業多発地帯の地方自治体は、失対事業のために財政が逼迫いたしておりまして、運営ができなくなっておりますが、この失対事業のために地方自治体の財政が困窮しているところに対しましては、特別に地方交付金その他を考えるべきであると思うが、いかがであるか、お伺いいたします。

 いま一点、大蔵大臣に御質問いたします。失業者が訓練を受ける、職業訓練を受ける、あるいは企業組合や会社を作りまして仕事をやろうとする、そういう場合に、この法律の精神に従って特別に金を融資するとか、あるいは仕事を助けてやるとか、あるいは指導をしてやるとか、そのような特別の何らかの対策を考えるべきであると思うが、大蔵大臣の見解をお伺いいたすところであります。

 以上で質問は終わりでありますが、池田総理並びに各大臣に最後に申し上げ、質問を終わります。現在の失対法並びに失対の事業について、私は完全なものとは思っていない。これはあくまで過渡的なものでなければならないが、しかし、だからといって、なぜ、当事者である日雇い労働者の諸君が必死で抵抗して反対しているこの法律を、このような混乱の中で強行突破しようとするか。失対二法のこの改正によって、失業対策が少しも前進しない。むしろきょうからさらに混乱を紛糾を巻き起こし、社会不安を助長し、社会問題を惹起することをおそれるのであります。政府の責任においてすみやかに今後の善処方を要望いたしまして、私の質問を終わります。(拍手)

  〔国務大臣池田勇人君登壇、拍手〕

 

○国務大臣(池田勇人君) お答えいたします。

 失業対策事業につきましては、従来いろいろ問題がございまして、すみやかにこれを改善すべきであるという議論は相当強いのでございます。私はこういう世論にかんがみまして、失業対策問題調査研究会に答申を求めまして、今回の案を作成したのであります。

 大体私は、今までの失業者に対しまして、ほんとうにお話のように、失業の質を改善すると同時に、また失業者のうちに入らない――入った人には従来どおりの施策はいたしますが、これがまたりっぱな職業につかれるように訓練していこう、いわゆる前向きの方法であると考えまして立案いたしたのであります。世論が支持しているのは、新聞の社説その他によって私はかく言い得ると考えております。

 なお第二の、ILO第八十七号条約との関係は、これは失業者の団体結成権とは関係がないのでございまして、私はILO八十七号条約の批准は、この国会でいたしたいと熱願しております。しこうして、この問題と今回の法案とは関係はございません。

 なお全体から申しまして、いわゆる失業者に対しましてりっぱな就業の機会を与える、これはまことに同感でございまして、また失業者でない方におきましても、私は職業の質の改善には今後努力していきたい。私のいわゆる経済成長は、こういう意味からも出てきておるのであります。

 次に、未解放部落における就職の問題でございますが、これは政府といたしましても、従来努力いたしております。

 新規学卒者に対しましては、在学中より指導訓練をいたしておりますし、また中高年令層につきましては、今回の職業安定法によりまして指導訓練をしていき、お話のような点を是正していきたいと考えておるのであります。

 なお、スラム街対策でございますが、これは問題は住宅問題等々ございますので、そういう点から施策を進めていくよう今着々手をつけております。

 また、同和問題につきましては、御承知のとおり同和対策審議会に諮問いたしまして、これが改善に努力を続けている次第でございます。

 他の点は関係大臣にお答えいたさせます。

  〔国務大臣大橋武夫君登壇、拍手〕

 

○国務大臣(大橋武夫君) お答えを申し上げます。

 第一の問題は、中直年令の失業者の就職が困難であり、再就職の当てがなく、しかも就職促進の措置を義務づけるのは不合理ではないか、これに対してどうするかという御質問でございまして、この点は昨日柳岡さんからもあった点でございます。この法案におきまする就職促進の措置のねらいとするところは、中高年令失業者等に対しまして、できるだけ早い機会に、職業訓練、職業指導等の就職促進の措置を積極的に実施することによりまして、安定した雇用の場につき得るようにするところにあるのでありまして、したがって、失業者本人も就職のための最善の努力を払うべきものであると思います。もちろん、この措置の運営にあたりましては、対象となる失業者の特性を十分に考慮して決定することとし、長期の公共職業の訓練ばかりでなく、短期速成の訓練、あるいは職場適応訓練等、いろいろな訓練方法、また雇用予約制度などを採用するとともに、訓練が不向きな失業者に対しましては、訓練ではなく、就職促進指導耳が相談に乗る、いわゆる就職指導を中心とするような措置を講じて参る等、行政運営上実情に即した配慮を行ないまして、無益な訓練を強制するようなことは極力避けるべきものであるというふうに考えておる次第でございます。

