1993927日 府市要求
大阪府知事 
大阪市長
                 釜ケ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会  
                         (略称・釜ケ崎反失業連絡会) 
 現在の釜ケ崎(あいりん地区)における府・市行政施策の基本枠組みを規定しているのは、1966年に佐藤大阪府知事と中馬大阪市長の連名で国に提出された「スラム対策に関する要望書」並びに「労働総合施設構想」であり、それに基づいて建設・運営されている「あいりん総合センター」であると考える。釜ケ崎が単身日雇労働者中心の街へと移りかわる過程での数回の「暴動」が、行政の対応を引き出したものであるといえる。その施策が、労働者の生活環境改善に一定の役割を果たしてきたことは認められる。しかし、『青空労働市場から屋内での明るい就労あっ旋へ』というのは、単に屋根がついたというだけに留まり、実質は『相対方式ー相互選択管理方式』という公的機関の関与しない青空労働市場でしかないことは、1992年7月に起きた求人車輌焼き打ち事件が示しているところである。『相対方式』は結局、職安法の精神を踏みにじって就労に悪質な手配師・人夫出しを介在させ続けたものであり、就労機会の保障の責任から行政が逃げ出す口実となったものである。労働者が行政の窓口を嫌ったから『相対方式』となったというのは事実ではない。単に、行政の直接おこなう仕事紹介の方が、手配師が介在するよりも賃金が安かったからである。行政が、手配師・人夫出しに配慮して低めの賃金設定をして紹介をしたから労働者が嫌ったというのが事実ではないか。
 住宅についていえば、地区労働者の主要部分を占める単身労働者が生活するに充分なものがないままにきている。
 さらに言えば、1990年、1992年の「暴動」は、「あいりん総合センター-市立更生相談所」の釜ケ崎行政体制に破産が宣告せられたものであると考えるべきである。
 日本全体の高齢化問題は、釜ケ崎に一早く切実な問題として登場している。それは釜ケ崎の労働者の生活実態に規定され、政府が基準としている年齢に関わりなく「高齢者問題」として現れている。労働者の高齢化は、仕事の増減に対する対応の柔軟性を甚だしく低下させ、仕事がなくとも釜ケ崎に踏み留まらざるを得ない層を増加させる。また、これまで釜ケ崎と無縁に建設業界で働いて来た労働者の中でも、高齢により就労日数を減少せざるを得なくなった層が、アブレ手当てを生活費の補助とするために、釜ケ崎への移住を開始している。さらに、政府の高齢者対策の不十分さから、生きる手立てをわずかに釜ケ崎に求めて来る人々も一層増加する。それらの現象は、政府の高齢化対策対象年齢ボーダーライン問題の釜ケ崎集中化現象とも言うべきものである。釜ケ崎は今後より困難な課題を抱えることになると予想される。
 以上の認識に基づき、以下のことを要望し、誠意あり、且つ実のある回答を要請する。
(外国人労働者も今以上に厚い層をなして釜ケ崎に定着することになると思われるが、それについては別途要望書を提出する。)
要望の事
A・長期的課題
①府・市連名で国に対し、「釜ケ崎総合対策に関する要望書」を提出されたい。
 本来、釜ケ崎日雇労働者の存在は、日本全体の経済や政府の政策に起因するものであり、大阪府・大阪市の二自治体だけが責任追求され、財政負担して対処しなければならないものではない。また、現行行政制度では運用上問題に対応しきれない面もある。よって、現状内での精一杯の問題解決へ向けての努力を前提としつつ、より根本的対処にむけて国に責任を取らせる要望書が提出されるべきである。
 そのために、府・市それぞれに諮問機関を設置されたい。なお、諮問委員メンバーには釜ケ崎現地で活動する団体から推薦されたものを必ず含め、府・市で調整した上それぞれの諮問委員メンバーの半数以上は意見調整を容易とするために府・市両諮問委員会兼任となるようにすること。
B・緊急課題
①日雇労働者の就労保障制度を確立されたい。
 これまで日雇労働者の就労可能性は、景気の好・不況や季節によって大きく左右されるがままに放置されてきた。しかしながら、日雇労働者の存在が皆無になるということはこれまでなかったし、これからもありえないであろう。そのことは、日雇労働者の存在が現状の日本社会では欠くことのできないものであることを示している。であるならば、景気の好・不況にかかわらず、一定数の労働者が安定して就労できる制度を設け、層としての日雇労働者の社会的認知が高められなければならない。それは、業者を啓蒙してなされるのではなく、公共事業落札業者への吸収率の義務付けなどの実効性のある規定を設けた制度として実現されるべきであると考える。             
