抗議文

講談社殿

みやうち沙矢殿

私たちは、大阪市立梅南中学校生徒会です。私たちの学校は、西成区にあります。

「勉強しまっせ STUDY8」の西成についての注釈に「気の弱い人は近づかないほうが無難なところ」と、書いてありました。

これは明らかにまちがっています。このことによって傷つく人、不安になる人がたくさんいるのです。

西成に住んでいない人で「西成は怖い所なんだ」と、偏見を持つ人がいるのです。

それだけでなく、こういうことを言われ続けたら、西成に住んでいる人の中にも「自分たちの町は、怖い所なんだ」と、思い込んでしまい、自分たちの町に誇りがもてなくなります。これがとてもイヤなんです。

だから、雑誌にこのような差別、偏見をうえつけるような記述を載せることは非常識です。

私たちは、このことにたいして強く怒りを感じます。ですから、こういう記述がある雑誌を出版した講談社と、この漫画を描いた作者に抗議します。

私たち生徒会は、何度も話し合い、全校集会も行いました。みんなに、この事について書いたプリントを配り、意見を聞きました。

もうすぐ進学する3年生の中には、「これから高校行へくのに、差別的なことにぶつかるんじゃないかと、とても不安です。」という意見もありました。

西成は、「気の弱い人は近づかない方が無難なところ」どころか、社会的に立場の弱い人もたくさん住んでいます。

いろんな人が、お互い支えあって、一生懸命暮らしているのが西成です。私たちは、そんな西成が好きだし、西成は住み良い町です。

自分たちの町を、あんな風に言われるのは、イヤです。

他の地域に住んでいる人も、そう思う気持ちは、同じではないでしょうか?

今、私たちが抗議をしても、西成に対する悪いイメージは、変わらないかも知れません。

しかし、私たちは、将来、いろんな人に西成の良さ、住みやすさを知ってもらいたいのです。

それには、自分たちの住んでいる地域について考えることが大切だと思いますし、自分たちの気持ちを知ってもらうために、今やっていることが、将来につながっていくと信じています。

私たちは、差別や偏見をなくすために、これからも自分たちの力でできることをしていきます。

どうか、西成に住んでいる私たちの思いを、ちゃんと受け止めてください。

「勉強しまっせ」のこの記述は、

西成に住む私たちに対してだけでなく、

これを読んで間違ったイメージを持ってしまった、他の地域の人たちに対しても無責任です。

今後、読者が間違ったイメージを持ってしまうようなことは、絶対に書かないでください。

そういう記述がある本を、出さないでください。

間違ったイメージを、変えるようなことをしてほしいです。それが、作者として、出版社としての責任ではないでしょうか。

今回のことをどう考えているのか。またこの後どうするつもりなのかを、はっきりとして、文章にして、返事を下さい。

1996年3月13日 大阪市立梅南中学校生徒会


大阪市立梅南中学校生徒会のみなさまへ

1996年4月15日

講談社 別冊フレンド編集部
編集長 大竹永夫

 みなさまからの(1)抗議文拝見しました。また、みなさまお一人お一人の「私の思い」と、それについての生徒会としての考え方、とりくみ方も(1)読ませていただきました

 みなさまの「怒り」や「西成への思い」の(1)一言一言が重みを持って伝わってきました。そして、みなさまがふだんから偏見や差別の問題にとりくんでいらっしゃることに(1)頭が下がりました

 それにひきかえ、私たち編集部がつけてしまった無神経で無責任な「注」が、(2)みなさまの好きな西成区の名誉を汚し、みなさまの心と誇りを傷つけてしまったことは、ほんとうに申し訳なく思っています。  

また、「これから高校へ進学するのにとても不安です」という3年生の方の声に、

西成区を知らない人たちや西成区以外の所に住んでいる人たちにまで、間違ったイメージをあたえてしまったことの責任の大きさを痛感しています。そして、そのことにこれまで思いがおよばなかったことを、とても恥ずかしく思っています。

 みなさまのご意見の中に「マンガで地名を出すことはあまりないのに何の理由があって西成のことを使うのか」というものがありました。

作者が「西成」の地名を出した理由は同封のみやうちさんの文章を読んでいただければ分かると思います。

「注」については、みやうちさんには事前にはその内容をお伝えしていませんでしたので、すべて編集部に責任があります。

ただ、作品の中に具体的な地名を出すことを反対しなかったのは、もともとこのまんがが、(3)大阪のよさやパワーやおもしろさを伝えよう、だから言葉も場所もなるべく具体的に出していこうと企画したものだったからです。

それが、こんなことになってしまつたのは、ほんとうに私たち編集部の勉強不足の結果でした。

「西成」について何も知らず、また知ろうともせず、担当者のごく表面的な印象だけで、あのようなまちがった「注」をつけてしまいました。また、私自身もそのまちがいをチェックできなかったことを心から反省しています。

今回の問題についてご指摘をうけるまで、西成区に住んでいるみなさまが、偏見や差別をなくすために、どれほど真剣にがんばっておられるかということを、私たちは、まったく知りませんでした。

また、地名を説明しようとしながら、そこに住み、働き、学ぶ、たくさんの人たちがいらっしゃるということを忘れてしまっていました。全国で売られている雑誌の編集者として、あってはならないことでした。