 次に、労働組合を敵視するという立場からこの法案を進めておったのではないかという御質問がございましたが、私どもは、失対労務者の労働組合が、今日まで十数年間失対事業に協力してこられました糾合の実績を十分に認めておるのでございます。もとより、従来の組合の行動につきましては、いろいろ批判すべき点はございまするが、しかし、現実に多数の失業者に援助を与えてきた事実は、これは十分に認めなければなりません。そこで、今回の改正法案の立案にあたりましても、昨日も申し述べましたるごとく、数次にわたって数時間の会談を組合代表者といたしまして、労働省の担当官も全部そろえ、また、組合の幹部も全員そろわれまして、数回にわたって相談をいたしたのであります。この相談の結果、法案の一部を修正した点もあるような次第でございます。また、今後の実施のことにつきましても、いろいろ協力をお願いをいたしておるような状況なのでございます。ただ、私どもは、従来とかく組合が、職安あるいは市役所から迷惑なような存在に見られがちでありました。この点は改善されまして、関係機関と協力して、相ともに不幸な方々を助けていただくというような精神並びに行動に徹底されることを、心から念願をいたしておる次第であります。

 第三点で、三十七年度の訓練中の女子のことはどうなっておるかということでございますが、大体、訓練には女子が三割程度入っております。三十代以上のものはどのくらいか、この点は数は不明でございます。なお、家事サービスにつきましては、本年度九千八百万円をもちまして、千六百人の訓練をいたすことに相なっております。

 次に、就職のときの賃金をどうするかという点でございまするが、就職の際の賃金は労働条件でございます。労働条件の改善につきましては、労働省といたしましては、すでにこれを労働行政の目標として考えておる次第でございます。したがいまして、就職の際におきましても、求人の条件を十分に精査いたしまして、その不適当なものはこれを改善せしめる、どうしても改善のできない場合には紹介を断わるというような方法をもって、賃金は改善をはかっておるような状況でございます。

 次に、失対事業は、今日一時的な腰かけ仕事ではなく、継続的な職業のようになっておるので、したがって、労働条件については、一般の職業と同じような考えで定めるべきではないかという点でございまして、この点は全く同感でございまして、今回の失対法の改正におきましては、就労者の能力等に見合って、土木事業以外の事業種目をできるだけとり入れますとともに、賃金につきましても、現在の低率賃金の原則を廃止して、通常の賃金を支給できるように改める。また、行政運営といたしましても、現在の失対覇業の日々紹介の制度を改めまして、計画紹介をとり入れる等、安定した雇用の場を作り出し、またこれにお世話するように推進をいたすつもりでございます。

 それから、職業訓練でわずかな期間に単純技能工を養成する、これで安定した職業につけたのだというようなことをしておれば、労働者の各職場の賃金を引き下げ、あるいはくぎづけにするような心配はないかという御質問でございますが、最近における産業構造の高度化、技術革新の進展に伴う技能労働力の需要に対処いたしますために、職業訓練の重要性はきわめて増大をいたしております。そうして訓練の種目は、技能労働力の需要にこたえて、きわめて多彩なものを用意いたしておりまして、単純技能工の養成に尽きるものではなく、また公共職業訓練を受けました者の就職状況、就職先の労働条件等は、現在のところきわめて良好でございます。

 次に、能率を上げるためには、資材、機械等を失対事業に十分に供給するほうがよろしいではないかという点でございますが、私どもは昨年この点に着目いたしまして、機械費、資材費等を大幅に増額いたしたのでございますが、しかし何分にも五十才以上の人たちが半数おり、また婦人が四割を占めるというような状況でございますから、現在のような屋外作業だけを考えるというやり方は適当ではない。したがって、この際、仕事の種類をいろいろな人々に適合するように多くいたすということが、より一そう適切であると考えた次第でございます。

