ユートピアへの途 M.ブーバー 長谷川 進・訳 理想社

195910月第一版第一刷「もう一つの社会主義」・1972130日改訳第一版「ユートピアへの途」

序言

 本書は、マルクスおよびマルクス主義者たちによって名づけられた「空想的社会主義」の思想、とくにその、社会の細胞組織を更新することによって社会を更新するという要請を発生的に叙述しようとする意図から生れた。私が目ざすのは、理念の発展の跡を概観することではなく、発展してゆく理念の像を描くことである。このような像を描くさいの基本的な問題は、絵画を描く場合と同様に、何を省略すべきかということである。そのために夥だしい資料のなかで理念自体を考察するのに本質的なものだけが適切であるように思われた。重要なのは個々の通路ではなく、ただそれらの通路がいつもそこに通じている一つの大きな進路なのである。精神史の流れのなかから理念自体が私たちの前に現われてくることである。
 しかしもっと狭い、いま一つの眺望をも開かなければならなかった。それは、理念を実現しようという、大胆ではあるが困難な実験のことである。そうした後で初めて、構造的更新の理念にたいするマルクス主義の理論的および実践的関係、初めの章では手引的にただほのめかすことしかできなかった関係を批判的に説明する場所が与えられた。それについで、私が直接それを知ったことが、本書を書くきっかけとなった一つの実験について述べなければならなかった。私は、当然のことであるが、この実験を詳細に説明もしなければ報告もしないで、ただ失敗しなかった一つの実験として、この理念との内的関連を明らかにした。
 終りの章で、他の個所ではただ言外に示すことしかできなかった、この理念にたいする私自身の態度を要約した。なおまたこの理念が現在の世界的な決断の時機に対してもつ意義についても言及しなければならなかった。
 本書は1945年春に完成し、その翌年ヘブライ語版が出版された。
1950年春 エルサレム  マルティン・ブーバー
目次
序言
1 概念(社会の構造的更新の理念)
2 事実(社会主義におけるユートピア的要素)
3 先駆者たち
4 プルードン
5 クロポトキン
6 ランダウアー
7 実 験(1)実 験(2)
8 マルクスと社会の更新
9 レーニンと社会の更新(1)レーニンと社会の更新(2)
10 もう一つの実験
11 世界危機のさ中で
訳 註
解 説