  日本社会に必要があって存在している日雇労働者の就労保障制度を早期に確立されたい。
 具体的には、すでに第一次石油危機当時より東京都で実施されている、公共事業への日雇労働者吸収制度ならびに福岡県のものを参考に、「あいりん職安」に紹介窓口を開設し、府・市発注の公共事業への日雇労働者就労保障制度を実施すること。
②あいりん職安南分室の現在の職務の上に、次の機能を加えられたい。        
 イ・軽作業紹介窓口を開設されたい。
 軽作業紹介窓口は登録制、且つ輪番制とし、発足当所において最低一日五百人分の職業紹介を確保するよう努めること。その後、登録数に応じ最低二日に一度就労保障できるよう大阪府が府下自治体へ協力を要請し、求人数の確保に努めること。賃金日額については、現行雇用保険一級印紙貼付を目標とすること。各自治体などでの就労の場合、雇用保険印紙貼付については、スタンプ代用などを考慮すること。    
 ロ・分室敷地に高齢労働者支援センターを建設、以下の業務をおこなうこと。
 ○自分たちで就労先を開拓し、仕事を回しあっている労働者グループについて、事務 ・連絡場所を提供し、小なりといえども企業活動となるように援助・育成する。 
  ○内職的共同作業場を設け、運営をおこなう。
  ○年金その他社会福祉制度活用についての相談業務。
  ○仕事以外での社会参加の可能性を広げるためのボランティア養成講座など、高齢労働者の能力拡充のための成人学級の運営。
③毎年、繰り返される梅雨時期(四月ー七月)と年末年始の仕事減少については、特出し(特別就労事業)をおこなうこと。
④白手帳(雇用保険日雇労働被保険者手帳)の運用について
 イ・新規発行については、制約をもうけることなく、交付を申し出たものに対してすみやかに交付すること。
 ロ・傷病・労災などの事情で窓口に出頭することができず、手帳更新時期を逸したものについては、再交付扱いとせず、通常の更新扱いとすること。
 ハ・「不都合」により「罰金」を請求される立場にある元手帳保持者については、職安が被った実害のみの請求にとどめ、「罰金」部分請求は猶予すること
⑤健康保険(日雇特例被保険者)制度について
 イ・「みなし」適用における休業保障の等級を引き上げること。
 ロ・現行制度では健康保険印紙を貼付しているものでも、一度入院などで健康保険印紙が貼付できない状態になった場合、再び働いて印紙を貼り被保険者の確認を受けるのは三月目からになる。その間は、無健保状態となる。例えば、一ケ月毎に健保の資格確認をうけているものが、胃カイヨウで一ケ月入院したとすると、退院後には健保の資格がないことになり、歯医者にもいけなくなる。
 これは制度上の不備であり、休業保障受給停止後二ケ月については、無条件に資格の継続を認めるー確認スタンプを押すー措置をとることとされたい。
⑥単身労働者用低家賃勤労者住宅を地区内あるいは隣接地に建設すること。
⑦大阪市更生相談所条例を見直すこと。
  施設収容第一主義を改め市更相相談受付者についても、簡易宿泊所を居所とした居宅保護の基準を加えること。
⑧「ホームレス・シェルター」を設置すること。
 緊急的に、南海電車天下茶屋線跡地に越年臨泊並のプレハブ二棟を建てること。
 設置にいたるまでは、現地野宿者援助活動団体に補助金をだすこと。
⑨「越年対策」のありかたを見直すこと。
 イ・あいりん職安は年末年始においても業務をおこなうか、あるいは、一二月末日に翌年一月について受給資格が確認できる者については、職安休日分について前払いの特例措置をとること。
 ロ・臨時宿泊所の設置場所を地区隣接地に求めること。
 ハ・大阪府においても状況の正確な把握を期すために、職員を派遣・常駐させること。
⑩釜ケ崎労働者が「技能士」の資格を持つことのできる道を開くこと。
 技能士養成講座・職歴の代替証明の発行など
⑪なお一層各種工事への日雇労働者吸収を図るための努力をおこなうこと。
⑫現在多数の野宿者が存在することの行政責任について明らかにすること。

 原因と対応について、

⑬本要望書について、現在開催されている議会に提議されたい。
⑭本要望書について、10月15日までに、話し合う場を設定されたい。

                                   以  上

1993年9月27日