 それから手当の額についての点でございまするが、訓練手当は失対賃金より二五%増し、指導手当も大体月額にいたしますと現在の失対の収入とほぼ見合うものでございまして、一応この程度でやむを得ないのではないかと思いますが、なお、今後処遇の改善につきましては、大蔵当局の協力を得まして努力いたしたいと存じます。

 次に、最低賃金の問題でございまするが、失対事業の賃金は、同一地域における類似の作業に従事する労働者に支払われる賃金の額にならって定めるものでありまして、最低賃金としての性格を持っているものではございません。したがって、この額を全国最低賃金額とする考えはございませんが、しかし、現在最低賃金につきましては、最低賃金法の運用によってこれが普及徹底をはかっております。業者間協定を建前といたしておりまするが、業者間協定で期待できない場合の最低賃金の決定をいかにするか等、いろいろ最低賃金法の実施につきましては検討すべき点がございます。これらをただいま中央最低貸金審議会に相談をいたしておるところでございます。

 次に、職業訓練終了後就職いたしました場合、現在の年功序列賃金の企業の年功者の賃金とどう調和ができるかという問題でございまするが、中高年令者の再就職については年功序列賃金が一つの阻害原因になっておることは否定できません。政府といたしましては、賃金制度の問題の円滑な処理に役立たせますために、関係資料を整備し、関係労使に提供する等の援助を行なっておりますが、職務に対応する賃金制度への移行を促進し、労働力流動の円滑化に資して参ることが必要であると思っております。ただ現在のところといたしましては、先ほど申し上げましたるごとく、職業安定所が求人条件を十分に審査するという場合に、いろいろ配慮せしめて、できるだけ適当な賃金を保障できるように努めておる次第でございます。

 次に、婦人について就職促進対策を実施しても効果があがらないので、直ちに失対事業に入れるようにしてはどうかという点でございます。婦人の場合でも、できるだけ一般の失業者と同様に就職促進措置をとりたい。その内容は、しかし家事サービス、各種の事務補助というような婦人向きの訓練をやって参りたいと思っておるのでございます。しかしながら、これも先ほど申しましたごとく、地方の実情、本人の適性等を十分に検討いたしまして、無益な訓練に強制的に押し込むというようなことは、行政運営として避けて参ることは当然であると思います。

 次に、失業者の子弟の問題でございまするが、最近の経済成長に伴い若年労働力の需要の増大は著しく、新規学校卒業者の求人は就職希望者の二倍ないし三倍程度となっており、いわゆる求人難の状態でございます。したがって、その就職状況もきわめてよく、全体としては一〇〇%に近い実績をあげており、御質問の失業者あるいは炭鉱離職者の子弟でありましても一般と全く同様でございます。(拍手)

  〔国務大臣篠田弘作君登壇、拍手〕

 

○国務大臣(篠田弘作君) 小柳さんにお答えをいたします。

 スラム街の対策について、地方自治体をいかに指導しておるかという御質問でございますが、私は、就任をいたしましてすぐ、東・東京都知事を呼びまして、スラム街の解消は目下重大な社会政策の一つであると思うが、あなたの在任中に、スラム街の解消をひとつしてみないかという話をいたしまして、昭和二十八年に私がニューヨークに参りましたときは、スラム街が非常な汚ない状態でありましたが、三十五年に参りましたときは、きれいなアパートに建てかえられておりました。私はその例を引きまして、東知事に、もしあなたがスラム街解消の意思があり、また、そういう政策を取り上げるならば、政府としてもそれに対して十分なる助成をしたいということを申しましたところ、東知事は非常に賛成されまして、自分の在任中に、ぜひスラム街の解消をしたいという、そういう約束をしておるわけであります。

 また、大阪につきましては、先般、釜ケ崎を視察いたしました際に、大阪市庁に寄りまして、大阪市長さんとの話し合いをし、東さんと同様に意見を述べましたところが、大阪市長もたいへん共鳴されまして、釜ケ崎の中に鉄筋アパートで現在のスラム街というものを解消したいということを申されました。大阪のほうは、その後、市長の改選がありまして、私のお話を申し上げました市長さんが引退されましたので、多分失業されていると思うのであります。