もちろん「知らなかった」ですむことでも、あやまってすむことでもありません。

 みなさんからいただいた「まとめNO.1−3」を読ませていただいたとき、今回の問題をきっかけに、みなさまが生徒会を中心として、何度も話し合いをかさね、意見を交換しあったようすに心うたれましたが、

なによりもこうしたことが私たちの編集部や会社の中でも必要なのだと思っています。

そしてその上にたって、(3)今後の作品作りについても作者のみやうちさんとよく話し合って考えていきたいと思っています。

また、偏見や差別をなくそうとがんばっていらっしゃるみなさまに対して、(4)私たちができることがありましたらなんらかのお手伝いをさせていただきたいと思っています

これからは、みなさまの心に残してしまった傷の事を忘れることなく、読者の方々に愛や夢や希望をあたえ、「差別」や「偏見」をなくしていく雑誌づくり、まんがづくりに努力していきます。


大阪市立梅南中学校生徒会の皆様へ

みやうち沙矢

生徒会のみなさんのご意見 拝見させて頂きました。

問題になった脚注の部分に関しては 印刷が上がってくるまで 内容を知らずにいた自分にも責任の一端はあると自責しています。

編集部の方から「こっちで脚注入れとくよ」と言われた時点で もっと不覚内容を問い質すべきでした。

この事で 自分がいかに作家として無責任な仕事をするようになっていたかという事を 痛切に思い知らされ 反省しています。

信じて頂けないかもしれませんが 私は西成という土地が好きです。

「いろんな人たちがお互い支えあい 一生懸命暮らしている町 西成が私達は好きなんだ」という皆さんの意見と同じ気持ちで 私は西成を見ていました。

6年程前になくなってしまいましたが 私はまんが家としてデビューする前から 多い時には週3・4回 少なくても週一回のペースで 

当時地下鉄花園町駅近くにあった「エッグプラント」というライブハウスに通っていました。

そこでたくさんの人達と知り合い 友達になり 一緒に過ごしました。

私の今までの人生の中で一番の思い出の場所であり 

一番”生きている”と感じる事のできた大切な場所が 西成区にあった「エッグプラント」でした。

今までにも何度も作品中に「エッグプラント」を描き 花園町の駅を描いています。

仕事でつらい事や苦しい事があったら そこでの事を思い出して 今までがんばってきました。

それくらい私にとって そこは大切な場所でした。

そして今回の主人公の兄・剛史というキャラクターも 私にとってはとても気に入ったキャラクターでした。

私の周りには昔から剛史のようなタイプの人が多く 

人との接し方や行動・言葉使いなどが多少荒っぽくても よく知ってみれば中身はとてもいい人がたくさんいて 私はそういう人達が とても好きでした。

そういう人達を集めて わかりやすいようにデフォルメして描いて行きたいと思って 作り上げたキャラクターが剛史でした。

だから彼の住んでいる場所をどこにしようと考えた時

大阪の中でも特に私の好きな場所 大切な場所に住まわせたいと思い

彼を今はなき「エッグプラント」に出演しているバンドマンと設定し 実家を離れ「エッグプラント」のある西成区に住んでいると設定しました。

好きなキャラクターを好きな場所に住まわせたい 

 それだけの考えで 「兄貴おるけど 高校中退して家出てから ずっと西成住んどるし・・・」というセリフを書きました。

私には今は引っ越しましたが 数年前まで萩之茶屋に住んでいた親しい友人がいます。

天下茶屋には好きなボクシングジムもあり 応援している井岡弘樹選手 山口圭司選手 塩浜祟選手も西成区に住んでいます。 西成区で生まれ育ち 西成をこよなく愛する 赤井英和さんの大ファンでもあります。

そんな好きな人達の話しや著書 自分が花園町のライブハウスに通って経験した事などから 私の中の西成区に対するイメージは”飾らない 人情味のある土地”というものでした。

今でもそれは変わりません。 自分がそういう考えで西成区に対する差別意識や偏見などもった事もなかったので それがそこまで大きなものとは知らず 

その事について調べる事もせずに 安易に作品の中に言葉を連ねてしまいました。

「入れ墨入れてても 高校中退していても 自分なりに生きている人は悪い人じゃない」 「西成は好きな場所、住んでみたい場所」そう考えていたので

剛史のキャラクターが西成に住んでいると書く事で 

それを「高校中退、入れ墨入れてたら西成に住むのか?」という取り方をされるとは夢にも思わず

世間一般の人がそれをどう捉えるかという所まで考えが行き届かずに

大切な思い出の場所があり 

好きな人達が暮らしている西成区に住む皆さんを傷つけ

西成区に対する悪いイメージを与えてしまうような事を描いてしまいました。

本当に謝っても 謝りきれない思いでいっぱいです。

私は自分が髪を赤く染めたり

 ピアスをたくさんしていたり破れた服などを好んで着ているだけで

世間の人から変な目で見られ 

買い物には行った店では万引するんじゃないかと ずっと側について歩かれ 

なにもしていないのに職務質問されたりして

「それは おかしいんじゃないか まちがっているんじゃないか」と思い

それを題材にマンガを描き始め 投稿し プロになった人間です。

それが仕事が増えるにしたがって 仕事と体のきつさにかまけて とにかく目の前にある原稿を上げる事しか頭になくなっていたような気がします。

これからは もう一度初心にかえって自分をみつめなおし 問題意識をきちんと踏まえて それでいて 西成区の皆さんや 全国の読者の皆さんに楽しんで頂けるような作品を描いて行きたいと思っています。

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