 それから産炭地における失業多発地帯の地方財政は、失対事業によって大幅な赤字が出ているが、地方交付税の増額等によって解消する考えはないか、こういうお話でございます。この産炭地地域の地方団体の行なう失業対策事業の財源措置といたしましては、国庫補助に伴う地方負担額と普通交付税の算定における基準財政需要額との差につきましては、特別交付税を交付いたしております。なお、石炭産業の合理化の進行に伴う炭鉱離職者緊急就労対策事業費、生活保護費、その他財政需要の増高に対しましても、それぞれ普通交付税の措置によるほか、地方債及び特別交付税によって考慮をしております。

 なお、参考のために申し上げますと、この産炭地のために交付いたしました特別交付税は、三十六年度二百七十八億円、三十七年度三百十五億円、三十八年度三百三十五億円でございます。(拍手)

  〔国務大臣西村英一君登壇、拍手〕

 

○国務大臣(西村英一君) お答えいたします。

 私に対する質問の第一点は、五人未満の零細企業に対する御質問でございますが、仰せのごとく、昨年の八月に社会保障制度審議会から、五人未満の零細事業におきましても、一般被用者と同様な保険をすべきだという勧告を受けております。御案内のとおり、現在の法規では五人未満の事業所は健康保険及び厚生年金は強制適用になっておりませんが、しかし、現在の法規でも任意包括加入の制度がございまして、行政指導によって加入させておるのでございます。御案内のように、従事員五入未満の事業所といえば、非常な零細企業であるので、非常に事業所の数も多いのでございます。しかも、経営が不安定でございまして、従事員の移動が多い。なかなか捕捉しがたいところがあるのでございまして、この制度を強制適用をするにいたしましても、慎重に検討をいたしたいと思っております。しかし、現在でも、比較的雇用状態がいい、あるいは安定しているというような事業所につきましては、任意包括加入制度を積極的に活用いたしまして、ただいまも相当数の事業所が加入をいたしているのが現状でございます。

 適用状況を申し上げますると、健康保険につきましては、政府管掌及び組合管掌を合わせまして、事業所にいたしましては六万、被保険者の数にいたしましては十七万でございます。また、厚生年金につきましても、それと同じくらいですが、昨年十月現在で、事業所は約五万、それから被保険者の数は十五万程度になっております。なお、三十八年度は、さらに行政指導でいろいろお勧めをいたしまして、従事員も含めまして、約四十万くらいな人を、この健康保険及び厚生年金に適用いたしたいと考えておる次第でございます。

 第二番の御質問は、母子世帯のことでございます。母子世帯は、その置かれている立場はまことに気の毒な方々でございまして、私たちといたしましては、十分社会保障制度を充実しなければならぬと考えております。現在でも、母子福祉資金の貸付によりまして、生業資金及び教育資金等に対して便宜をはかっておりまするが、本年はこの原資も多少増加をいたしておるのでございます。さらに、母子福祉年金あるいは児童扶養手当につきましては、ただいまこの増額の法律案を提案をいたしておるような次第でございます。施設の面につきましても、母子寮でありますとか、母子健康センターというようなものを、今年度も若干計上いたしておりますが、さらに母子世帯のこの問題につきましては、今後十分な力を入れたい、かように考えている次第でございます。(拍手)

  〔国務大臣田中角榮君登壇、拍手〕

 

○国務大臣(田中角榮君) 私に対する御質問は二点でありまして、

 一点は、先ほど自治大臣がお答えをいたしました、産炭地等の失業者多発地帯の地方公共団体に対する起債、特別交付税と財政措置についてでございます。失業対策事業費が基準財政需要額の一定基準をこえる場合には、特別交付税におきまして処置するほか、通常の補助率、登録費、事務費は三分の三、資材費は二分の一を上回わる五分の四の高率補助を行なうことといたしております。それに必要な経費といたしまして、本年度は四億円を計上いたしておるわけでございます。

 第二点は、本法によって職業訓練を受けた者が、個人で、あるいは企業組合、会社などの結成によりまして事業を始める場合、これらに対して特別融資の道を開いてはどうかということでございますが、御質問のような場合、広く国民大衆に対しまして生業資金を融通することを目的といたしておりまする国民金融公庫等の政府関係金融機関の一般貸付の仕組みの中で、十分配慮して参りたいと考えます。(拍手)

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